Episode 32決戦[弐]
青グループと黄グループの連合軍と言っても、彼らの指揮官はそれぞれな上に、青グループは黄グループと、黄グループは青グループと、戦闘に関しては一切協力しようとはしていなかった。
そこにいるだけで協力している。なんて屁理屈をいう人間はもちろんいないので、この2グループは戦闘に関しては一切協力はしようとしていなかったのだ。
そのため、青グループと黄グループは少し距離を開けて一列に並んでいる。
どちらも視線の先には赤グループを捉えていて、両グループ共すでに臨戦態勢は整えている。
赤グループのメンバー(幹部級)達と青・黄連合軍の距離が数十メートルまで近づいたとき、赤グループの幹部達が一斉に立ち止まった。
そんな赤グループでは話し合いが行われていた。
「やっぱり雑魚も殺せないなんて、あいつらもほんとに使えないよね」
「結華さん?まぁ少しは分からなくもないけど・・・・・・」
白い制服を着た女性と、私服の少年とが言い争っていた。女性の後ろには執事服を着た男性が控え、周囲から思いっきり浮いている。女性の言動は全くお嬢様風ではないが、その立ち姿はまさしくお嬢様だ。
「そういうあっきーも、倒れてたとこ助けたの私なんだよね~?」
「それを言われると弱いんだよね、っていうか君が助けたわけじゃないだろう?君の執事さんに運ばれたって聞いたけど・・・」
「私の執事なんだから、私の功績だろ?当たり前だ」
「そういうのを世間では自明の利って言うんだよ、それともお嬢様は知らないの?」
少年を助けたことを自分の功績のように語るお嬢様を、嗜めるように知識勝負を持ちかける少年、自明の理、というのはまさしく言葉通りの意味だ。
「知ってるに決まってんだろ、地面の利だろ?地面はでっけーから・・・つまり・・・でっかくて、強いってことだろ?」
「ん~一文字違うんだよなーー、それに意味も違うし・・・」
「あぁん、小難しい話すんじゃねーよ」
「お嬢様。少しは教養を付けてください、バカ丸出しでは困ります」
「あぁっ?別にここにいる奴らが知ったって別に構わねぇだろ、いつでも消せるんだからよ」
「消せるとか怖いこと言わないでほしいわ、それに口喧嘩は終わりよ」
「チッッ・・・仕方ねぇな」
「明人様、お嬢様が申し訳ありません。悪気はないのですが・・・」
「別に気にしてないよ、暇な時間を紛らわすためのおしゃべりだからね」
執事が少年に向かって90度頭を下げた。それはまさしく誠意を見せている、ということだろう。
赤グループではそんな茶番のようなことが行われていたが、喧嘩を終わわせた女性が一喝した瞬間、空気が張りつめたようになった。
常人であれば痛みすら感じる空間、それが今、この中央塔の片隅に存在していた。
中央塔とその周囲が分断されてしまったため、赤グループも青・黄連合軍も左右に分かれて戦うことになってしまっていた。
今喋っていた赤グループのメンバー達は、赤グループの方向から見て右側に位置している。そして、彼らと相対するのは青グループ、映画であればバチバチと火花や閃光が煌めくのだろうが、ここは現実、死ねば終わりのデスバトルロワイアルだ。
会話を止めて睨み合う赤と青のグループ、そして奥には、赤グループのもう一部隊と黄グループが同じように睨み合っていた。
睨み合うこと数十秒、時間が経つごとに空気は重く、圧迫感を双方にもたらしていく。
そして、赤グループから青グループへと放たれた大きな炎の塊が、開戦の合図となった。
「【猛火炎弾】ッッ、黙り合ってても仕方ねぇだろ?いっちょ死んでくれよ」
炎の塊を放った女性(お嬢様)は、悪びれる様子もなく。大声で、“死ね”と直球で青グループに伝える。
しかし青グループ側もシールドを張っていたため、炎の塊を難なく耐えることに成功していた。
一連の行動を見て、執事ともう一人の女性は額の、それも眉間を押さえる仕草をした。両者の行動は似通ってはいたが、女性は仕方ないと首を振ったのに比べて、執事は深いため息を数秒間にわたって吐き続けた。その違いが、女性(お嬢様)との関係性を表していると言って過言ではないだろう。
しかし、両者とも数秒後には、戦闘へと向かう心の準備を整え、もう数秒前のことは忘れようとしていた。
だが、人数差は圧倒的だ。右側の赤グループのメンバー達(幹部)の人数は4人なのに比べて、青グループのメンバー達の人数は約20人もいる。
割合で言えばほぼ5対1、しかも敵味方混じり合う乱戦では、その人数差は大きい。
普通、乱戦では味方の数が多ければ友軍への攻撃が起きて、味方が味方を攻撃しだすという不毛な状況となる。
しかし、敵の数が一定水準より少ない場合、味方が集まって固まったり、一列に並んだりすることで、フレンドリーファイアを抑制することができる。
そんなことを青グループのメンバー達も逐一考えているわけではないだろうが、結論としては赤グループのメンバー(敵)が少ないのと青グループが一列に並んでいたこともあって、青グループはフレンドリーファイアを抑制している状況になっていた。
赤グループは長期戦になればなるほど消耗して、戦闘が著しく危険になってくる。反対に、青グループは長期戦になればなるほど、赤グループに対して優位に事を運ぶことができる。
それは基礎的なことだが、重要な事でもある。それを基にして考えれば、おのずと彼らの戦闘スタイルは見えてくる。
つまり、赤グループは積極的に攻勢に出て行かなければいけないのに比べ、青グループはダメージを受けないようにじっくりと戦っていけばいい。しかし、青グループが積極的に動いていても赤グループには優勢に戦闘を進ませることができる。すでに知っていたことだが、青グループは圧倒的に優勢なのだ。
そんな青グループと赤グループの戦闘は、青グループが炎の塊を耐えたところから、状況は刻一刻と進んでいた。
青グループのメンバー達は、小手調べ。とばかりに様々な異能で遠距離攻撃を行っていた。
「【雷電撃烈】っ」「【黒烏】」「【白磁の光刃】ッッ」「【運任せの連撃】」「【大海の波浪】」「【苔色の物語】」「【とち狂った音】」「【閃光爆破】」
しかし、それら全ての攻撃は、執事服の男性に簡単に止められてしまっていた。
「はぁ、お嬢様に攻撃が行かないように止めるのが私の仕事ですか・・・」
「なんか文句あるか?」
「いえ、お嬢様の体に傷が付いたら大変ですからね・・・」
決戦、中央塔付近『BATTLE AND DEFENSE』
厨二病っぽいのがめちゃくちゃ恥ずかしい




