Episode 4緑グループ会議
「え~まず紹介するのは、私の後ろに立っている黒川瑞樹ちゃんでーす。はい拍手して」
パチパチパチパチと拍手の音が、会議室の中で響く。
私に視線が集まるのを感じたが、あまり気にしないように努める。
「彼女は緑チームのメンバーだから、よろしくね」
学校の先生が仲良くしてあげて、というのを味わっている気分だ、私は常に見ている方だったから、何も感じなかったけれど、結構精神的にくるものがある。
「グループリーダー、それはこの子も戦力に換算していいってことですか?」
「東坂さん。グループリーダーじゃなくて、池田さんって呼んで?・・・それに戦うかどうかは瑞樹ちゃん次第でしょ」
強面の男性が私のことを戦力に換算していいのか?と聞いたということは、戦力になっていない人もいるのだろう。
それは当然だ。異能を使えるからと言って、精神が成長したわけではない。精神が幼稚な人間が、いきなり人殺しをしろと言われて、そう簡単にできるものでもない。
むしろできたなら、それはサイコパスなどの精神疾患を患う可能性が高い。
「瑞樹ちゃんどう?・・・できないならできないって言ってもいいんだよ?」
池田さんが不安そうな目で私を見るが、私はもちろんできる。両親を助けるには、人を殺すことだって厭わないつもりだ。どれだけこの手を汚したって、両親だけは助けてみせる。
「私はできますよ、ただ死ぬつもりは毛頭ありませんがね!」
強面の男性に向かって、その言葉を放った。池田さん以外は感心したような目を向けてくるが、池田さんは何か同情するような目線を送ってきた。
「続きまして、戦闘ができる人数と、戦闘ができない人数について纏めました。お手元のタブレットをご覧ください」
会議室にいる人の中でも比較的若い青年が立ち上がり、説明していく。私の手元にはタブレットはないため、池田さんのタブレットを盗み見る。
「現在の状況ですが、戦闘員は先ほど来た黒川さんも含めて、40人弱というところです。残りの約20人はサポートをしてもらうことにします。サポートとは具体的に・・・・・・」
話が続いていたが、私はそのまま考える。
戦闘できる人間と言っても、私のように攻撃に特化していたり、あるい防御に特化していたりする人はあまりいないだろう。
異能は人によってランダムだが、それが強いかどうかは人次第だろう。軍人なんて1人だけで1つのグループを勝ちにも負けにも導くことだってできるはずだ。
「現在、ポイントを使って個々人の武器を交換しているが、それだけでは足りないどころか、ポイントが枯渇し、食料が確保できない状態に陥るかもしれない、もちろんそうなならないようにするが、異能が強力ではない戦闘員が敗北し、死亡しない事を目指すならば、武器の確保が急務だ!」
いつの間にか青年から、強面の東坂さんに話す人が入れ替わっていた。
考え込んでいて、周囲のことが意識から外れてしまうのは、私の悪い癖だ。もちろん、治すつもりは一切ない。
「いや、食料が足りなくなることに比べたら、武器はあとでもいいと思う。まだ大規模な戦闘が始まったわけじゃないんだし、食料の確保の方が重要だと思う」
会議というのは意見のぶつかり合いだ。ぶつかり合う意見は多数決などで決めるのが日本では一般的だが、外国ではコイントスなども使われている場合もある、が結局はどちらかが我慢しなければならないのだ。
どちらかが意見を押し通せば不公平だともう一方が言い、逆に意見が決まらなければ、どっちかが折れる。そして世界には必ず泣きを見る人間が出るのだ。
公平だとは言いながらも、結局不公平になるのは、人間社会の真理だと、私は思う。
「・・・それじゃあ瑞樹ちゃんに、武器を造ってもらいましょうよ」
ここで池田さんが余計なことを言わなければ、2人の意見は平行線のまま進んでいき、会議室には険悪な空気が流れることとなっただろう。
しかし、一度切り替わった空気は、そう簡単には元に戻りはしない。
みるみるうちに、私にまたもや視線が集まる、ある人は興味深そうに、またある人は胡散臭い物を見るような目で私を見る。
「ほら、瑞樹ちゃんって、武器が造れるのよね?あれ、違ったかしら?」
私が真顔でいるからか、自分の記憶をも疑いだす池田さん。別に池田さんは認知症ではないのだが、このままシラを切ると池田さんが可哀そうなので、仕方なく頷いてあげる。
「やっぱり・・・ねぇちょっと出してみてよ」
衆人監視の下やれと?、と怒声を放ちそうになったが、これでも私のグループのグループリーダー、私の異能がバレるのは嫌だが、仕方なく従ってあげることにした。
私は候補の中からアサルトライフルを生み出すことにした、候補の中と言っても、拳銃とアサルトライフルだけなのだが、拳銃ではカッコよく見えないだろうし、何よりも落胆される可能性がある。
見栄というのは重要だ、私のは見栄ではないが、勝手に自己完結されて、勝手に落胆されるよりは幾分かマシだろう。
イメージするのはM4A1、俗に何々とも言われるそうだが、そちらは別に、イメージに組み込まなくてもいい。
アサルトライフルであればスカーという銃の方が有名らしいが、どっちもどっちだろう。どんぐりの背比べ。という奴だ。
黒い重厚なフォルム、予備マガジンは無し、スコープも無し、オート切り替え可能、総重量1.2キログラム・・・・・・
時間をかけたからか、いつも以上に精巧な銃が出てきた。艶消しのブラックの色は、会議室の少し暗がりの中だと、目を離せば消えてしまいそうだ。
ウっとくる重みに耐えた私は、会議室の人たちの目に、希望の光が宿ったのを見た。
パチパチパチパチパチパチ、私の紹介のときからの2度目の拍手だが、今度は大きさも長さもけた違いに大きい。
そういう観点から見れば、人間というのはいかにたやすい生き物なのだろうか。だまされやすく、だましやすい、私は別に騙したわけではないが、この人たちに銃を生み出すのには、少しの時間がかかると思わせることができた。
情報というのは鮮度と正確さが重要だ、この中から裏切り者が出たとしても、私が狙って出したニセの情報を掴むことになるだろう。
いわば、私が私で銃弾が切れれば攻撃するチャンスが来ますよ。と言ったのと同じなのだ。裏切者が出るかは分からないが、できるだけ用心する必要があるだろう。
黒川瑞樹、生活拠点『precaution』




