Episode 21補給部隊の行く末 後篇
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ
あれ・・・いたく、ない
体中から噴き出していた嫌な汗は止まり、朦朧とした景色が目の写りこんでくる。
「ドサッドサッッ」
音が、聞こえる
「みんな、大丈夫か」
声が、出せる
閉じかかっていた瞼を強制的に持ち上げ、周囲の様子を確認する。
少し離れたところに2人、地面に倒れている。
見に行ってみるとその顔立ちは中々に整っていて、将来美人になるだろうとは俺でも想像がつく。
2人は着ている服以外、身長や顔立ちなどはビックリするほどそっくりだった、1人は黒いワンピースを着ているのに対して、もう1人はフリフリのたくさん付いた可愛らしい服だ。2人とも髪は薄茶で薄い青色の眼をしていた。一卵性双生児だろうか?
そういえば双子と言っていたな。とようやく思い出したが、今の俺には何の関係もない情報だ。
双子の口から「むにゃむにゃ」という声が聞こえてきたので、近寄ってよく見ると胸が上下に動いている。双子は眠っているようだった。寝ていればこんなに可愛いのに、と思わざるを得ないが、これでも俺達を殺しに来たのだ。
双子の近くには銃弾が落ちていた。そういえば戦闘員には銃が配られたらしいが、見せてもらった銃弾の何倍もの大きさがある。
双子たちよりも補給班のみんなの無事を確認する方が先だ。
「おいっ分かるか!?」
女性を揺すって起こそうとすると、揺すった手をはねのけられた。そして非難がましい目で見られるのだからたまったものではない。決して機に乗じて襲おうとしたわけではないのだ。
そんなことをすればどうなるかは分からないし、今の状況でそれをする胆力もない。
「すまんな」
「別に!・・・もう触らないでくださいよ」
起こしてあげた俺が何故怒られなきゃいけないのだろうか、社会とは難しい物だ。
数十秒後には、補給班の全員が起きた。
何故双子が寝ているのかは分からないが、俺たちにとっては好都合だろう。そう思って先に進もうとする俺に、先程俺が起こした女性が忠告してきた。
「この子達が起きたら、また私達を殺しに来ますよ。縄で縛っちゃいましょうよ?」
聞けば異能で縄などが自在に操れるらしい・・・ドン引きしなかった俺をほめて欲しい。
女性は靴紐を長い髪を何10本か抜いて、縄のようなものを作った。人間の髪の耐久性を褒めるのは良いが、他の女性の髪を抜こうとするな、
ドラム缶に縛り付けられた双子は、気持ちよさそうに寝ている。それを尻目に俺たちは中央塔に向かって進んで行く。
近くに落ちていた銃弾は、俺の宝物となった。
「失敗した?」
「ええ、失敗したわ」
暗闇に2人の人間の影が浮かんでいる。
「あの双子が弱かったんしたんじゃないだろうな?」
「それはないわ。灰崎、あんたもあの子たちの強さは知ってるでしょ」
「それはそうだが・・・で、双子は?」
「ドラム缶に縛り付けられてたらしいわ。気持ちよさそうに寝てたらしいわよ」
双子は2人でいるからこそ強いのだ。気弱な妹を支えているのが姉であり、妹の強い異能を補助する以外の異能の使い方もいい意味で手を焼かせる存在だ。
パラリと女の髪の毛が何本か落ち、地面に数センチ引っかき傷のような傷ができる。
「ちょっと癇癪を起こすのは良いけど、私がいないところでやってくれないかしら。そのためにこんな薄暗いところにいるんでしょう?報告のたびに殺されたんじゃ、命がいくつあっても足りないわよ」
「ああ、そうだな」
よくよく見れば部屋は傷だらけだった。何かに切り刻まれた様な傷や深く刻まれた傷、そして唯一の進入経路である扉には斜めに深い傷が入っている。傷だらけの部屋ではまとも歩くことすら難しく、この部屋で男は常に何かに座っている。
「あなたの異能って【■■】でしょ、どう使ったらこんな傷ができるのかしら?」
「木の繊維一つ一つを【■■】させている。精密に操作する訓練だ」
「精密にしなくったって【■■】させれば終わりでしょ、もしかして皮膚1枚1枚を【■■】させたりとかは考えてないでしょうね?そんなグロイの見せないでちょうだい」
