Episode 33決戦[肆]
時は少し遡り、黄グループと赤グループの戦いに場面は入れ替わる。
だが、こちらも黄グループが一列に並び、赤グループと同じように対峙しているだけなので、第三者から見ればデジャヴを覚えることだろう。(体格差を除いて)
しかし、一列に並んだ黄グループを見て、何らかの形でも勝負を仕掛けようと考える人は圧倒的に少数なはずだ。彼らは応じて巨体であり、身長も二メートル越えはざらである上に、屈強な筋肉をほとんど惜しみもなく晒している。細身の者もいるが、まぁ巨体な者の方が数は多い。
土や石を纏っている者もいたが、それでもその胸圧や筋肉を隠しきることはない。
そして、赤グループ側では・・・
「姉様ーー!?どうするんですか~?」
「喜美?どうするもこうするもないわよ。私たちは敵を殺せばいいの、簡単なことでしょ?」
「わかりました姉様、重力をかけてやればいいんですね」
「ええそうよ、でも今じゃないからまだ我慢しなさいよ」
「は~い、姉様に従いまーす」
「いい子ね、喜美」
そう言って姉様と呼ばれていた少女は、喜美と呼んでいた少女の頭を撫でる。宙に浮かんでいながら・・・・・・
「うぅ、姉様・・・恥ずかしいです・・・・・・」
「大丈夫よ喜美、ここには誰もいないわ」
「いや、僕がいるんだけど・・・・・・」
「あぁ、そうだったわね・・・でも大丈夫よ喜美、記憶か存在を消せばいいんだから」
「そうだね!、私はあいつの存在を消したいな~~」
「存在を消すって何!?そんなことなら記憶消された方がましだよ・・・」
浮かんでいる2人に地上から声をかける少年、しかし、自分の失言に気づいているのだろうか・・・?
「あら?記憶を消されたいってことでいいのかしら?脳細胞ごと記憶を全部消してあげるわよ」
「ゲッッ、それって植物人間って事じゃん!?それもやだな~・・・だって一生なんかのチューブを体に付けられてるんでしょ?そんな生活したくないよ!!」
「なら死んで記憶を失しなわせた方がいいかしら?私は構わないのだけれど・・・怒られるかもしれないわね・・・・・・」
「姉様ー、私怒られるの嫌~い」
「喜美が嫌ならやめた方がいいわね、命拾いしたわね愚図」
「愚図ッッ!?僕の愛称ってそれなの?」
と・・・右側と同じように茶番が繰り広げられていた。最も姉様と呼ばれていた少女は大真面目だったため、少年の命が危なかったこと以外は、安心して見ることができると言ってもいい。
「さぁ愚図、突撃してきなさい。私たちは見てるから」
「えぇっっ?なんで僕だけ?飛んでるそっちの方が全然強いじゃん」
「敵勢戦力の把握よ、そんなことも分からないのかしら・・・?だから愚図なのよ」
「喜美分かんな~い・・・喜美も、ぐずなの?」
少し寂しそうに喜美と呼ばれた少女は言う。分からない人は全部愚図だという姉の表現に不安を覚えたらしい。
「喜美は愚図じゃないわ、喜美には愚図とは違う強い異能があるじゃない、それだけで愚図じゃぁないわ。それに私の妹でしょ」
「うん!喜美はぐずじゃないっ!!」
「そういうわけで、愚図。行ってきなさい」
「ぐぬぬ・・・」
「死にたいの?死にたくないならさっさと行きなさい」
「わかりました。やればいいんでしょう?」
そう言って少年は自信の異能を発動させる。
「まずは【2倍】っと」
少年のスピードが2倍になる。
「さらに【2倍】っと」
少年のスピードが2倍になる。
「あと僕も【2倍×3】っと」
少年が6人になる。物語で言う分身と同じ要領だが、分身の1人1人に自我があり、分身が死んでも本体は死なないという特性を持っている。
