Episode 17現状把握
私は帰って来た。という安堵感のような感情が、心にいっぱいに広がっていたのは、数十分前の事だ。
今私は、私の与えられた部屋のベットに寝っ転がっている。
別に眠いわけではないが、私の疲労等を心配した池田さんからの指示だ。
勝手にトレーニングなどを行わないように、私の部屋の前に1人待たせている。というのだから、私に対する信用の無さが感じ取れる。(まぁいなかったら筋トレを行おうと思っていたのも事実なのだが)
池田さんが教えてくれたのだが、赤グループなどとの戦闘を経て、緑グループは中央塔を手中に収めることには成功したらしい。
まぁ一本道である通路などで銃をぶっ放せば、簡単に倒せるのは間違いなかったので、中央塔上部に関してはそこまで気にしていない。
問題だったのは中央塔下部の方だ、私が白木結華などと戦っている間に、青グループが勝手に参戦してきたらしい。助けてくれたあの忍者みたいな子も言ってたが、完全に頭から抜けていた。
ということは稽古をつけてくれたあの剣士も、青グループのグループメンバーの可能性が高い。というか間違いなくそうだろう。
青グループの奮戦により、下部の戦闘員はほぼ全滅という憂き目を見たそうだ。誰も死んでいないのが唯一の救いだ。
隠れた人もいたそうだが、残るにしても帰るにしても、下部にいたほぼ全員が気絶しているため、人員が圧倒的に足りず、半分を一度中央塔の上部に連れて行き、半分は異能で空が飛べる人を往復させて帰還させたらしい。
異能で空が飛べる人というのは十中八九、あのオタクみたいな男性だろう。
そして私は、眠った状態で緑グループのフィールドに入ったところを監視塔によって発見され、池田さんが助けに来たらしい。会議室のメンバーには猛反対されたみたいだが、強行突破したと楽しげに笑っていた。
私は記憶が途中から飛んでいるのだが、多分最後の稽古で、あの剣士の放った殺気に気絶したか、途中で疲労によって眠ってしまったのだろう。
あの剣士が緑グループのフィールドまで連れてきてくれたのだろう、あの剣士も危険な橋を渡ったわけだから感謝はするが、今度会っても戦わない。という選択肢は存在しない。
まぁ今の私では勝てる気がしないので、正面からはできるだけ戦いたくはないが・・・
そんなことを考えていたら、池田さんが入室してきた。ノックをしなかったので指摘すると、満面の笑みを浮かべて近づいてくる。
「瑞樹ちゃん。私たちは家族みたいなものなんだから、ノックなんてしなくてもいいのよ」
そして、とてつもない暴論を放ってきた。
「家族でもノックしなきゃ駄目ですよ、私が着替え中だったらどうするんですか」
私がすぐに正論をもって否定すると、ぐぬぬと呻き声を出したが、何かを思いついたように意地の悪い笑みを浮かべると、ベットに近づいてくる。
池田さんが何をするつもりかは分からないが、とにかく危険な感じがしたので、ライオット弾が込められた拳銃を即座に生み出す。
こんなところで成長を感じるのもどうかと思うのだが、普通の銃弾から麻酔弾などに切り替えるのにいちいち手間がかからなくなったのだ。前アサルトライフルを80丁生み出したときなんか、マガジンが床中に散らばって大変だったのだ。
「それ以上近づかないでください。嫌な予感がします」
私がそう言うと、池田さんはチェッと口を尖らせて、近づくのを止めた。子供じゃないんだから、と思わずにいられないが。この部屋に入って来たときの疲れ切ったような顔と見比べれば、大分マシになったのだから仕方がないと、諦める自分もどこかに存在していた。
「で、何しに来たんですか?」
私が緑グループの生活拠点に帰ってきてから、まだ2時間程しか経っていない。
赤グループとの戦闘が始まったのが10時ごろなので、5時間程も戦場を駆け回っていた計算になる。
現在の時刻は19時だ。まだ中央塔には戦闘にいった戦闘員の4分の3程度の人が残っている。他のグループからの奇襲もあり得るだろうし、警戒しておくに損はない。
それがグループリーダーならばなおさらのことだ、池田さんが私の部屋でのんびり休憩するというわけにはいかない。
「ちょっと会議室まで来てくれないかしら、瑞樹ちゃんを読んでくれってうるさいのよ。別に断ってもいいんだけど・・・・・・」
別に会議室に行くことは問題ない。あの剣士との稽古を聞かれれば少し困ったことにもなりかねないが、はぐらかすことは容易だろう。あの場を監視している人がいたなら別だが、そんな人はいないだろうし、緑グループの情報を渡したわけでもない。それに池田さんが何か困窮しているように見えたのだ、私が行かなければ何か面倒ごとが起こる可能性がある。池田さんにはお世話になっているのだから今回は従っておこう。
「いいですよ、ちょっと着替えてから行ってもいいですかね」
さすがに寝間着のままいったら怒られるだろう、私も寝間着を多数の人に見られるのは嫌だ。
池田さんを部屋から追い出し、すぐに戦闘服へと着替える。
クローゼットに戦闘服は2着しかなかったから、私が着て行ったのは洗われているのだろう。何度も転がったりしたため、汚れが酷そうだ。洗ってくれる人に心の中で合掌をしておく。合掌したところで何が変わるわけでもないが、私の心が多少軽くなるのだ。
私が足に負った傷は既に完治していたのには驚いた、自然に完治させようとすれば3、4日はかかったような怪我を数時間で直すのだから、やはりあの忍者みたいな子は本物の忍者なのだろう。灰色の衣装を着る忍者なんて初めて見たが、本物の忍者なんてほぼ見たことがないのだから、それこそ多種多様だろう。
着替え終わった私は、部屋を出る。外では池田さんと、もう一人見知らぬ人が立っていた。その人が私を監視していた人だろう。池田さんの命令とはいえ、ご苦労なことだ。
生活拠点の中は、やはり以前に比べて閑散としていた。
戦闘員が4分の3も減れば、大分人が少ないのにも加えて、夕食を食べに行っている人もいるのだろう。
今生活拠点が奇襲を受ければ大変だが、その場合は中央塔に残った戦闘員からも挟み撃ちにされるかもしれないので、そう簡単に他のグループも動けないだろう。
いつまで生活拠点に戦闘員をおいて置くのか、それ次第で緑グループの勝率は急激に変化するだろう。そんなことはこれから行く場所で話し合われているのだから、考えなくてもいいかもしれないが・・・・・・
「着いたわ、さぁ入って」
黒川瑞樹、生活拠点『STAY HOME』
予約投稿なんで、どうなってるかは知りません。




