Episode 6シンクによる監視
2nd seasonに行くまでの繋ぎです。
暗い闇、というのには語弊がある。部屋は無数に存在するモニターのLEDの光と、その他の機械の赤や緑の点滅するランプによって彩られている。
誰が見たって奇妙に思うその部屋には、まず窓がない。
もともと設計上は存在するはずなのだが、窓はその存在を消され、部屋を明るく照らすはずの太陽光を、室内に届けることはない。
天井には空調が整備され、パソコンが放つ熱を吸収し、室内の空気を正常に保っている。
点くはずの照明は全て消され、使われることのない電球は取り換えられることもなく、寿命が終わるのを静かに待ち続けている。
壁には音を吸収する素材が使われていて、パソコンの大量の排熱音を消し、外へ全く音を漏らさない。
無数のモニターには戦闘画面が映し出され、それぞれの戦闘を記録していた。
モニターではそれぞれがそれぞれの力で、必死になって戦っている様子が、映し出されているのだが、そんなことを気にするわけでもなく、回転椅子に座って一つのノートパソコンに向き合うのは、この部屋の主であるシンクだ。
シンクはモニターをちらりとも見ず、数分前に行われていた戦闘についてを纏めていた。
部屋には機械の配線や、シンクが『食糧』と呼ぶお菓子のゴミなどが散乱していて、見るも無残な状態だが、それは床だけではない。
シンクがノートパソコンを置き、現に作業を行っている机だが、ノートパソコンの周囲にはポテトチップスなどの菓子類から、サイダーやぶどうジュースなどの飲み物までもが乱雑に置かれ、作業中に摘まんで食べることも珍しくないため、ほとんどの物の封が切られていた。
「やっぱりエレメント系は弱いですね、単純な炎や風ならまだ使い道があるんですけど、水とか闇とかは使い道が限定されるうえに、あんまり強くない」
シンクの独り言は音を吸収する素材に吸収され、すぐに消えてしまう。
その間にもノートパソコンは、凄まじいスピードで字を打ち込まれている。
「だけどクリエイション系は自由度が利きすぎていて、逆に面倒くさいはずなんですが、やっぱり武器が生み出せれば強いか。武器が生み出せなければゴミだけど・・・でもクイーンの様には行きませんよね」
シンクはノートパソコンで、何かグラフを作っているようだった。
グラフは系統によって分かれ、それぞれの生存率を表しているようだった。
「やっぱり私が確認しないとダメですね、AIに任せるのは良いですけど、やっぱり私がやらなきゃいけないことは自分でやらないと、だらけきっているだけじゃバカになってしまいますからね」
世の中の人間が皆だらけているような発言だが、シンクのタイピングの速度を見れば、それは簡単に理解できるだろう。A4の紙1枚が僅か数十秒で埋まっていくのだから、いくらグラフだとは言え、人間を超越している圧倒的な速度だ。
「キングもなんでこんな面倒臭い真似をするんですかね?異能を与えて適当に放置したら勝手に成長してくれると思うんですけど・・・まぁあのキングが決めたことなら異論は挟めませんがね・・・・・・」
姉たちのキングloveな考えに、こんな発言したらぶっ殺されますから、絶対に言えませんが・・・とシンクの言葉は続いたが、それを聞く人間も意見を述べる人間もこの場には存在しない。
シンクは上から数えて8番目なので、6人の姉がいる。姉妹というのは恐ろしいもので、簡単に言い争いから殺し合いにまで発展する。
もちろんキングが止めれば、それまでなのだが・・・
不意にモニターが全て黒くなった、シンクもノートパソコンから顔を上げて、モニターを眺める。
『予定通り進んでいれば、1st seasonが終了した頃合いだろう。既に異能が受け継がれてきている場所もあり、私はある程度満足している』
突然モニターに現れたのは、1人の男だった。
男は鮮やかな金髪で、頭には王冠を冠っている。
金の椅子に座ったその男は、シンクの見知った顔だった。
『突然連絡をしてすまないと思っているが、まず最初に本題へ入る。これからは異能を強力な物へしてから殺せ。異能が成長しなければ、この計画は無駄に終わる。』
シンクは内容に顔を少し顰めたものの、すぐに話の意図を読み取りにかかった。
数秒後にはキングの意図に気づき、笑いをこらえるのだがそれは別の話だ。
『何人かは気づいているようだが、異能は成長しなければ意味がない。弱い異能を大量に集めたところで、強力な異能には絶対に勝てない。これが世界の法則であり、私の見解だ』
世界の法則に追加で私の見解というのを入れたのは、姉妹の何人かに対する牽制だろうとシンクは考えるが、もちろん見当違いな推測をしている可能性もあった。
『我々の計画は途方もない物だが、決して間違った方向へ進んでいるわけではない。絶対に成功させるためには、この段階でつまづいているわけにはいかない。あの日誓い合った約束を果たすために我々は行動している。方法は任せるが絶対に失敗するなよ、特にセブンは要注意だからな』
シンクは学校の先生みたいな発言だなとは思ったものの、シンクは学校に通ったこともないし、学校の先生を見たこともない。ただ知識として少しだけ知っているだけだ。
「方法は任せるって言ってたし、次はグループ戦でもやろうかな?っとその前にあの͡娘とも会話してみたいけど・・・それは最優先じゃなくてもいいや」
やろうかななんていう不確定な発言をしながらも、1つのモニターにはグループ戦の戦場が表示されている。
「う~ん、赤は攻撃、青は敏捷、黄は防御、緑は・・・どうしよ?・・・まぁバランスでいっか、プレイヤーにはあんまり関係ないし、やっぱり様々な戦いをすれば、それによって異能も伸びるはずっ・・・半分ぐらい処分しちゃうのはもったいないけど、まぁ4分の1が強くなったらいいよね、それか敗者復活戦でもやるか?」
シンクの独り言はどんどんと増えていく、モニターも戦闘している画面はほとんどなくなり、休憩をしている画面が9割を占め始めた。
シンクは右手でパソコンを、左手でノートパソコンを操り、様々な機能に指示を出していく。
シンクの忙しさはこれからが佳境を迎えることとなる、AIに全部を任せてもいいはずなのだが、シンクは手作業にこだわっていた。・・・理由は誰にも知れることはない
そしてモニターの光は途切れることなく、室内を照らしていた。
シンク、観戦室『WORK』
キングやクイーンなどの気になるワードが出てきましたが、これらは後々で登場するので、一応覚えておいてください