Episode 18緑グループ会議
ふむ、という言葉から始まった緑グループの会議は、終わりが見えないどころではなく、休憩がいつになるかということすら考えられない程議論が飛び交い、罵声が飛ぶこともしばしばだった。
私はそんな中どうしているかというと、もちろん池田さんの後ろでちっちゃくなっているわけではなく、池田さんの隣の椅子に座って、銃の整備をしていた。
質問されるわけでもなく、意見を求められるわけでもない私は、簡単に言うと暇を持て余し、拳銃のアップグレードを図っていた。(もちろんマガジンは外している)
拳銃だってアサルトライフルに負けるわけではない、確かに射程距離や連射性能で言えばアサルトライフルに軍配が上がるが、用途によっては拳銃の方がいい場合もたくさんある。
結局使い方次第だ。別に至近距離でも倒せるのであれば、スナイパーライフル使っても問題はない。私は絶対に使用することはないが・・・・・・・・・
拳銃のアップグレードと言っても、種類は膨大だ。私は銃に関するものであれば生み出すことができるため、昔の日本軍が使っていた銃剣という武器を生み出し、剣だけを取り外して使うこともできる。
まぁ私が剣で戦うことはないと思うので、あまりしたくはないが一応用意だけはしてある。
私が今している拳銃のアップグレードというのは、色々な種類や色々なカスタマイズを施した拳銃を生み出して、一つ一つ検証していくという、地道な作業だ。部屋にいる間にパソコンで調べていたものを記憶から引っ張り出してくるというだけなので、簡単と言えば簡単なのだが・・・
私が拳銃を弄っているのを見かねたのか、池田さんが私に話しかけてきた。
「瑞樹ちゃんは、どう思うかしら?」
もちろんその前の話を聞いていない私には、何のことかさっぱり理解できない。
「な、何の事でしょうか?」
少し声が震えてしまったが、気にすることではないはずだ。それより池田さんの所為で私に注目が集まってしまった。池田さんには恨みの目を向けるが、全く気付こうともしない。
「もちろんあの話よ、さっきまでの話を聞いてなかったのかしら?」
「・・・・・・聞いてませんでした・・・」
ぅぅう、絶対にわざとやってやがる。私が会話を全く気にも留めずに、拳銃のアップグレードに熱中していたことを知っていながらわざとやったに決まっている。
「ならしょうがないわね。誰か瑞樹ちゃんに説明してあげてくれない?」
「では、議長の私が説明します・・・えー―――――」
勢いよく立ち上がった議長という人の話では、中央塔残留組(中央塔に残っている人たちの事だ)への食糧の供給方法を議論していたらしい、いつまで残るかはともかくとして、食糧がなければ戦うことができない。よく言う「腹が減っては戦ができぬ」という奴らしい。
中央塔残留組に食糧や水は全くないため、早急に移送しなければならないらしいが、食糧を運ぶ人たち(以後補給部隊と呼ぶ)は必ずと言っていいほど狙われるだろう。
人間は食べなければ死ぬ。そんな単純な事(真理)が分からない他グループの敵たちではないだろうから、補給部隊が襲われる可能性はほぼ確実だろう。
ということを分かっているから対策を講じようとしているらしいが、いい案が中々出ないらしい。
「・・・ん~・・・・・・」
単純に考えれば、監視塔で最新の情報を見ながら指示を出せばいいとは思うのだが、遠距離攻撃ができる異能持ちの敵に対しては無防備になってしまう。
誰かが囮になるしかない・・・か?
「あの・・・物品供給塔で、他のグループの監視塔の眼をごまくらかすようなアイテムって、取り扱っていないんですか?」
監視塔の眼を誤魔化すにはICチップを外さなければいけないはずだが、3分以上ICチップを外してしまえば、何の躊躇いもなくシンクに殺されるだろう。
物品供給塔でそんなものを取り扱っていれば、みんながみんなそれを使用して、監視塔が監視塔の体を為さない状況になるはずだ。そんなことはシンクは望んでいないだろうし、まさに夢物語でしかない。
「ないこともないわよ」
・・・今、池田さんは何て言った?・・・・・・
「えっと・・・今、なんて?・・・」
「だーかーらー、ないこともないわよって言ったのよ」
夢物語・・・・・・っとそれは諦めるとして、ICチップによる位置情報の通信を止める方法なんて、本当にあるのだろうか?
「ほんとうに?」
「本当によ」
「うそではなく?」
「嘘つく意味ってある?」
確かに、今嘘を吐く必要も、意味もない
「・・・その方法って?」
「簡単なことじゃない。みんな知ってるでしょ?」
「「「「「?」」」」」
会議室の中の誰も方法が分からずに、みんな首を傾げていた
「誰もわからないの?・・・はぁ~~しょうがないわね・・・アルミホイルよ」
「アルミホイル!?」
アルミホイルで位置情報を遮断できる?確かに電波は発せられないかも知れないが・・・・・・失敗する可能性もなくはない。
「知らなかったの?ラップとかと一緒に物品供給塔で手に入れられるのよ」
それは知らなかったが、そんなことを聞きたいわけではない。
「アルミホイルで電波って遮断できるんですか?」
アルミホイルで、というのはよく聞く言葉だが、本当に試している人と出会ったことはない。
「昔、娘が夏休みの自由研究で調べてたのよ、電車のICチップまで通さないんだから、驚いたわ」
楽しそうに、しかしどこか寂しそうに池田さんは語る。
ICカードでタッチをして、通れないという光景を想像してみると、大分シュールだったが・・・
私達分からなかった組は、関心して池田さんを見る。
「まぁアルミホイルで全体を覆ってなきゃいけないんだけどね」
池田さんは照れくさそうにそう言うが、もっと早くそれを提案していてくれれば良かったのにと、思わざるを得ない。
「・・・えーと、後で一応試してみましょうか」
議長とかいう人がそう言って、会議を締めくくった。
何もしていないのに疲労している中で会議室を出た私には、質問がなかったという安堵感と、なぜ会議室に呼ばれたのかという疑問感が、ごちゃ混ぜになった感情が頭の中にずっと浮かんでいたため、部屋に帰るまでのことを全く記憶していなかった。
そして、補給部隊は朝早くに出発していった。
黒川瑞樹、生活拠点『EXHAUSTION』
更新に追いつかれそうです。




