第6話 繊細な少女達 その1
学内のカフェではあまりにも目立つという理由から場所を少し移動し、現在はカフェ店内の休憩室に特別に入らせて貰っていた。
当然、俺の目の前にいる美少女の表情は固い。
ちなみにだが、俺の隣に座った廿六木家の超お嬢様である彼女の表情も固い。
彼女達がどういった関係なのかは分からないが状況とすれば、坂神真美を内申の為だけに在籍させた張本人が嶺衣奈ということだ。
このような状況となって、嶺衣奈は失敗したと思っているのだろう。
彼女は色んなものを背負っているので使命感というか責任感のとても強いタイプなのは見てとれる。
「あの……」
と、坂神真美は申し訳なさそうな声を出す。
「幽霊部員は部に在籍していると困る――と、いうことでしょうか?」
「いや、そういう事じゃないんだ。なんというか……出きれば部活に出て欲しいと思っているんだが……」
と、俺が言うと彼女はあからさまに困ったという表情を浮かべる。
「部活に出たらバイトが出来ないので……」
彼女の言葉を聞いて今一度、資料の方を再度確認する。
「お祖父さんからの支援――というか、強制的に編入させられた経緯があるんだな」
「あ、あの……色々あって……」
彼女は青ざめた表情で俯き呟いた。
どうやら家族間だけの問題では無さそうだ。
「坂神さんが嫌がってるわ……その辺でよろしいのではなくって?」
と、嶺衣奈が冷めた風な言い方でそう言った。
確かにあまり深入りして時間を無駄に過ごすのはどうかと思うのだが、こういう状況だとついつい首を突っ込みたくなるのが俺の性というものだ。
「両親か祖父母と上手くいっていないのか?」
そういうと彼女は勢いよく立ち上がり強い口調で否定する。
「そうじゃありません! そうじゃ……ないけど……」
「まぁ、この学園への編入はかなりの異例のようだけど、そういうケースも無くはないよな。学費も相当高いのは有名だ。ご両親は普通の家庭のようだから大変だろう」
俺がそういうと彼女は下を向いて黙ってしまう。
そして、隣の嶺衣奈から猛烈な怒りのオーラを感じる。
「如月先生――流石に友人を侮辱するのは許しません」
「と、廿六木さん……」
「侮辱したつもりは――いや、実は反応を見るために業と言った。すまない……でも、色々と分かったよ」
そう言った俺の言葉に嶺衣奈はさらにヒートアップしてしまう。
「貴方一体何様なのですか? 先日は……事故とはいえ私を押し倒すし、横柄な感じだし……有名なプロ選手でチヤホヤされて、人の心を失ってしまったんですの?」
「え? 押し倒す!?」
そこは本当に事故だったのだが、胸を揉んでしまったのは……なんだ、ついうっかりだ……。
「人の心か――まぁ、ある意味で言えば悪魔に魂を売った身だからな。あまりにも確かにと思うことが多くて反論出来ないよ。でも、ひとつ分かったことを話させて欲しい……さらに傷つけることになるかもしれないけど」
「そんなことを言われてハイそうですか。なんて言えるわけないでしょう?」
嶺衣奈は怒りつつも非常に言葉使いや喋り方は冷静そのものだ。ただ、冷たい視線とその言葉に持つ雰囲気は怒りを内包しているのは簡単に読める。
「廿六木さん、私なんかの為に怒らないで……先生、聞かせてください。私の何が分かったって言うんですか?」
暗い表情の美少女、坂神真美は不安そうな瞳を俺に向けた。
「そうだな。まずは君が転校せざるを得ない状況になった理由かな……」
そう言った瞬間、坂神は小さく緊張する。
俺はそれを確認しつつ言葉を続ける。
「容姿端麗、君は勉強も運動も出きる。前の学校は共学だろ? 君はグループの中で人を虐げるタイプには見えない。って、ことは逆な立場だった……それが両親にバレる……いや、違うな。両親では無く、祖父母にバレたんだ。君の祖父母、特にお祖父さんはそういうのが許せないタイプでさらに言えば地元ではかなりの有力者。それは色々面倒なことが起こっただろうなぁ」
そう言うと彼女はさらに硬直する。
あまり刺激しすぎると不味いかもしれないと思いながらも俺は言葉を続ける。
「それが原因でさらに虐めがエスカレートし始めて結局、転校せざるをえなかったんだろうな。そして、君は自分から自分を変える努力をしようとしたけれど、それも上手くいかなかったんだろう? こっちに来ても君はよそ者扱いだからね。たまたま廿六木が助けてくれたってだけで……」
「……確かにそうです」
と、闇深くに沈んだ美少女は小さく肯定した。
「で、君は結局逃げるのか?」
「――逃げる?」
彼女は俺の言葉に不思議そうな顔をする。
「私、別に逃げてなんて……」
「まぁ、確かに前に進むのは難しいことではある。でも、ここで逃げれば何も変わらないってことだけは確かだ。君の場合はお祖父さんが出してくれたお金さえも素直に受けとれずに学費免除の申請を出しているわけだし」
「お金の事は返すのがあたりまじゃないですか……」
と、彼女は小さな声で否定する。
「確かに返すのは当たり前ではあるけどね。君の場合、祖父母の方は返さなくてもいいから頑張ってここで馴染むようにと言われただろう?」
「な、なんで……知ってるんですか?」
「なんとなくだよ。君の資料を読んでいたらわかるさ……まぁ、強制はしないし退部とかもさせない。ちなみに部活に来てもらえると君には色々と特典があるということも考慮に入れて欲しいなぁ――と、思っている」
そう言うと、嶺衣奈が反応する。
「ちょっと……特典ってどういうこと?」
さすがに三連続で同じネタを書こうとして止めました(・ω・)