「別にそういうわけではないが・・・何かあった場合に対応できる」
そこまで会話した女性は「緑の端っこで、一つだけ反応があったらしいわよ」と言って、扉を開け外に出ていった。
「兄者が俺を裏切った?・・・いや、それはない。“襲うな”と言ったのは兄者の方だ」
男は思考する。何もかも破壊する力を持ちながらも、頭を使って考えることを止めない。
そして、暗闇で1人。思考を延々と続けていく。
「はぁ~、危なかったぁ~」
危機的状況からの脱却に、私は思わずため息をついてしまった。
寝起きで急いでここまで来たため、私はまだ寝間着姿なのだ。まぁ人命を守るためと言われては仕方ない、と諦めるしかないのだが・・・
話は数分前に遡ることとなる。
『聞こえるか?霧峰からの報告だが、赤グループらしき人影がいたらしい。だが監視塔には表示されていない。そちらでは何かあったか?』
腕に取り付けられた腕輪型の、小型トランシーバーから聞こえてきた青グループの雲礫の話は、寝ぼけていた私の頭に衝撃を与えることとなった。
「アルミホイルでICチップの位置情報を消せるらしいけど、あっ機密だから内緒にしといて」
『情報が洩れている、ということか・・・・・・裏切者がいるかもしれないな』
「裏切者?」
『情報を流している奴の事だ。そのアルミホイルの情報を知っているのはどの位の奴か分かるか?』
「会議室にいた6人は知っていると思うけど・・・」
『ならばその中にいる、裏切者か情報を流してる奴が』
「・・・・・・」
裏切者がいるという可能性は高いとは思うが、早計過ぎやしないだろうか?
『話が逸れたが、1時間ほど前に緑フィールドから数人が出てきた。数人は監視塔に表示されていないため、私に報告が入った』『そして2分ほど前、赤フィールドからも2人ほどが出てきたらしい。そして赤の奴らは緑から出てきた数人に真っ直ぐに向かっている』『こちらが対応することは出来ないため、一応連絡したが対処法は任せる。今のお前なら大丈夫だろう』
「ありがとうございます」と私が言ったときには、私は自分の部屋を出て生活拠点のハッチを開けていた。
銃は向こうで出せばいいと武装は諦めて、猛ダッシュで走っていく。風の様ではなかったが、濁流ぐらいのスピードはあったはずだ。
数分後、何があるわけでもなく。私は無事に緑グループフィールードの端にたどり着いた。
すぐにうつ伏せになって狙撃銃を生み出し、肉眼で何かありそうなところに狙撃銃を向けて、スコープを覗き込んだ。
最初の数回は外したが、4回目でようやく人影に当たった。
空中に浮かんでいる2人と、縮こまっている4人。状況的に考えれば、空中に浮かんでいる2人が赤グループの可能性が高い。
しかし、どちらがどちらか、判断がまるでつかない。
もうどっちも撃っちゃうか(緑グループのメンバーには効かないし)、という暴論を出しかけた私の目に、苦しんでいる4人の姿が入って来た。
私は即座に思考を切り替え、2人に狙いを絞る。
この2nd seasonのフィールドでは風が一切吹かない、。つまるところそれは、狙撃がしやすい。ということに他ならない。しかし、いくらしやすいとは言っても、数キロも離れれば一ミリのミスが命取りとなる。
だが今回は違う。2人までの距離は300メートル弱、これで外すわけがない。
さらに、こちらから見て重なってくれているため、2人同時に貫くことができる。
狙いを付けた私は「ハァァァァーー」と大きく息を吐いて、頭を空っぽにする。
そして、引き金を引いた。
「バァァァンッッッ」
今までのアサルトライフルなんかとは比べ物にならない程の、銃声。
耳が張り裂けそうだったが、それ以上に反動がすごかった。
体が浮き上がりそうな勢いに、私の肉体は必死で耐え抜いた。
雲櫟に指導してもらわなければ、危ないところだったかもしれない。
そしてうつ伏せになったことで土まみれになった寝間着を見て、ため息を吐いた私は、ゆっくりと生活拠点に帰って行った。
黒川瑞樹、中央塔周辺の端『SNIPE』
これで補給部隊の行く末、は終わりです。
ちっちゃい章ぐらいの長さがありました




