Episode 33決戦[参]
青グル-プと赤グループの戦闘が始まってから数分が経った。
片方が遠距離攻撃をして、それを片方がシールドを張ってしのぐ。という戦闘方法を繰り返すことになっていて、シールドで弾かれた異能による攻撃の残骸が周囲に散らばり、周囲の地面は土崩瓦解の状況に陥っていた。
双方の実力は拮抗していて、中々決定打にはならない。どちらも大したダメージを負わずにはいたが、致命傷や戦闘不能となるほどの疲労を両グループとも与えられていない、ということでもある。
しかし、いきなり近接攻撃に切り替えて戦闘を行おうとすれば、異能による遠距離の攻撃に滅多打ちに会うことは間違いない。それを両グループともわかっているため、近接攻撃を行おうとはしないのだ。
だが、またしても女性(お嬢様)が、お嬢様らしく身勝手に自由に行動を起こす。
「ちまちま戦ってても面倒くせぇ、おい、木沼!?ついてこいよっ!!【2段構え・炎火爆速】ッッッ!!」
ブォォォォォォォンッッ!!!・・・ボンッッッッ・・・・・・
「お嬢様ーーー!!??」
異能によって常人をはるかに超えるスピードを得た女性(お嬢様)と、女性によって異能の効果を勝手に付けられた執事服の男性。炎によって空気を爆破させて進んでいく姿は、まるでエンジンブースターを取り付けられた暴れまわる車のようだ。
執事服を着た男性の断末魔のような声が聞こえた気がするが、気にしない方が身のためだろうし、執事服の男性も咄嗟のことながらも、柔軟に対応し自身の異能を発動させていた。
【炎火爆速】はガソリンによって推進力を生み出している車と、理論的な仕組みはほとんど変わらない。けれど、この技に大きな欠点がないわけではなく、むしろ欠点だらけでしかない。まず、生身の肉体で莫大な推進力を出すには、体の付近で爆風を生み出し、推進力を体に働かせなければならない。
異能だからある程度は制御できるとは言っても、それには限界があるし、爆炎をその身に触れさせれば、生身の人間などひとたまりもない。
しかし、その体を守る物があればどうだろうか・・・?例えば黒川瑞樹が着ている戦闘服、あれは一定の衝撃を吸収する上に、防弾に防刃に防火、防水から防風、それに防腐に防臭耐性までついている。このバトルロワイアルの主催者の一人、シンクによる多大なプレゼントだ。
しかし、もちろん女性(お嬢様)がそんなものを着ているわけがない。そのため、彼女(お嬢様)の身体を守っていたのは、執事服を着た男性の異能によるものだった。
彼女(お嬢様)はある程度は計算していたのだろうが、その執事服の男性の異能によるシールドの効果と、【炎火爆速】の効果が、ピッタリと嵌まっていることは流石に偶然だろう。
多少は被弾を受けながらも【炎火爆速】によって、ほとんどを回避しながら近づいてくる。(被弾を受けてもほとんどシールドに散らされている)敵からしたらこれほど恐ろしい2人組もいないだろう。
女性(お嬢様)が突き進み、執事服の男性がサポートする。
その爆発的な勢いは衰えることを知らずに、青グループのすぐ近くにまで接近することに成功していた。
その猛牛のような勢いを見たにも関わらず、青グループはそこまで危険を感じていないように、あまり気を向けていない。その勢いに圧倒されてしまっているのかも知れないが・・・・・・
そしてとうとう青グループは、赤グループの接近を許してしまった。
だが、青グループのメンバー達はそこまで反応を示すことはなかった。やはり、赤グループに圧倒されているのだろうか?それとも余裕があるから、なのだろうか・・・?
「ハハハハハ、死ねぇッッ、雑魚共がよぉッッ」
青グループのメンバー達に、死を運ぶ爆炎を身に纏う女性が迫ってくる。
最初の一撃は蹴り。しかし常人の何倍ものスピードで放たれる蹴りは、あっけないほど簡単に人の命を奪うだろう。
ギャリギャリギャリギャリッッ!!!!
