Episode 5軍人
私は第1戦目と第2戦目の相手と同じように、地面に倒れている。
私は必ず勝たなければならないのに、どうしてこうなったのだろうか?・・・いや、原因は分かりきっている、私がミスをしたからだ、いや敗北がミスの所為だったのかはわからない。もうなにもかもどうでもいいような気すらしている。
私は死ぬだろう、訓練を受け、鍛錬を積み、技を受け継いだ軍人に敗北する。
それらは、どれも私にはない力だ。
平穏な日常で暮らしてきた私には、考える頭はあっても、危険に身を犯す勇気はない。
日本の軍隊は自衛隊しかいない、自衛隊は自分たちの国を守る力はあっても、攻撃を仕掛けることはしない。なぜならばそれは無駄なことだからだ。
攻撃しても、それ以上の軍事力で攻撃されれば、ただの島国である日本は、一貫の終わりとなるだろう。
しかし米軍であれば、自分で思考し、行動することができる。軍事活動も積極的に行うことができる。
そこが日本とアメリカの違いだ。
そうなると私と、この日本語を喋る白人の軍人は、まさに日本とアメリカの縮図そのものだろう。
こちら側が一方的にやられるのも、こちらが武器を握っているのに、相手の方が強いのもそうだ。
軍事的にも現在の状況的にも、それは残念ながら同じだ。
「This is the end, Noisy lady.」(これで終わりだ、物騒なお嬢さん。)
頸動脈を絞められ、私の意識は薄れていく。英語を翻訳した私は、その内容に儚く笑った。
「What a bad aftertaste battle, but with this I ...」(なんて後味の悪いバトルだ、だがこれで俺は・・・)
そして、私は死んだ。
先ほど生み出した拳銃は、カコンッという音を立てて、私の手の中から落ちて転がった。
そして私は第3戦へと足を進めた。
扉の向こうにはやはり人がいるようで、暇つぶしに歌っている英語の歌が、この場所にも聞こえてきた。
歌の英語はとても上手く、ネイティブな喋り方を、私は確実に外国人と認識した。
外国人であれば、こういうバトルに手慣れているかもしれない、などと警戒しながらも、扉を一気に開ける。
「Oops, the door opens suddenly ... but is it the last battle, or who is your opponent?」(おっと、ドアが急に開くなんて...だが、これが最後の戦いか、それでお相手はどちらさんかな?)
部屋の中にいたのは、軍人だった。
迷彩色の軍服を着こみ、少し焼いた肌が特徴的だ。
それはアメリカであれば、たまに見かける格好だろう、しかし日本でその恰好をすれば、コスプレ好きにも捉えかねられない。
私はその恰好から、軍人というあだ名をつけた。当然心の中でしか呼んでいない。
何かを英語でまくしたてられたが、ただの高校生には理解できない。私はもちろんただの高校生なので、ほとんど理解できない。
「Is it Japanese or after all Japan? ... And she's a woman and she's a student」(日本人か、やっぱり日本だからかね?・・・しかも女で、さらに学生かよ)
今度はジャパニーズやウーマンなどの単語を聞き取ることは出来た。
軍人は命令を聞いて動き、命令に背かないことが重要視されているはずだが、このチャラそうな白人はどうなのだろうか?
私は軍人が武器を持っていないことを願って、銃口を向ける。
「Hey, recently in Japan, do students carry guns?Don't you know English? I can't help speaking in Japanese」(おいおい、近頃の日本は、学生が銃を持ってんのか?英語はわかんねぇよな?仕方がない日本語で喋るよ)
長文の読解は紙とペンがなければ難しい、それは私だけでなく全国の高校生も同じだろう。
白人の軍人は、訳が分からないといった風に、ボディランゲージを使った。
「え~と、ハロー。俺は見ての通りソルジャーだ。おっと名前を聞くなんて無粋な真似はしないさ、それで、なんで銃を持ってるんだ。」
途中までは優しそうな声だったが、途中から威圧するように声を重くした。
私は自分の異能をできるだけばらさないように、問いに答える。
「私の異能が創造って言って、武器を生み出せるみたいだから、思いつく最強の武器を創ったの」
少し声が震えてしまったが、信じてもらえるだろうか?
「クリエイションとは凄いね、俺の異能と交換してほしいよ」
別にクリエイションではないのだが、信じてくれたらしい。
「だが、それとこれとは話が違う。俺は生き残って一億ドルを手に入れたいんでね、ナイフは使わないが、少しの痛みは覚悟してもらう」
やっぱり好戦的らしく、シャドーボクシングのように拳を振るう。
ナイフは使わないらしいが、軍人で鍛えられた筋肉で殴られただけで、私は何メートルも吹っ飛び、気絶するだろう。
私は拳銃を撃つが、キビキビと動く軍人は、麻酔弾を避けた。
軍人とはいえ、人間だと考えていた私にとって、軍人が銃弾を避けたのは、衝撃的な出来事だった。
気配が常に変化し、掴みずらい。撃っても避けられたり、攻撃がしにくかった。
私の異能は超攻撃特化型だろう、銃で守ることは出来ないし、銃で移動することもできない。そんな私だからこそ、攻撃が利かなければ為す術が無くなってしまうのだ。
数分後、私は首を掴まれ、持ち上げられていた。
もちろん勝利したのは白人の軍人で、敗北したのは私だ。
「すまないな、手荒な真似はするつもりはなかったんだが、銃器を持ち出されたんじゃ、こっちもこれぐらいしないと、こっちがやられちまう」
「うっぐ・・・まだ、負けてない!」
そして軍人は手に力をかけ、私の首を絞めていった。私は最後の抵抗として、両手に拳銃を生み出した。
バンッッバンッ
銃弾が銃口から飛び出し、真っ直ぐと軍人へと進んでいき、軍人に当たったものの、軍人の体は少し吹っ飛ぶだけに留まった。もちろん麻酔弾ではなく、実弾である。
「・・・防弾ベストを着ていてよかったぜ・・・なんて危ない真似をしやがる。もう絶対に容赦はしない」
そうして私は頸動脈をしっかりと絞められ、意識を失った。
黒川瑞樹、第3戦『LOSS』
これで
1st seasonは終わりです。
まだ章は続きますが、瑞樹のバトルは一旦終了です。
彼女にはしっかりと休養を取ってもらいましょう。