Episode 3【不死】の異能
「あんたが俺の相手か、まぁ運が悪かったな。」
自信満々な20歳前後に見える男は、同情しているような感じで、私にそう言った。
着崩すしたスーツはよれよれで、今の季節は冬のはずなのに、思いっきり夏服だった。
「俺の異能は不死だ、あんたの異能がどんなものであれ、俺に致命傷を与えることも、俺に膝を着かせることもできない。」
男は私の返答を待たず、勝手にしゃべりだした。私は話の内容を聞いて、思わず苦笑してしまいそうだった。
私の異能との相性の良さも、根本的な頭の悪さも、そんな人間と第1戦目で当たった私の運が、とても良かったとしか言いようがないだろう。
実際に彼は、私が異能で出したこの銃が、引き金で引いただけで殺せるほど、殺傷能力過多だと思っているだろう・・・それは間違っているというわけではないが、今この瞬間においては、その推測は楽観視し過ぎているというしかない。
しかし不死の異能というのが嘘だった場合、結構な演技派じゃないかな?と思うものの、そんな可能性は存在しないはずだ。
男は自身の不死を証明した後、愕然とした私の腹でも殴って、気絶させるつもりだろう。
別に普通の銃弾でも動きを止めることはできたな・・・とは思いながらも喋り続ける男の話を聞く。
「撃てよ、その銃が偽物じゃないなら俺を撃て、俺も不死の異能がどんな証明したわけではないんでな、その拳銃で俺を撃ってみろよ。」
この銃を撃ったらあなたの敗北ですよー!と心の中で言いながら、私は異能による不死とはどんなものかが気になって来ていた。
不死にはいろいろな種類がある。一般的な不老不死であれば、年を取ることもなく、死ぬこともないという最強な能力だが、抜け穴は沢山ある。
凍らせてしまったり、酸素を供給しなければ、動きは取れなくなり、生命活動は停止しないものの、人間としての生活は出来なくなる。
不死の妙薬を飲み、不死になったからといって、失った手足を元に戻せるかどうかは分からない。爆発を喰らって、心臓だけ残りそれだけが動いているだけで、不死などというあやふやなものだった場合、それを与えた悪魔は陰でほくそ笑んでいることだろう。
古来から吸血鬼は不死だと言われているが、吸血鬼が不死だという根拠はないし、吸血鬼が本当にいるかどうかも怪しいところだ。
目の前の男はどうなのだろうか、私は自分の異能について事細かに知っている、だが男の口ぶりからすると、自分の異能についてもよく知らないらしい。
そうなるとどこまで不死なのか、不老とついていないので、寿命では死ぬはずだが・・・不死が状態異常の麻酔にも対応している場合、私の戦術は根底から崩れ去ってしまう。
「あなたの能力が不死でなかった場合、確実に死にますが、いいんですか?」
男を煽ってみるが、これは計算ずくの行動で、私が確実に勝利するための作戦だった。
「う、おっおう。俺に撃ってみろや、外すなんて下手な真似すんじゃねーぞ!」
どもりながらも返事を返してくれた、さらに威圧まで加えてくるのは賞賛に値する行動だが、これで私は確実に勝利することができる。
男に嘘をついたことを少し悔やみながらも、私は男の腕を狙う。
別に他の部位に撃っても構わないのだが、頭や心臓の近くに撃って一度死なれ、麻酔の効果が無くなる危険は犯したくはない。リスクは極限まで減らす主義なのだ。
私はその間に頭で計算を始める、コルトパイソンの初速は約360m/s。この近距離なら確実に当たるが、逆に避ける異能を持っていたら厄介どころの話ではない。そのためにわざわざ会話までして、男の異能が不死以外であるリスクを減らしたのだ。
男は確実にこの銃弾に当たる、そして麻酔が全身に広がり、効果を発揮し始めるまでは3秒ほどかかる。
不死の異能が麻酔の効果を打ち消す場合も考え、拳銃を生み出す準備は完全にできている。
「チェックメイトです。」
私はコルトパイソンの引き金を引いた。
周囲に広がるパンッという音は、私の鼓膜を激しく振動させる。
先ほどと同じような衝撃によろけそうになりながらも、私は男の結果を見届ける。
自信満々な男の顔は、銃が撃たれた時には少し引き攣ったものの、銃弾が頭や心臓ではなく、腕を通過したことに少し安堵していたように見える。
しかしその表情は怒りへと変わり、私を怒鳴りつけてきた。
「なんで、腕なんて半端なところを狙ったんだ?心臓か頭を狙え、この臆病もん・・・う・・・ぁ?」
しかし怒鳴っている途中で麻酔が効き始めてきたようで、床に倒れ伏した。
「ようやく麻酔が効いてきましたか、少し予想より遅かったですが、まぁ概ね予想通りになりました。」
私は張りつめていた緊張感を一気に解き、友達に話しかけるような気軽さで男に話し始めた。
「ますい・・・だと・・・・・・」
まだ舌は動くようで、少し拙い喋り方だったものの、聞き取ることはできた。
「そうですよ麻酔です、あなたの異能【不死】には、状態異常を無効化する効果はないようですね。しかしあったとしても、新しく出した銃で骨を打ち砕いてたから関係はないんですが・・・」
しかし不死がそこまで万能でなくてよかった、骨を打ち砕いても自動回復なんてされたら、消耗戦で負けてしまう。
しかし、結果論としては、私は立っていて、男は倒れ伏している。
「・・・」
男は黙ってしまったため、私は勝手に話を続ける。
「しかし不死なんて絶妙な異能ですね・・・・・・まぁ武器でも持ってれば別なんですが、あれっ聞いてる?・・・・・・寝ちゃったか・・・」
麻酔が完全に効き始めたせいで、男は死んだように眠っている。
麻酔は5分後には解けるだろうから、これからの第2戦と第3戦には響くことはないだろう。と男を心配してみる。
そして監視カメラがあると思われる1点を見つめ、スピーカーからのアナウンスが聞こえてくるのを待つ。
『第1戦の勝利おめでとうございます。勝者は自分が入って来た扉に戻ってください。敗者は移動しないでその部屋で待っていてください。』
数秒後、録音したような声が部屋に響き渡った。
私は指示に従い、私が入って来た、ついさっきまで閉まっていた扉の中へ、体を滑り込ませた。
黒川瑞樹、第1戦『WIN』
文章が読みにくいという人には申し訳ありません。
自分で決めた文字の制限を守るため、必死に書いてるんです。