Episode 13助太刀
「2対1は卑怯じゃん?助太刀してあげるよ・・・同じグループじゃないけど、まぁいっか」
その声は私にとっては福音だった。もちろん私の気のせいかもしれないけれど、その私と同じくらいの年齢で、女性と思われる声の主が、現状を打破するための突破口になる可能性の高さを、私はしっかりと感じていた。
「姿を見せろ!」
「それは命令?それともお願い?・・・どちらにしても聞くわけないよね、私のアドバンテージの一つをみすみす捨てさせようとするなんて、バカのやることだよね」
白木結華の命令に対して、逆に挑発できるというのは中々難しい。白木結華の命令は聞く人に従わせるような効力を持っている。私には効かないが一般人であれば、従うかはともかくとして、言葉を失ってしまう。
「何者?なんで黒川瑞樹を助けようとする!」
「忍者って言ったら分かるかな?それとも忍の方がいい?・・・外人だとNINJAっていうらしいけど、そっちはまた別物だね。それと私がその人を助けるのはただの自己満足だから、別に何を要求しようでもないけど・・・そうだ!貸し1つってことでいいかな?」
貸し1つ。何を要求されるかはわかったもんじゃないけれど、ここで野垂れ死ぬよりはマシだ。
それと忍者と言っていた。女の忍者はくノ一と呼ばれているらしいが、それと何か関係があるのだろうか?・・・疑問は尽きないが、今この場で聞くことではない。あとで何とでも答えてくれるだろう。
「じゃあね!白木結華さん♪・・・私は本当の忍者だから、報酬を貰えれば貴方に付いてもよかったんだけど、このバトルロワイアルに参加した時点で、貴方に付くって選択肢は無くなった。あなたが勝ったって私が死んだんじゃ意味がないもんね?・・・」
「何故私の名前を知っている!」
白木結華は声を荒げて、声の主へと問いかける。
「黒川瑞樹さんとは仲良くできそうだし、良さそうな異能も持ってるらしいし・・・・・・運が悪かったって思ってくれればいいよん」
もはや質疑応答を行うつもりがないのか、質問を完全に無視している
2人組の足元を徐々に白き煙が覆っていった。しかし当の本人は気づいていなかったようで、声の主を探して背中合わせに立っている。彼らは目を凝らし、声のする方向がどちらかと耳を澄ましていた。けれど、そんな懸命な探索にも関わらず、声の主を見つけることは出来なかったようだ。
「また会うときはしっかり戦うけど、忍者の本質は戦うことじゃないから、今回は逃げさしてもらいます!・・・長くなっちゃったけど、バイバイ!」
白い煙はいよいよ腰付近まで昇ってきている。2人組も気づいたのか少し慌てていたが、声の主は対策を立てさせない。
忍者が使うと言われる煙球を叩いたような、ボフッッという音が鳴り、私の視界を煙が覆いつくす。
私は足を動かすことができないためどうしようか?と考えていたら、いきなり腕を掴まれ近くのドラム缶へと運び込まれた。
この場で声を出す危険性を理解しているので、声を出そうとしたわけではないのだが、強制的にハンカチを口に当てられ、さらにその上から手で押さえつけられた。
「静かにしてください。煙は10秒ほどは滞空しますが、視覚を失うことで他の器官が鋭敏化され、声を出せば位置が特定されかねません。多分大丈夫だとは思いますが・・・」
もう一度言うが、この場で声を出す危険性を理解しているので、声を出そうとしたわけではないのだが・・・・・・仕方がない。
耳元で囁くように言われたため、声は2人組に届くことはないだろう。しかし元々、人が入る用ではないドラム缶に、2人も人が入っているのだ。体が動かせず狭いのに加えて、通気性が悪く熱い。死にたくはないので我慢するしかないのだが・・・
「全く、足を怪我しているのに逃げないなんて・・・彼も言っていたけど、貴方って負けず嫌いな性格みたいね?」
私が負けず嫌い。考えたこともなかったが、案外そうなのかもしれない。
確かに負けるのは嫌いだ。負けることで得られるのは屈辱感と、敗北感というネガティブな感情だけ、しかし負けないと人間は成長しない。私はその矛盾を認められないのかもしれない。
「どこに行った?まだ近くにいるかもしれない。木沼、捜せ!
「申し訳ございませんが、その命令を聞くことはできません。近くにいる場合、ドラム缶に隠れている可能性が高いでしょう」
ギクッという音がどこからか聞こえてきたかのようだった。それは背中に張り付いている某女忍者さんからで、張り付いた女忍者さんからの胸の感触から私は安堵を覚えた。
「黒川様は銃を持っていました。ドラム缶を覗き込んだときに銃を乱射されれば、銃弾が私の身に降り注ぐことは間違いありません。私の異能の効果時間はそれほど長くありませんので無謀です。お嬢様が行うのであれば文句はありませんが・・・明人様も連れ帰れることですし、一度報告するために、生活拠点に帰りましょうか」
「っち、仕方がないな」
そう言って2人組は少年を連れて、赤グループのフィールドへと帰って行った。
2人組が完全に帰還したことを確認した私たちは、ようやく外へ出る。
「ふ~体カッチカチだよ、ちょっと汗もかいちゃったし」
初めて見た忍者は、戦国時代の映画やドラマのように、派手派手しい色の服を着ているわけではなく、灰色の服で頭や顔のほとんどを隠していた。
「助けてくれてくれてありがとうございます。貸しはいつか返します」
「あ~別にいいよ、本当だったら報酬貰ってやるんだけど、今回は私の独断だしね」
彼女は軽い感じで言うが、こちらとしては命を助けてもらったのだ。義理を返すというわけではないが、何か返さなければいけない。
ケチと思われるよりは、また何かで助けたいと思われた方がいい。
「どうぞ。使い慣れてはないと思うけど、拳銃1丁ぐらいはあった方が便利なはず」
私は普通の拳銃を生み出す。リボルバーは弾が少ないので、リボルバーの倍の弾が入っている普通の拳銃を生み出した。
弾倉をスライドして取り出し、麻酔弾が入っている物に取り換え、そしで拳銃を渡した。
「これは・・・拳銃?これがあなたの異能?」
「そうですよ。使いにくいわけではないと思うので、どうぞ使ってください。少し下心はありますが」
彼女は黒い手袋っぽい物に銃が握られ、拳銃の感触を確かめていた。
「一応受け取っておきます。青グループは赤グループと緑グループの戦いにも参入していますが、まぁ気を付けてください。私たちの一族で伝わっている軟膏を足に塗っておいたので、足の怪我はすぐに治るでしょう」
確かに足がちゃんと動くようになっている。一度ドラム缶の下敷きになった私の脚は、動くと強烈な痛みを発していた。
私は痛みが再発しないように気を付けながら、中央塔へと向かって走って行った
黒川瑞樹、中央塔付近『RETURN』




