Episode 7休憩の時間
「ここは、どこ・・・私は死んだはずだけど・・・」
私は見知らぬ部屋のベットで寝ていた。
ここは私の部屋ではない、ではどこなのだろうか・・・?
体を動かそうとすると結構な激痛が走り、動かすのをやめて、天井だけを眺めることにした。
天井は何かがあったところを、徹底的に漂白したかのように、気味が悪いほど真っ白い。
天井の真ん中には電球が設置され、LEDの白い光は部屋中を照らしていた。
これだけ見れば病院とも捉えられるかもしれない、真っ白い天井に、白い光を放つLED電球は病院の情景と類似しているはずだ。
しかし、ここは絶対に病院ではないと断言できる、理由は簡潔に言えば、窓がないのだ。
窓から入ってくる太陽光は、生物が生活を送るために必要な物質を、私達の体に届けてくれる。病院であれば絶対に窓がなければおかしいのだ、窓がない部屋というのも変だが、そういう部屋もたまに存在するらしい。
私は周囲の様子を探ることにした、痛みで軋む肉体を精神で押さえつけ、上半身を持ち上げ、周りを眺める。
見れば見るほど異質な部屋だ、壁は完全に白で染まり、観葉植物は光合成をしないのに置かれている。空気は重くなく清浄だが、それが機械で造られた空気だと私に教えてくれる。
ベットは私が寝ていた、この1つしか置かれていない、ベットの前の壁には壁掛け型のディスプレイが設置されていて、本当に病室に近いな、と自虐してしまった。
私は直近の記憶を思い出すことにした。そうすれば何故ここにいるかを説明できると思ったのだ。
「確か・・・私はあの白人の軍人に、後ろから首を絞められ、死んだ・・・と思ったはずだけど」
声に出すと怒りがぶり返してきたが、必死に堪える。
「今私が死んでいないということは、軍人が気絶までにとどめてくれた?」
そうとしか考えられない、だが頸動脈を絞められ、私は結構な危険状態に陥ったはずだ。
そして私の頭の中には、もう一つの選択肢が浮かび上がっていた。
「まさかシンクが・・・いや、それはないか」
自分で言っていて笑ってしまうようなバカバカしい推測、本当だとしたらシンクに感謝してもしきれないのだが、あのシンクがそんなことをするだろうか・・・?
ほぼ会話したこともなく、一方的に話されただけだが、それでも分かる物がある。今回のバトルロワイアル自体にシンクはさほど興味を持っていないはずだ、まぁ私の根拠もない推測だが・・・
『あ~もしもし、皆のアイドル、シンクでーす!』
ディスプレイに現れたのは、2度目のシンクの顔だった。
私は驚いたが、癪なので顔には出さず、平静を装った。
皆のアイドルというのは、容姿からみれば合っているのかもしれないが、立場からするとあっていないような気もする。
『瑞樹ちゃん、1st seasonお疲れ様~、あの軍人にやられた時は冷や冷やしたけど、私のおかげで助かって良かったね~』
私の当たりやすい推測が外れた。そのことに少しショックを受けながらも、内容をかみ砕いていく。
シンクは基本的に無干渉だと思ったのだが、違うらしい。さらに常に監視も行っているようだ。
『テレビ電話みたいなものだから、瑞樹ちゃんも話してOKだよ、5分ぐらいしか時間が取れないから早くして』
質問をしてもいいらしい、私の疑問に答えてくれるかは別だが、聞くだけタダなら聞くべきだろう。
「私がいるのはどこ?」
最初にする質問は私の居場所だ、私がどこに居るか分からなければ、行動しようにも行動できない。
『瑞樹ちゃんがいるのは休憩場所、1st seasonと、2nd seasonを繋ぐプレイヤーの休憩所。他のプレイヤー235人は全員2nd seasonに進んだけど、瑞樹ちゃんは意識を失ってたのと、私が話したかったからここに残しちゃった。あと三日ぐらいはそこにいても大丈夫だよ。で、次は?』
シンクはしっかりと質問に答えてくれるようだ。しかし、他のプレイヤー235人というのは気になる、半分弱の人が1st seasonを生き残れなかったのか。
「seasonって何?1st seasonとか2nd seasonとかどういう意味?」
seasonは季節を表す単語だ、節目などを表すときにも用いられるが、そっちは一般的ではない。
『seasonっていうのは、バトルの種類の事、1st seasonは一対一だったけど、2nd seasonはグループ戦。すぐに知ると思うけど、グループで戦うだけじゃなくて、知恵や知識も必要になってくるから、頑張ってね~』
おちょくっているようだが、シンクは様々な戦闘を経験させようとしているようにも思える。しかし、それはなぜなのだろうか?
「異能って何?、あなたが私に話しかけてきた理由は?あなた達の目的は何?」
一気に疑問が洪水のように流れ出てくる、私には膨大な数の疑問が在ったが、それら全てを答えてくれるわけにはいかないだろう。この5個が最も大きい私の疑問だ。
『異能は超能力みたいなものって、前に言ったはずだけど・・・エレメント系とか、クリエイト系とかエスパー系とか、そういうことを聞きたいの?』
元素系、創造系、精神系異能によっても種類があるらしい、直訳しただけだから正解かどうかは分からないが、異能の新情報というのは、聞いて損することではない。
『私が瑞樹ちゃんに話しかけた理由は・・・まぁ興味があったってことで、銃の異能っていうのも気になるしね?』
何かはぐらかされたような気がする、もっと重要なことを隠すために、わざとそう言っている可能性もあるわけだ。
『目的かぁ・・・私の目的は教えてもいいんだけど、キングの目的は教えられない。まぁ3rd seasonまで生き残れたら考えてあげてもいいけど・・・・・・じゃぁそうだっ!瑞樹ちゃんには生き残る目標をあげる、人間は目標を失うとやる気がなくなっちゃうからね!』
私に目標とは・・・・・・私は別に100億円も必要じゃないし、生き残ることが最大の目標というわけでもない。
『瑞樹ちゃんには、両親を助けるっていう目標を上げる。瑞樹ちゃんの両親を救うには、瑞樹ちゃんが生き残って、バトルロワイアルを勝ち抜かなきゃいけない。ねっ黒川光康と黒川蓮花の子供の黒川瑞樹ちゃん!』
プチッ
そして、ディスプレイは元の漆黒へと戻った。
私は眼球が飛び出そうになるほど目をひん剥き、頭が蒸気を上げるほど脳を高速で回転させていた。
私の脳内にあるのはたった1つの目標だけ、それは『両親を助ける』というものだった。
黒川瑞樹、休憩場所『STAY』
Save parentsでも良かったかもしれません。