Episode 4‐2 続【2倍】の異能
計算を終えた。
これが最善の方策だと思う。
思うというのは確証がないからだが、どれだけ押そうが、どれだけ引こうが、これ以上の策をひねり出すことが、私の頭には出来ない。
計画はシンプルではないが、それほど難しすぎるわけでもない。的確な時間に的確な行動をすれば、この計画は失敗しないはずだ。
しかし、失敗というものが付きものなのが、人間という生き物なのだが、私に失敗することは出来ない。
私は震える指をほぐすため、心の中で自分に暗示をかける。
「チェック――です」
そして私は少年に聞こえるか聞こえないかぐらいの小声でそう言う。
私は、先ほどまでいた扉の中から体を乗り出し、銃を構える。
そして引き金に指を伸ばした、少年は私の行動につられたのか、氷のナイフを構える。
そして少年は口角を上に上げ、ニヤリと笑った。
パンッッパンッッ
私の拳銃が一瞬で2度、火を噴いた。薬莢も2つ、カランカランという音を立てて、床に転がっている。
銃弾は少年の体を貫くかにも見えたが、避けられて、かすり傷を負わせるだけにとどめた。
「危ないなぁ、銃は危険だっていう意識がないの?」
かすり傷をさすりながらも、バカにしたような声を浴びせてくる。
銃弾を避けられる人間が言っても、全く心に響いてはこない。
さらに少年の言葉によって、強い怒りを感じたが、私は自分で怒りの感情を制御し、怒りに任せて攻撃するのを抑制した。
銃を撃つのをやめた私に攻撃してこないほど、彼は甘くないだろうし、私もそんな甘い考えは持っていない。
私は扉から勢いよく飛び出し、制服が汚れるのも構わずに床にゴロゴロと転がった。
私も策なく飛び出し、近づいたわけではない、少年も近距離で銃弾を撃たれれば、少年もただでは済まないはずだ。しかし、近づくことによって攻撃されやすくなるというのも事実なので、転がって攻撃を受けないようにしている。
私は壁にぶつかったので、転がるのをやめた。
私が来た扉から見て、右側の角に私は着いた。私はすぐに銃口を向け、急な攻撃に備える。
ふらつく視界の中で揺れていたが、確かに少年は驚いていたように見える。
「わぉ!おねぇさんやるぅ、でも扉の中から出てきたってことは、負ける心構えはできたってことでいいよね?」
「私は負けるわけにはいかない、どんな手を使ってでも必ず勝利してみせる」
「ふ~ん、でも僕が勝つよ、絶対にね!」
私はこんなところで野垂れ死ぬわけにはいかないのだ。
少年は横にジャンプを何回かした後、どんどんとスピードを上げて迫ってくる。
右手には刃渡り20センチほどの氷のナイフが握られていて、そのナイフは少し融けていながらも、鈍い光を放っていた。
ナイフが体に当たれば、私の制服は簡単に斬り裂かれ、鍛えていない体は痛みに悲鳴を上げるだろう。
ただし、少年が一直線に向かってくれば、対策は容易だろう、真ん前に向かって銃を撃てばいいのだから・・・・・・しかし、そううまくは進まないのがこの世界で、そんなことをしても、絶対に避けられてしまうだろう。
少年の回避は異常と言っていい、いくら少年のスピードが素早いからと言って、今までの全ての銃弾を、そこまでの怪我を負わずに避けきるというのは、確率的に言って無理があるだろう。
確率は収束するものだ、3発の銃弾がすべて外れるというのは、少年の勘が鋭いからというのもあるだろう、勘が鋭いならば計画に支障がないどころか、計画を大きく助けてくれる鍵にもなるだろう。
徐々に近づいてくる殺意に対し、私は角の上の方に銃口を向けた。
私が諦めたようにも見えるだろうが、はたしてどんな反応をするのか?
「おねぇさんの銃弾は跳弾しない、そんなところを撃ったって無駄だと思うけど・・・」
やはり、跳弾しないことを知られていた、私は拳銃の引き金を引いた。
バンッッ
銃弾は角の壁にぶつかり、跳ね返った。私はニヤリと笑い、銃弾の経過を見守る。
ゆっくりとなった視界の中で、銃弾は角の壁にぶつかって、上に上がる。
天井に当たった銃弾は私の計算通り、向かってくる少年に向かって突き進んでいく。
私は少年の方に向き、笑い顔を見せる。そうすると、少年は怒りの感情をこちらに向けてきながらも体をひねり、銃弾を避けた。
銃弾は少年の顔にかすり傷を与えたものの、致命傷を与えるわけではなかった。
しかし私は、私の計画通りになっていることを、心の中でほくそ笑んだ。
「跳弾しないのは嘘だったなんてね、でもさっきまでは跳弾してなかったし、弾の種類を変えられるのかな?」
少年は服の汚れを払いながらそう言った、服の汚れを払い終わった少年は、もう一度こちらに向かってくる。
私は左手を服の後ろに隠し、後ろのポケットからもう一つの拳銃を取り出した。
「チェックメイト、です。」
私は右の壁に銃口を向け、しっかりと計算した場所に、時間引き金を引く。
バンッッ
私は銃の引き金を引いた。
壁に向かって真っすぐに進んでいく銃弾、少年の頭の中には銃弾が跳弾する確率と、跳弾しない確率の二択が存在しているはずだ。
人間というものは一度危険を認識したら、それがどんなものであれ、絶対に警戒する。
そして私の計画通り、少年は避ける動作をした。空中で避けるのであれば、彼は素早い移動ができなくなる。
私はそれを見切っていたので、左手を握った銃と共に前に出し、少年に銃を向ける。
そして麻酔弾の最後の一発を、移動できない少年に向かって、引き金を引いた。
バンッッ
麻酔弾は無慈悲に少年に向かっていく、少年は恨めしそうな表情をしたものの、銃弾が腕を貫いただけだったので安心したのか、すぐに余裕の表情を見せる。
「あっれー、外しっちゃったね~・・・おねぇさんの作戦はこれで終わり?」
煽ってりながらも、少年は体勢を整え、銃を警戒しながらもそのまま向かってくる。
それに対して、私は口角を引き上げ、右手に持った銃を向ける。もう勝ち負けは決定しているが、大番狂わせが起きないよう、私は必死に振舞った。
数十秒後、私を攻めきれなかった少年は、仰向けに地面に転がっていた。
「なっ・・・なんだ?・・・なぜ僕が・・・倒れている?・・・」
少年は困惑しているようだったので、きちんと説明してあげる。
「君が腕に喰らった銃弾は麻酔弾で、それで体中に麻酔が効いているはずだよ」
しかし説明途中に寝てしまったので、仕方なく、スピーカから掛かって来た説明に従い、私はまた自分が来たドアへと戻っていった。
黒川瑞樹、第2戦『WIN』
2500文字書くって結構大変です。