Episode 7赤グループとの戦闘へ
私が緑グループの生活拠点に来てから、5日ほど経過した。
私は日々のトレーニングを欠かさず行い、他のグループとの戦闘に備えていた。
筋肉痛になることもあったが、根性でトレーニングを続けるわけではなく、回復ができる異能持った人に治療してもらった。
成人していない私には、『建物を巡回して防衛に当たる必要はない』と言われたが、別に建物に行かないでくれと言われたわけではないので、ランニングのついでに監視塔や、物品供給塔をたびたび訪れていた。
さらにランニングによって、私はこの2nd seasonのバトルフィールドの大きさを知ることができた。
面積約10キロと思われるバトルフィールドは、四方を巨大な白い壁に囲まれている。ランニング中はいつでもその白い壁が見えるので、少しの圧迫感を感じたほどだ。
さらに壁の角から中央塔に向かって一直線に、またもや白く巨大な壁が、他のグループのフィールドと、自分の陣地を寸断している。
中央塔の付近、面積にして約400メートルほどは、他のグループに侵入する唯一の手立てだが、中央党付近は他のグループの監視があるので、そう簡単には侵入を許さないだろう。
四方の白い壁から中央塔までは約5キロ弱。そこから10キロを割り出したのだが、それほど外れてはいないはずだ。
改めて考えると、このバトルロワイアルのスケールの大きさが分かる。10キロ×10キロだとして、表面積は約100平方キロメートル。ヘクタールに直せば、10000ヘクタールもある。
100平方キロメートルがどれくらいか分からない人に簡単に説明するとしたら、東京ドーム何個分だ。というのが適切だろう。しかし、それでも分からない人にはディズニーランド何個分。というので分かってもらいたい。
だが、それでも『全く大きさが分からない』という人には、都道府県の面積とほぼ同じ。と考えてもらえれば理解できうるはずだ。けれど、これでも分からないという人には、私は処置無しと判断して首を横に振るだろう。
東京ドームなどの例によってわかるだろうが、それぐらいこのバトルフィールドは巨大なのだ。
今の技術ならば造ることは可能ではあるだろうが、造るメリットもないし、予算は膨れ上がるだろう。しかし、それは日本であればの話だ、デメリット的には別に日本で作る必要はないように思える。
アジアでも、中国やロシアなどであれば、地価的にも造れなくはない。さらにアフリカなどであれば、日本で造るよりはよほど合理的だ。
ここは日本なのだろうか?という疑問が頭の中に浮かんでくる。これだけ大きな建築物であれば人目に付くだろうし、ニュースにもなるはずだ。だが現実問題、そんなニュースは見たことがないし、SNSでもそれらしき建物を見たことはない。
地中に造ればその限りではないだろうが、わざわざ地下にこんなものを用意するメリットがない。
本格的に私の頭の中では、この場所が日本ではない説が浮上してきていた。
「緊急放送!緊急放送!赤グループが中央塔付近に侵入したらしい。緑グループは先手を打たれる前に、こちらから仕掛ける!すぐに動ける戦闘員はハッチを出た場所に集まれ!」
私が自室で腕立て伏せを行いながら、この場所がどこにあるかを考えていたら、そんな放送が流れてきた。
私は腕立て伏せを止めて、汗まみれの戦闘服から、洗濯され乾いた戦闘服へと着替える。
そばに置いてあったスカーを片手に持ち、机の上に置いてあるトランシーバーをポケットへ入れて、耳にトランシーバー用のイヤホンを着ける。
イヤホンからは同様のアナウンスが流れていたため、音量をゼロにして、中央部に向かう。
中央部には緑グループのメンバーが、続々と集まっているようだった。しかしほぼ全員がアサルトライフルを持っているため、どこかの非正規軍にも見える。
正規軍でないのは装備がバラバラだからだが、それを言ったらこれからクーデターでも起こすようにしか見えなくなってしまう。
数分後には地上に上がれたが、やはり後手に回っている感は否めない。中央塔を制圧するのにどれくらいかかるのかは知らないが、少なくとも数分で完全に奪えるものではないのだろう。しかし、数時間も経ってしまえば罠も張られるだろうし、攻略難易度は桁違いに増加するのは間違いない。
今緑グループが動くことで、赤グループの行動は阻害できるだろうが、赤グループの情報が全く分かっていないのにも関わらず、戦闘員を突入させるのは、危険すぎる賭けだろう。これで緑グループの戦闘員が大量に死ねば、緑グループの戦力は大幅に低下することになる。
しかし、一グループメンバーとしては、戦闘に参加する義務が生じる。せいぜい頑張るしかないというわけだ。
私が死なないようにするのもそうだが、グループメンバーをできるだけ死なせないようにするというのも重要だ。
ただ最優先事項は、私が死なないことだ。私が死んでしまえば元も子もなくなってしまう。
池田さん以外の会議室に集まっていたメンバーが、今頃必死で作戦を練っていることだろう。特に強面の男性はそうだと思う。
まさか無策で中央塔へと突っ込ませるわけではないはずだ。トランシーバーから作戦が流れてくるのを待っているうちに、ハッチから出てくる人はゼロになった。
緑グループの戦闘員達の前に立つのは池田さんだ。いつもとは違う凛々しい顔だが、視線は私を向いていると思うのは自意識過剰だろうか?
「皆さん、赤グループに対抗するため、私達緑グループは立ち上がりました!」
池田さんによるグループメンバーへの激励が始まった。これでいくらか士気が上がれば、万々歳なのだが・・・
「私達は勝利しなければなりません、このバトルロワイアルを勝ち抜き、生きるために!」
そうだ、私は生きなければならない。
「私達には異能があります。赤グループもそれは同じですが、私達の手には、銃があります!」
そして池田さんは、銃を旗のように掲げる。
「銃と異能、それが私達を勝利へと導いてくれます!・・・それと、帰ってきたら美味しいごはんを用意しておきます。絶対に帰ってきてくださいね、私と皆さんとの約束です」
私にとっては銃も異能も同じなのだが・・・まぁいい精一杯戦うだけだ。
「全員、前進!目標は中央塔です!」
「ウオォォォォォ」
士気が上がってくれたようで何よりだった。が、行進速度がハイペースになるのは、全くどうなのだろうか?おかげで土煙を森林に撒き散らし、私の髪にも土がついて、イヤーな感じの中の出発だった。
黒川瑞樹、生活拠点『DEPARTURE』




