Episode 20補給部隊の行く末 中篇
俺ら補給物資輸送組、通称(っても俺以外にそう呼ぶ奴はいないが)補給班はリュックサックを背負って中央塔へと向かって慎重に進んでいる。
リュックサックには1週間分の食糧が入っているらしいが、それを5人で割っているというのに、そこまで重いというわけでもない。
グループリーダーの池田さんに聞いたら、縮小という異能が使われているらしい。物体の大きさを変え、質量を変えられるなんて俺とは比べ物にならない程すごい異能だが、これにも制約はあるらしく3時間ほどが経過すると元の大きさに戻ってしまうらしい。
それでも使いどころによっては、今のように異能の使用者がいなくとも元に戻せるんだから、そんな制約もあって無いようなもんだ。
おっと、石に躓きそうになっちまった。ちゃんと周囲に気を配って進まないといけないよな、一応この作戦ではリーダーらしいが、別に尊敬も何も感じない。まぁ何にもやって無い奴が人に信頼されるわけがないから当然と言えば当然か・・・
異能で遠くが見える奴がいるかもしれねーし、双眼鏡やらが物品供給塔で交換できないとも限らないため、地面に落ちているドラム缶の陰に隠れながら進んでいくのだが、これがデメリットしかない。最初の内は泥棒にでもなった気分で楽しかったのだが、進行速度は遅くなるわ、ちっとも進んでる気がせずつまらない、と言い出せばキリがない。メリットと言えば、いるかいないか分からない他グループを警戒し、危険度を減らすというだけ・・・・・・
退屈さを紛らわすためか、俺以外の2人男女が会話をし始めた、小さく話しているつもりらしいが、俺にもバッチリ聞こえている。
何々?物品供給塔で何を交換するか?男の方は・・・スマホが欲しいらしい。全く、SNSがしたいなんて今の状況で考える方が異常だ。女の方は・・・シャンプーやらのコンディショナーや化粧品やらが欲しいらしい。まぁそういうのは分からないが、女性にとっては大切なんだろう。
このままではいけない、ふっと我に返って中央党までの距離を確認する。迂回路を通っているため、中央塔に着くまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。
『現状報告、中央党付近に他グループの反応なし、オールクリア』
「了解っ」
トランシーバーから伝わった内容に、他グループがいないという安堵感よりも、もう3分経ったのかという驚きが先にくる。まだ時間に余裕があるが、縮小の異能の効果が切れれば荷物が肥大化し、荷物に押しつぶされて俺たちは一歩も動くことができなくなってしまうかもしれない。
笑い話では済まされないだろうし、俺たち補給班の命すら危うくなる。
「急ぐぞっ」
自分に言い聞かせるように激励をして、今までの1.5倍ほどのスピードで進んでいく。
「どこに行くんでしょうねー?」
「そんなことを気にしなくてもいいでしょ、私たちは命令に従えばいい。でもこいつら地面を這いつくばって情けなくないのかしら」
「それもそうですね。それと私だったら地面に這いつくばるなんて、死んでも嫌ですけど」
・・・・・・今の、どこから声が聞こえた?
背筋に冷たい物がツーっと伝わっていく、いつもであれば冷や汗だとすぐに気づいたのだが、そんなことすら認識ができない。
「大丈夫よ。死んだらそんなこと分からないから」
「それもそうですね・・・姉様は賢いです」
「当たり前じゃない、双子だって言ったって姉の方が賢いのよ」
トランシーバーからの報告は何て言ってた?他グループの反応はない?ふざけるなよ!じゃぁこの声は何だって言うんだ。
「姉様、ピクリとも動きませんけど。もう死んでるんじゃないですか?」
「そうかもね。じゃぁ荷物奪い取るだけでいいから楽ね・・・なんて言うと思った?」
う・・・俺の決死の覚悟で挑んだ死んだふり作戦が・・・バレた
「荷物は渡す!荷物だけ持っていけばいいんだろう!?だから殺すのだけは止めてくれっ」
「うーん、どうしようかしら。別に殺せとは言われてないのよね・・・」
「姉様、どうしましょうか」
このまま俺の5年以上にわたって鍛えたごねりスキルがあれば・・・命だけは助けてもらえるはずだ。
補給用の物資を奪われれば緑グループに大分損害は出るだろうが、人の命には代えられない。
「だったら・・・」
「でも、ダメ。それじゃ面白くないじゃない」
「おもしろく、ない?」
人の命が面白いか面白くないで決まるというのか?そんなバカなことがあるはずがないだろう。
まさに〝狂っている”という表現が正しい。
「姉様、どうやって殺しますかー?私は重力で締め上げるのがいいと思いまーす」
「そうね、それもいいけど。助けを呼ばれたら面倒だから先に口を閉じてしまいましょう?」
「それがいいですね。やっぱり姉様は賢いです」
俺は死ぬのだろうか、こんな茶番のような姉妹にあっさりと殺される?
俺の人生は全く代わり映えしないほど普通だった。
普通に中学を卒業して、普通に高校を卒業して、普通に大学に入って、何か特別なことをすることもなく大学を卒業した。就職した会社は大分ブラックだったが、自殺する勇気もわかず、もう慣れてしまった。
そんな俺が、このバトルロワイアルに放り込まれて、別に夢を見なかったわけではない。
異能が強くて外に戻ったらヒーローになれる。そう思わなかったわけじゃない。けれど現実を見れば、そんなヒーローだって人間だ。お金(=給料)は必要になる。
異能が使えればお金がもらえる?どっかの科学センターで実験材料にされて終わりだろう。
異能が使えれば銀行強盗しても大丈夫?自衛隊やらSATやらに出てこられれば終わりだろう。それに俺にだって良識はある。
異能が使えてもいいことなんてそんなにない、けれど悪いことだってそこまで存在しない。そう思った俺の手元には【摩擦軽減】なんて異能が残った。
摩擦軽減。もちろん大学を卒業しているわけだから摩擦がどんなものかは知っている。
摩擦を軽減させてどうするよ、運よく転ばせても倒せるわけではない。
けど、俺は運よく勝ち残ってしまった。でも、そんなに幸運が続くわけではないことを、俺自身が良く知っている。
もう口から声が出ない、声を出そうとすることは出来るのだが、音を飛ばすことができない。助けは来ないと思った方がいいだろう。
「じゃぁ、喜美やってしまいなさい」
「内臓を押し潰されて死んじゃぇー」
「ぐっっ・・・カハッ」
全身が万力にかけられているように押されている。肺から空気が飛び出しさらに口から吐血までしている。
「喜美、もうちょっと強くやんないと終わらないでしょ」
「わかりました。姉様」
余計なことを言うな、と思うことすら難しい。全身の神経から痛みが脳に送られてくるため、痛すぎてもんどりを打つことすら難しい。
人間の脳は大量の痛みに耐えられることは出来ないから、気絶して逃れようとする。そう言っていた誰かがいた。走馬灯かと苦笑いしたいが、表情筋を動かすこともキツイ。
あぁ早く気絶してくれないだろうか、そして楽になってしまいたい。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ
男、中央塔付近『STRONG PAIN』
すいません。前後篇にするつもりが、前中後篇になってしまいました。纏められなかったです。




