第4話 何はともあれ部員集め!
「はぁ!?」
書類を見た二人は同時に同じような声をあげる。
まぁ、当たり前の反応だな。と、俺は冷静にそれを観察する。
「さすがにこれは横暴というモノではないかしら?」
そう言ったのは廿六木嶺衣奈だ。
落ち着いて見えるが怒りの色が見てとれる。
「そうか? まぁ、あの人は基本的に横暴だな」
「って、こんなの酷すぎじゃないですか!」
三崎は怒りより焦りの方が先に出ている。
彼女の場合は当然と言えば当然だ。
「学内の不正アクセス、一部機材の横領。部がインターハイ優勝さえすれば、すべて不問にするっていうのは横暴じゃないだろ?」
「えっと……た、確かにそうですけどぉ。でも嶺衣奈ちゃんへの色々はちょっと酷くないですか?」
三崎はそう言うと、廿六木嶺衣奈は少し気まずい表情を浮かべる。
「それに関して廿六木はよく分かっているだろう。彼女は次期廿六木の当主だからな……個人での成績じゃ評価されないんだよ。残念ながらな。理事長はちゃんとその辺も考慮した条件なんだよ」
「でもっ!」
三崎は彼女を庇おうと必死に文句を言おうとするが、嶺衣奈に制止される。
「佳那いいのよ。私の場合は仕方ないわ……辞めたくても辞めれないわけですし」
「理解が早くて助かるよ」
「ですが、彼女がメカニックでは無くプレイヤーでの登録って条件は一体どういうことなんです?」
彼女は凛とした雰囲気をかもしながら言う。
当然、彼女に電子戦をやらせる為だ。どう考えても凄腕のハッカーがいた方が有利に決まっている。
「理由は言わなくても分かってるだろ? 団体戦の花形は前線プレイヤーの攻防だがそれ以上に人気のあるポジションと言えば」
「電子戦ですよね!」
と、話に乗って来る現在話題の張本人。
「佳那は部活で電子戦はやりたくないって言ってたじゃない……」
「あー、確かに言った。そうなんだよねぇ、態々部活に来てまでハッキングとかしたくないってのはあるんだよねぇ」
「まてまて、お前ほどの腕前でそれは勿体ないぞ。それに模擬戦闘競技部でプレイしていれば国家試験のS級認定も取りやすくなるんだぞ? 望めばその上の認定だって取れなくもない」
そう俺が言うと三崎はあからさまに嫌そうな顔をする。
そして、自慢げな顔をして否定してくる。
「いやいや、認定ハッカーって格好良くないじゃん。アウトローな感じがいいのに……認定ってなんなの? って感じなんだけど」
「何を言ってるんだ。認定ハッカー……まぁ、ライセンスのクラスによって様々な制限はあるが普通の人ではアクセスできない情報とかにもアクセス出来るようになるし、何よりS級認定は国内だと数えるだけしかいない特別なモノなんだぞ?」
と、俺の言葉に三崎は微妙そうな表情を浮かべる。
「レアリティが高いと言っても、そんなの取ったら管理されるじゃん……やっぱカッコよくないって」
「そうか? 認定ハッカーと言えば伝説のハッカー青井カンナとか寿限無三郎とか他にも色々いるぞ?」
「うそ? 青井カンナって認定ハッカーだったの!?」
「知らなかったのか? アイツは日本の国家認定特務ハッカーだぞ?」
これは一般的にあまり知られていない情報だ。
特に特務ハッカーというのは通常の認定D級~S級のハッカーのさらに上のクラスのハッカーだけが持つ認定コードで国家レベルの任務を行う特殊な仕事を受けることが出来るほどの腕前のハッカーにしか発行されない特別なものだ。
「って、先生は青井カンナと知り合いなの? アイツって……」
「あー、いや……名前くらいは知ってる程度だ」
誤魔化せていないと思いながら俺は適当な返しをする。
三崎は微妙な表情をしながらも、認定ハッカーの件に対して興味が湧いてきたという雰囲気を出していた。
「なんにしても、協力して貰わないと俺の方も色々と困るんだよ」
「一体、何に困る事が……まぁ、あの人が絡んでるのは分かるけど、先生も何か弱みでも握られてるのかしら?」
廿六木嶺衣奈は嫌味を言うように冷たくそう言った。
「弱みか……少し違うがあの人には色々と逆らえない事情があってな」
「そう……」
そして、俺の返事に冷たくそう言った。
私には全く興味はありません。と、言わんばかりに。
「でも、メカニックってどうするんですか? 私が兼任してもいいと思うんだけど」
「いや、さすがに数機のマシンデバイスを各選手向けにカスタムと調整をしながら電子戦の戦略や訓練をするのは無理だ。そこは既に頼める相手を見つけてある……まぁ、交渉はこれからなんだけどな」
「あー、もしかしてマシンデバイス部に頼むの?」
三崎はあからさまに嫌そうな表情をする。
「なんだ? 何か蟠りでもあるのか?」
「ま、まぁ……あそこの部長で行永愛梨っているんですけど。数少ない編入組で同じ中学だったんですけど……」
「なんだ、仲が悪かったのか?」
「えっと、まぁ……天敵というか、反りが合わなくなったと言うか……」
彼女は微妙な表情でそう言う。
「気にしているのは貴女だけよ……ちなみに行永さんの方が、バツが悪いかもしれませんけどね」
「え? どういうこと?」
と、三崎は不思議そうな顔をする。
「ちなみに俺も聞きたいところだな、そのエピソード」
「別にいいけど……」
そう言って彼女はチラリと三崎の方を見る。
三崎は何のこと? と、言わんばかりの顔をしていたので彼女は小さな溜め息を吐いて言葉を続ける。
「彼女達は中学の時に好きな選手の話でちょっとした言い争いをしたらしいわ。それで随分と険悪になって、次第に距離を置くようになったそうなのだけど……。ちょうど去年のとある試合で三崎が大好きな選手のこと見直したというかカッコイイと思うようになったんだそうよ。……だから佳那に対して悪い気持ちってのを彼女は持っている。と、いうわけですわ」
「え、そうなの? 如月選手のカッコよさに愛梨ちゃんも気づいちゃったわけ!?」
って、それ俺のことなんですけど……。
「佳那、ちなみにだけど、その人が目の前にいるんだけど」
「え? どこに?」
なんだか、とても腹が立ってくるが……と、ともかく部員集めの件は少しずつ進展しそうな気配があった。
佳那「如月選手カッコいいよね!」
嶺衣奈「目の前にいるじゃない」
えっ!? どこ?(/・ω・)/ (・ω・`)え?