だがそんな蹴りも、嫌な音を残して半透明なシールドに弾かれることになった。
しかし、女性(お嬢様)は無理矢理な方向転換をして、そのまま攻撃を続けることにしたようだ。
二撃目は殴り。攻撃が止められた苛立ちを表すように、爆炎を纏った拳がシールドにぶち当たる。
「オラッッッ!!」
ガッッッッッ!!!!!・・・ピキッッ
今度の攻撃もシールドに弾かれる、だがシールドには大きな亀裂が走っていた。
女性(お嬢様)はニンマリと満面の笑みで嗤うと、その亀裂に向かって再度攻撃を試みる。
三撃目は、掌底打ちのように掌をシールドの亀裂部分にぶつける。異能の効果がない掌は突如として、熱を帯び爆炎をシールドの亀裂の中で爆発させる。
「【爆火烈穴】ッッ!!」
ゴガァァァッッッ!!!・・・バリバリバリッッ!!
これまで何度もの攻撃に耐えてきたシールドが、崩壊していく。
ここに来て青グループのメンバー達にも焦りの表情が見えたが、もうそれは遅すぎると言わざるを得ない。だが、彼らの期待するような視線が一点に集まっていることも、攻撃してきた2人にはわからなかったのだ。
遂に凶刃が青グループ達の身に降りかかる、彼らはその凶刃からは逃げられないだろう。
「死ね死ね死ね死ねェーー」
かたや爆炎を纏った人外のスピードの女性(お嬢様)、かたやシールドを失った生身の人間達。どちらが勝つかは一目瞭然と言っていいだろう。
そして、女性(お嬢様)の拳が、青グループのメンバーの一人に向けられ、拳を振り切った。・・・と誰もが思ったその瞬間。
「【異界空間】」
と攻撃を加えようとした赤グループの2人組から数メートル離れたところにいた少女の口から、その言葉が放たれたと同時に、赤グループの2人組が虚空に消える。
同時刻に青グループの責任者の男性も虚空に消えていたが、それを気に留める者は誰もいなかった。
「一体どうしたの!?あの2人が消えたわ、あなたの眼にはどう見えてる?」
「僕の目にも2人は写ってないよ。シールドを破った後に攻撃しようとした瞬間、消えたように見えたけど・・・・・・」
「そうよね・・・仕方ないわ。一旦2人がやられたと仮定することにして・・・私も出ることにしますか」
「じゃぁ僕は援護でもしようかな?もちろん邪魔にならないようにするよ」
赤グループは2人が消えたことで多少混乱はしたが、すぐに持ち直す。このまま戦えばジリ貧になることは分かっているので、女性は自ら攻勢に出ることを提案したのだ。
「【糸飛び】」
女性は手から糸を出し、その糸を使って、青グループへと接近していく。
スパイダーマン顔負けの技術とスピードは、先程の2人組に勝るとも劣らない物ではない。
そして女性は数秒もかからずに、まだ態勢を戻せていない青グループへと近づいていた。
女性は人間の身体では摩擦によってバラバラに引き裂かれてしまうほどのスピードを出しながらも、一切速度を緩めることはない。そのスピードの秘密は女性の服にあった。
青グループのメンバー達の上に来た女性は、まず自分の身体を支える糸を出し、自らを固定した後。
「【粘糸・縛鎖】」
女性は粘着力のある糸を生み出した。鎖の様な糸は青グループのメンバー達のちょうど真上から放たれ、そしてシールドを張る時間もなかったため。青グループのメンバー達に無造作に降りかかってくる。
一度糸に捕まれば抜け出すことはほとんど不可能に近いため、彼らは数秒後にはほぼ全員が、白い糸に囚われることになっていた。
絶体絶命。勝利ムードが漂っていた青グループは、そんな状況へと一瞬で変化してしまっていた。
決戦、中央塔付近『DESPERATE SITUATION』
遅れ・・・




