第9話 マニア達の巣窟 その2
旧友と書いてライバルと読む……と、いうのが今の私と愛梨ちゃんとの関係を表すにはベストじゃないだろうか? などと考えながら私は思わず大口をポカンと開いてしまう。
そう、彼女からの答えはNOだったのだ。
私は先生や嶺衣奈ちゃんに大見得を切った手前『ダメでした』とは言えないし……そんな事は恥ずかしくて言えないと思っていた。
「だってさ、考えてみてよ。ウチの学園内にあるマシンデバイスってどれも旧式……と、いうかいつの時代のヤツよ? っていうくらい古いんだよ? 去年の優勝校の磯路学園なんか全機可能年数で言えば新型ばかりなんだよ? 当然、ドライバーや電子戦の技量でカバリング出来る部分は多いけれど反応速度や射撃制度が段違いなんだからさ」
愛梨ちゃんが言うことは機械好き……と、いうかマシンデバイス好きな私からしても至極当然な意見だった。
と、いうか私は大ファンであった如月選手……先生という存在のせいであたりまえの事を失念していた。
電子戦にしても、旧式の機器だと勝負にならないようにハード面の性能差というのはどんなに技術面でカバーしてもどうにもならないのだ。
本来の戦場や兵器において究極の方法としてアナログ化という手も存在するが、マシンデバイスを使用した模擬戦闘競技においては、ある程度の範囲で新しい機材が必要となる。
そもそも出場用件にも何年製のモデル以下は使用不可や逆に一般販売後一定期間経っていないと大会には用いることは出来ないなども存在する。
「あー、やはりそこに気がついたか……」
と、まだ耳慣れていない男の人の声が聞こえ、思わず驚きつつも振り向く。
そこには選手時代とはやはりイメージの違うどこか孤独感があって、冷たい雰囲気……だが、ヨレヨレのスーツ姿の男性が立っていた。
そう、彼が話題の“如月零次”その人であった。
「って、先生どこにいたんですか?」
「あー、スマン……実は面白そうなやり取りを始めた付近から聞き耳立てていた」
どこか小馬鹿にしているような雰囲気さえ漂う彼に少し苛立ちを感じる。
「って、嶺衣奈ちゃんと一緒に別のところまわってたんじゃ?」
こちらの言葉に彼は感情的には読めない雰囲気で「ああ、そんなことか……」と、呟く。
「今日のところは用事が済んだからな。当然だがいつまでも一緒にいても仕方ないので別れたぞ。それにアイツは基本的に多忙だろうからな……」
と、言う。
廿六木嶺衣奈は廿六木のご令嬢で、習い事なども複数やっているという話を本人から聞かされたこともある。
それはいつも忙しそうにしている――本人はそんな雰囲気は出していないつもりだろうけど。
「あー、なるほど……」
「で、お前の方が気になった。と、いうよりも一度、ここに置いてあるマシンデバイスを確認しておきたかっただけさ」
と、そう言って含み笑いを浮かべる。
なんだか、少し相手にあされていない状況の愛梨ちゃんにも苛立ちの表情が伺える。私はそれに気がついて慌ててフォローを入れようとした瞬間、先生が口を開いた。
「キミがマシンデバイス部の部長の行永愛梨だな」
そういって、話題の彼は握手をする為に手を出す。
チラリと愛梨ちゃんはその手を見てそれを敢えて無視するようにしてニコリと微笑んだ。そして、妙に偉そうに腕を組んでその口を開く。
「はい、如月選手。私がマシンデバイス部部長の行永愛梨です」
マシンデバイス部ってところを強調するあたりが、なんとも愛梨ちゃんらしい。と、私は思いつつも愛梨ちゃんって一度決めちゃうと簡単にその考えを改めることはしない。
それで疎遠になって、今に至る経緯を持っている私がそこは一番理解している。
さすがに先生が言っただけでコロッと考えを変えるなんてことはしないだろう。
「悪いがもう選手では無いんだがな……まぁ、三崎に聞いたと思うが行永含めマシンデバイス部に模擬戦闘競技部に協力をして欲しいんだ」
まさかのとんだ直球が先生から放たれる。
当然だけど、そんなド直球で愛梨ちゃんがどうこう意見を変えるワケは無い。
「正直言って、無理だと思いますし協力する理由がありません。確かに現在のマシンデバイス部にある機体は元々は模擬戦闘競技部から払い下げられた物なのは確かですけど……」
愛梨ちゃんのこういった言い含みは面倒なことを考えている時の行動だ。
ここしばらくは全く会話もしていなかったけれど、旧友の行動に関しては性格をよく知っている私には分かる。
絶対に面倒くさい事を言い出す前振りだと。
「何か……条件でもあるのか?」
と、どこか楽しそうな雰囲気の先生。
愛梨ちゃんはフフンと鼻をならし先よりも偉そうな雰囲気を見せる。
「私達が改造したマシンデバイスと対戦しませんか? それで私たちに勝てれば先生のお話を受けてもいいかと思います」
そう言った愛梨ちゃんはまだ何かを企んでいる雰囲気だ。
どう考えても、さらに条件を突きつけてくる為の前振りなのだろう……。
「誰と対戦するんだ? 現状、模擬戦闘競技部で稼働させれるマシンデバイスは嶺衣奈専用機だぞ?」
「そんなスペシャルマシンと対戦しても意味はないでしょ? 当然、対戦するマシンデバイスはすべて我が部が用意するモノで……と、いう条件です」
なんですか、それは……。
彼女が出した条件はどっちも自分達で弄った機体同士で戦え?
「さ、さすがにそれは無茶だよ先生。どんな機体で対戦させられるか分からないじゃない……」
「いや、その条件でいいぞ。ただし、電子戦有りでこちらは一機で戦おう」
「一機で? と、いうことは私たち複数機出しても問題無い?」
愛梨ちゃんは怪訝な表情で先生を睨む。
「ああ、当然じゃないか……ちなみに廿六木嶺衣奈がメインドライバーで問題無いよな?」
さすがの嶺衣奈ちゃんでも、複数機体相手にどんなオンボロで戦わされるか分からない状況で勝てるわけなんてありえないと思うんですけど?
そんなことを私が考えている間にマシンデバイス対模擬戦闘競技部のハンディマッチが行われることになったのであった……。
とうとう、マシンデバイスでの戦闘です(・ω・)