「キモ・・・愚図が6人もいるなんて悪夢ね・・・でも愚図当てゲームなんて面白そうかもね」
「ぐず当ってゲ~ム!!」
「あら、喜美はやりたいのかしら?でも後にしましょうね、今はまだ早いわよ」
6人の少年は全てを頭の隅に放り投げ、無視をして黄グループの方に向かって走って行く。1人1人に自我があるとはいえ、本体の性格を模倣しているため、言動は変わらないらしい。
「「「「「「ウォォォォォォォォーーー!!」」」」」」
6人の少年は奇声を上げて黄グループの方へと突っ込んでいく、50メートルを約2秒で走るそのスピードで30メートル程を走るのだから、黄グループの基へと着くまでに1秒と少ししかかからないが、その間に黄グループのグループリーダーの男は黄グループのメンバー達全体を守る壁を造りだしていた。
「「「「「「ブエヘェッッッッ」」」」」」
不幸にも方向転換ができなかった6人の少年は、壁に数十センチめり込んだ。
ある一定のダメージを受けたことによって、6人の少年は1人を残して全て消える。
そして残った1人(本物)は気絶して、地面に向かって仰向けで大の字になって倒れた。
「クククククク、アーハッハッハッハッ!!最高よ!愚図は愚図でも役に立つ愚図だったみたいね」
「クスクス、姉様ー、面白かったね」
「そうね、すっごく面白いわ。でも喜美、はしたないから両手を上げて喜ぶのはやめなさい?」
「は~い、姉様」
大笑いした姉様と呼ばれていた少女と、可愛らしく笑う喜美と呼ばれていた少女。2人は少年の痴態を見て、大きく口を開けて笑っていた。
しかし、これで左側の赤グループの部隊の残りは、2人だけになってしまった。
2人からすれば問題ないのだろうが、約10対1という圧倒的な戦力差がそこにはあった。
「さて、私達も行きましょうか?」
「蹂躙するーー!」
「蹂躙するのもいいけど、同じ轍を踏まないようにね」
そう言って2人は宙を平行移動していく。脚を動かしているわけではないので、傍目から見たらとてもシュールな姿だが2人は気にしていないらしい。
数十秒後、2人は黄グループのメンバー達がいる場所から、数メートル離れたところへと移動していた。
「え~と・・・降参するなら苦しまずに殺してあげます。でも、降参しないなら苦しんで死んでもらいま~す」
姉様と呼ばれていた少女は唇を舌なめずりして、そう言った。
「死ぬつもりは毛頭ないので、君達を倒させてもらおう。勿論殺しはしない」
「アハハハハハ、まさかあの愚図と同じレベルだなんて考えてないよね?それだったら心外だなぁ」
「いや、別に無駄な戦いをするつもりはない。少々危険は伴うが、文明の利器を使うさ」
そう言って、黄グループグループリーダーの男が取り出したのは拳銃だった。
「そんなのが当たるとでも思ってるの?そんなの撃ってるうちに、死んじゃうよ」
「いいや、そんなこと思ってない。ただ奇襲をかけるだけだ」
バンッッッバンッッッ
2人の背後から銃声が響き渡る。そして麻酔弾は2人の体を貫いた。
「・・・奇襲、なん、て・・・・・・」
「別に奇襲が悪いわけではないだろう?時間短縮及び無傷で済ませられる」
「そうね・・・・・・でもただでやられるわけにはいかないわ」
「まさか・・・?みんな離れろォっっっ!!」
「【音波爆破】ッッ!!」
【音波爆破】は強烈な音が波のようになって、周囲にいる者達の鼓膜を破壊する。さらに鼓膜から脳へと音が届き、脳細胞を破壊する・・・・・・まさに音の暴力という奴だ。
そして、そんな攻撃が黄グループに降りかかることになった。
決戦、中央党付近『SOUND WAVE EXPLOSION』
両グループとも危機に陥ったーー!!




