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Episode 10赤との激戦【ⅲ】

「まさか突っ込んでくるとは思わなかったけど、手加減するから安心してね・・・竜牙さんは殺すのも構わないって言ってたけど、僕は血を見るのもあんまり好きじゃないから」

そんな言葉が私に降りかかるが、私は構わず少年の真下へと走り続ける。

途中で何度か私に向かってドラム缶が降って来ていたが、私は間一髪のところで避けることに成功していた。

ドラム缶は当たっても私が死なない様に速度を落とされていたが、その分正確に私に向かって降って来ていたので、本当にギリギリで避ける様な状況だった。


私は適当に無駄弾を撃つのは嫌いだ、当たるわけでもなく、作戦として放たれるわけでもない無駄な弾は、撃った分だけ自分の死へのカウントダウンが近づいてくるとすら思っている。

映画などでもよく使われるアサルトライフルは接近戦でなくとも使われるが、それは弾幕を張り、逃げられないようにするためだ。それに当たって死亡する主人公など目も当てられない。

私がこの話で言いたいのは、適当に打った弾は絶対に当たらないし、当たったとしても致命傷を与えるわけではないということだ。

ドラマなどでは適当に撃たれた銃弾が、人を無慈悲に貫き、人が死ぬといったシーンがあるが、あんなものは脚色された悲劇のストーリーだ。そんなに簡単に人が死ぬわけではないし、今の私にはそれは全く当てはまらない。


ドラム缶は空中に浮かんでいる、あれを登っていけたらいいのだが、忍者が足場の不安定なところを、飛び跳ねて進んでいくという話がある。あれは忍者だからこそできるわけで、アスリートでも、サーカスの従業員でもない私には、絶対にできないわけではないだろうが、たとえできたとしても無謀な挑戦となるだろう。


私は少年に一発だけ麻酔弾を当てればいいわけではない、少年がドラム缶に異能を使っている以上、私は少年を手に持ったアサルトライフルで狙い撃ち、眠らせるだけではダメなのだ。

仮に少年を昏倒させれば、宙に浮かんだドラム缶は重力に従って地面に落ちる。10メートルも上空のドラム缶に座っている少年の体は無事では済まないだろう。たとえ無事で済んだとしても、何らかの後遺症が残る可能性もある。


それではダメなのだ。両親を救うためとはいえ、少年に危害を加えることが、両親を救う直接の道筋ではない。

ただ己の欲のために人を殺せば、私は人殺しにまで堕ちる。それはこのバトルロワイアルが人殺しを推奨していたとしてもだ。


「来ないのかな?じゃあ一時的に眠ってもらおうかなっ!」

数十個ものドラム缶が一斉に私に牙をむいてくる。ドラム缶に対抗するため、私は地面に手を着き、試作品のアサルトライフルを地面に転がした。

もちろん耐えるために縮こまるわけではなく、避けるために転がるのだ。武器は失ったが、効率よく転がるためには武器は必要ない。

「ほらっ、ほらっ。どこまで耐えられるかな~?」

ズガッズガッというドラム缶が地面に叩きつけられる音がする、口に入った土から舌の味覚機能によって、私の口には苦い土の味が広がったが、構わず転がり続ける。


「ウッッ」

私の口から出たその呻きは、私が意図して出したものではなかった。背中に鉄のような冷たい感触が広がる、それはまさしく鉄だったが、混乱している私には、それがなんだか理解できない物質に思えたのだ。

「移動するなら、先手を打っておけば勝手に止まると思ったんだけど、思った以上の効果だ!」

移動経路に先回りしてドラム缶を設置していたらしい。自分のミスを嘆いたが、ここでやられるわけにもいかないと、私はドラム缶の後ろに隠れようとするが、体がピクリとも動こうとはない。指はギリギリ動かせるが、腕や足は全く動こうとはしない。

私は神経に異常が出る行動も、怪我もしていないはずなので、私の脳内ではすぐに少年の異能が原因の可能性が高いと出ていた。


「な・・・なに・・・・・・を・・・」

私は実際に体験したことはないが、世の中で言う金縛りにかかったのように、体はほとんど動かない。

いつぞやの不死の異能を持った青年のような片言だが、口もほぼ動かないので、声を出すのも今ので正直限界ギリギリだ。

だが、私が聞こうとする意思がなければ、少年は話そうと思ってはくれないだろう。

少年は安全を確かめるように、ゆっくりと地上へと降りてくる。

「今、ドラム缶に触れたでしょ?ドラム缶には僕の異能が効果を発揮してるから、触れたら動けなくなるんだ!」

ある程度までは地上に降りてきたが、伏兵を警戒しているのか、5メートル程までしか降りてこない。いわゆる3階建ての学校の校舎の高さぐらいだが、落ちたら良くて全身骨折、打ちどころが悪ければ即死だろう。


「他の人は加減を間違えて気絶させちゃったけど、よく考えれば情報を引き出すには最適な異能だよね・・・?まぁ異能の名前を教えるのは禁止されてるから、教えられないんだけどさ」

異能の名前を自分から教えてくれた今までの相手(軍人を除く)とは、残念ながら違うようだ。異能の名前を言うのが禁止されているというのは、個人の話ではなく赤グループ全体に共通すると見ていいだろう。

しかし、現状では私が情報を届けるのではなく、奪われるのが先の可能性が高い。

拷問を受ければ、多少鍛えたとはいえ、痛みに慣れていないこの体は、緑グループの情報を喋ってしまうだろう。

裏切者を警戒するのではなく、私が裏切者になる。ミイラ取りがミイラになるのと同じだが、今の私を客観的に見れば、そう見た方が現実的だ。

1人で向かったのは軽率すぎたかと考えるが、今となってはもう遅い。


ズガガガガガガガガガ

銃声の音が周辺一帯に響き渡る。

思わず銃声の方向を見る私の目には、緑グループの5人組がこちらを伺いながら、私が生み出したと思われる銃を少年に向けて撃っている。

少年はドラム缶を盾にして自分の身を守るが、その行動が数瞬遅かった。


私に幸運の女神が味方してくれたのか、運よく麻酔弾が少年へと当たり、主人公ではなかった少年は麻酔弾によって、一時的な眠りへと誘いこまれた。それによって私にかかっていた異能が解ける。

しかし、前に言ったように少年の異能が解けるということは、重大な危険に直結している。

少年による制御を失ったドラム缶(鉄の塊)は重力を思い出したように、一気に私の頭上付近へと落下を開始した。


黒川瑞樹、中心塔付近『FALL』

超危ない状況です

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