第2話 面倒は自ら買うモノ
面倒は自ら買うとはよく言ったモノだ。
正直、買いたく無くても買わざるを得ない状況というのが自分にとってはいつもの事である。どうにかして脱出したいと思っていてもこの地獄からは抜け出る事が出来ない。
そう、逃げてはいけない理由があるからだ。
プロとして模擬戦闘競技をやっていた時も全てを捨てて逃げる事が出来るチャンスがあった。
チャンスはあった――しかし、俺の中の正義がそれを許さない。
犬畜生にも劣る行為をしたという不名誉が死ぬまで付きまとうだろう。
正直、現状を言ってしまえば――死にたくても自由に死ねないが……。
俺はそんな事を考えつつ、今回の任務についての資料を確認していた。
課せられた任務の第一はこの学園の模擬戦闘競技部を一年でインターハイチャンプにする事。
これも問題だらけではあるが、一年という期間と人材さえ揃っていればなんとかなりそうな気はする。
ただ、人材がいないのだ。
現在、学園でこの部に所属している女子は三名。
その三人とも二年生――ひとりは俺が胸を揉んでしまったあの黒髪の子だ。
しかも、彼女はこの学園の創始者の曾孫である廿六木家のご令嬢である廿六木嶺衣奈だ。
彼女の成績を考えると我が部の絶対的エースと言えるだろう。
去年の個人の部、狙撃競技では全国優勝をしている。
団体競技の経験が全くないのが困った点ではあるが、そこらは彼女の素質を考えればどうにでもなるだろう。
残りの二人は個人競技にも出ていない。
しかし、なかなかに面白そうな人材ではある。
特に現状、メカニック担当となっている三崎佳那。
近年珍しい一般枠からの入学だが、以前の経歴からかなり凄腕のハッカーだ。
「中学生で凄腕のハッカーか……」
ハッキング関連の事件で捜査線上に上がっていた事があったらしいが、証拠らしい証拠もなく容疑者からは外されたらしい。ちなみに未解決事件だ。
これも麗子さんの情報網がなければ知り得なかった情報なのだが、確実に彼女が絡んでいることは間違い無いだろう。
そして、三人目は坂神真美だが……。
学内での成績も運動神経も悪くは無い。しかし、それ以外の情報が無い。
実際に部活に出てから考えるか。
次に考えなくてはならない事は部員をいかにして集めるか――
と、いうことろだが……これは慎重に考えていかなければならないだろう。
三年生は除外して一、二年生のデータをチェックしていく。
三十人ひとクラスが五クラスの一学年百五十名。
二学年分で三百名の経歴と現在の部活動、成績、教員の評価が記載されているデータを何となしに閲覧していく。
麗子さんから受け取った情報から既に幾人かはピックアップしているのだが、彼女達が模擬戦闘競技部に協力をしてくれるかどうかは不明である。
だからこそ、保険をかけなければいけないのだ。
ちなみに団体競技に出場する為には最低でも六名の部員が必要でインターハイを目標にしているので控えの選手を考えると八名は欲しい。
メカニックに関しても整備担当者が最低でも三名はいるだろう……が、これに関しては専門知識が必要になる為に予算が多く付けられるところでは業者に任せているところも多い。
麗子さんの情報によると、マシンデバイス同好会が協力者となってくれる可能性はあるらしい。
これも可能性と書かれているところを見ると何か問題がありそうだ。
正直言って、色々と面倒な事が多い。
しかし、麗子さんの頼みだ。なんとかせねば後々が非常に面倒だ。
ああ、間違いなく面倒だろう。
命の灯も消えるかもしれない――いいや、俺の命は無いだろう。
ま、既にこの面倒を買い受けてしまったのだ。
やるしかない……のだが、前途多難過ぎてボーっとしてくる。
世間的に模擬戦闘競技の選手が女子に人気があったりするのは認めよう。アイドル選手もいるほどだからな……。
しかし、見るのはよくてもやるのは別ってヤツだ。
マシンデバイスという武骨な戦闘兵器に乗り込み、特殊な戦闘フィールドで銃撃戦を行う事スポーツなのだから。男子にも人気のあるスポーツだがスポーツ人口は年々減りつつある。
平和な時代が長くなれば長くなるほど廃れる可能性が高いスポーツだと評論家は言っていた。
俺もその通りだと思う。
この学園が過去は名門校であったが、今では廃部寸前のクラブというのは時代の流れという逆らえないモノに流されているからだ。
さて、どうやってこのピンチを乗り切るか……。
考えれば考えるほど気が遠くなりそうな気持ちにはなるが、受けた仕事は完璧にこなす! と、いうのが『俺が俺である為』には必要な行為なのだ。
が……が、しかし、だ。
正直言って、女子供というのもあまり得意では無い。
うーん、やっぱりハードルの高い仕事だなぁ。
そんな事を考えつつ、俺は再度資料のデータが目に焼き付くのではないかと思うほどに読み返す事にした。
次話から動きだします。
たぶん……たぶんね(・ω・)