第7話 繊細な少女達 その2
彼女は特典という言葉を聞いて不思議そうな表情を浮かべる。
普通に考えるとこういった特典が発生するなどは学校経営としては不正となる場合があるので正直言って誉められたやり方では無い。
「でも、それってダメなんじゃ……」
さすがに彼女も賢い人間の部類だ、よく分かっている。
「まぁ、話だけでも聞いておいて欲しい。この学園は基本的に一定以上の財を成した子女が通う超お嬢様学校だ。学費免除とかそういうのは基本的にそれで得した! って人間はいないし、そう言った特典とは少し違うんだ」
「では一体?」
「簡単に言えば後の進路とかに若干有利……ってくらいの特典だ」
「……口利きとか裏口はダメに決まってるじゃないですかっ」
と、釘を指すように嶺衣奈が冷たくいい放つ。
「それとも少し違う。基本的に部活所属するだけで内申は良くなる事は分かっていると思うが、一応活動の履歴が残っていれば就職するにしても、大学進学するにしても有利に働くと断言しよう」
「なぜですか?」
と、彼女はこちらの言うことを疑っているという雰囲気だ。
「それはだな……」
そう言いかけた段階で嶺衣奈は俺の言わんとすることをなんとなく分かったようで俺の言葉を遮るように口を開いた。
「バカな事を言うのは止めにしてもらないかしら……さすがにインターハイ優勝なんて無理よ」
「え? インターハイ優勝?」
坂神は不思議そうな声をあげる。
しかし、俺は彼女の手を取って力強く断言する。
「ああ、インターハイ優勝だ。俺がここに来た目的は模擬戦闘競技部をこの一年でインターハイ優勝させること――」
俺は力強くそう言って、ここでもうひと推しが必要だと思い、すかさず彼女の手を取って真剣な眼差しを彼女に向けてもうひと声掛ける。
「その為には君の力が必要不可欠なんだ!」
俺は内心、決まった! と、思いつつ彼女の反応を見る。
「わ、私の……」
坂神は何か思い詰めたような表情を浮かべつつ、俯く。
「ちょっと、いつまで手を握ってらっしゃるの?」
と、冷たいお声を隣にいた嶺衣奈に掛けられ、俺は慌てて坂神の両手を解放した。
「先生……私、必要とされてもいいんですか? そ、その……廿六木さんみたいに経験者じゃないし、そもそも機械とかあまり得意じゃないのに……」
「大丈夫だ、お前の成績やその他データを見て俺が判断した結果だ。お前なら出来るさ!」
俺の言葉を聞いて、彼女は再び俯き何かを考えるような仕草をする。
そして、再び顔を上げて少し恥ずかしそうにしつつ口を開く。
「あ、あのっ、私でよければ……先生の為に頑張ります」
「って、坂神さん!? ほ、本当にいいんですの!?」
ザ・廿六木の女という雰囲気の嶺衣奈が慌てふためいている姿が少し面白かったが、これで部員が一人確実に確保出来たと俺は心の中でガッツポーズを決めた。
しばらく部活に関しての情報を坂神と話、俺たちはバイトの邪魔をしてはいけないとその場を後にした。
部室へ帰る途中で嶺衣奈は訝しげな表情をこちらに向けていた。
「先生はあの複雑な操作や専門知識が多く必要な競技だということを解っていて言っているとは思いますけど……素人が優勝できるほど甘くないという事も解ってらっしゃるでしょ?」
「そりゃわかってはいるさ。しかし、お前は知ってるか? ほとんどのプレイヤーが模擬戦闘競技を始める年齢って」
彼女にとっては小さな頃からマシンデバイスと共に生活をしているから、分かっていないハズだと思い俺は質問を投げた。
案の定、嶺衣奈は真面目な顔をして考え込む。
そして、自信なさげに口を開く。
「そ、それは……当然、プロになることも考えれば初等部には既にはじめている人がほとんどではないのかしら?」
確かに、一部の天才と呼ばれるプレイヤーの中にはそういった純粋培養の一流選手というのもいる。
とうぜん、嶺衣奈もその一人だろう。
「残念ながら、ほとんどは高等部に入ってからだ。初等部や中等部でこの競技をやっているのはかなり稀だと思うぞ。ソフト面、ハード面両方の知識が必要かつ運動能力など様々な要素が必要となる競技だからな」
「そんな電子戦からフィールドプレイまで出来る人が前提みたいな言い草は納得出来ません」
嶺衣奈はあからさまに納得できないという表情で冷たく言い放ってくる。
彼女がそう思うのは至極当然なのかもしれない。特に彼女は今まで団体戦に出る事無く個人プレイヤーとしてこの競技を続けてきたからだ。
実際、人気のある競技だと言っても競技人口が爆発的に多いわけではなく、特別な施設に特別な環境を必要とする競技なのだ。
「確かに、オールラウンダーはプロ選手でも限られた人数しかいないな。しかし、高校での競技ラインでみれば結構いるんだぞ。プロを目指すことを考えればオールラウンダーである必要もないんだけどな……」
「だからと言って早くから競技をしている人と比べては……インターハイの強豪校だと私くらいに長い経歴を持つプレイヤーは沢山いるハズだし」
「まぁ、実際どこの学校には2、3割の割合でそういうのはいる。しかし、あくまでもそんな程度だ。設備も資金も大量に必要となる競技なんてそうはないだろ?」
「た、確かに……」
「それを考えればキチンと指導すれば……そうだな、半年あればインターハイ優勝を狙えるくらいの実力を得ることだって可能さ」
俺の言葉に彼女はあからさまに懐疑的な視線を向ける。
「まぁ、見ていなって」
そう言って俺は思いっきりのドヤ顔を彼女に見せつけた。