第1話 模擬戦闘競技部!?
ノベルアップ+で掲載していたモノを若干改稿しております。
ぼちぼち更新していきますので、楽しんでいってくださいな~(・ω・)ノ
俺はこんな所を何故に逃げるように走っているのだろうか?
正直、理由は分かっている。それは簡単なミスなのだ。
後ろから追いかけて来ているのはこの学園の守衛だ。
ちなみ彼は俺に対して【不審者】と叫んでいるが、俺は不審者でも何でもないハズなのだが――いや、ある意味【不審者】というのは間違ってはいない――知らなければ不審であるのは間違いないのだからっ!
これは彼是、数分前の出来事だ。
俺はある人物の依頼でこの学園の模擬戦闘競技部の指導者として招集されたのだが、手違いがあってある人物は不在で、事前に渡されていた学園へのゲストパスを紛失してしまったのだ。
守衛と口論になった挙句、ついイラッとして強行突破してしまった。
うん、ここまでは……まぁ、よくあることだ。
問題はその後だった――
「……ちょっと、これは一体どういうつもりなの?」
冷たく響く声はある人物とよく似た雰囲気の声を発した。
俺はとりあえず強行突破してある人物の部屋までいけば何とかなると鷹を括って足早に守衛を躱し校舎内に入り移動していたのが、あろうことか女生徒とぶつかってしまったのだ。
しかも、運悪く俺が覆いかぶさるように彼女を押し倒すような形で――
彼女は深い闇色の髪が美しい美少女で俺は思わず見惚れてしまい、微妙な沈黙がその場を包んだ。
そして、彼女の不機嫌そうな声で我を取り戻す。
いや、まだここまでは……よかったと言いたい。
いや、倒れた時点でダメだったのか、何故にあそこに手が乗っていたのかさえ、今考えると分からない。
俺の気の迷いか、神の悪戯か……。
「ぶつかったのは私も悪いとは思うけど、どうして胸を揉んでいるのかしら?」
そう、あれは小さくも柔らかい物だった。
俺は無意識に手に触れている物が何かを確かめるようにフニフニと掌でそれを確かめてしまったのだ。
考えてもどうして、その行動が出てしまったのか分からない。
しかし、してしまったのはどうしようもない。
そう、俺らしくないのはそこでパニックを起こして逃げてしまった事だ。
追いかけてきた守衛に見つかりそうだったという事もあるが、色々とマズイ展開だと焦ったことからやってしまったのだ。
と、脳内で何度も言い訳を考えても今更だということも理解しているのだが……。
逃げずにはいられない。
学園の校舎は非常に広く複雑な構造となっている。
正直、この校舎を作ったヤツは何かと戦う気なのか? と、突っ込みを入れたくなるほどだ。
そう、まるで要塞のような造りだ。
しかし、そのおかけで何とか逃げ切れそうな雰囲気だ。
後ろからまだ守衛の声が聞こえてくるが、俺は気にせずに校舎を駆け、中庭の方に脱出する。
中庭から学園の駐車場まではそんなに離れてはいない。
俺はそこに止めた自分の車までいけば、勝利だ。
守衛程度に捕まるようでは――と、思いつつ、中庭と駐車場を隔てる垣根と壁をヒョイと乗り越え、着地する。
「ふぅ、とりあえず――後は車まで……」
俺は安堵から呟いた瞬間、血の気が引く。
「後はどこまで行くって……零次?」
駐車場で出会ったのは不機嫌そうな顔をしているある人物だ。
その瞬間、ある人物の姿を確認しつつ、彼女から繰り出された蹴りが俺の顎を確実に捉え、俺は勢いよく後方に回転し壁に猛烈な勢いで激突し俺の視界は暗転する。その時、一瞬思ったことがひとつ――
俺は死んだ――
薄っすらと意識が回復し、全身に痛みを感じつつも現在地が屋内であることを感覚的に認識する。
女性特有――いや、ハイヒール特有の足音が俺に近づいてくる。
そして、俺の傍で立ち止まる。
何か、ピリピリとした雰囲気を感じ俺は焦りを感じる。
これは危険だ、急いで起き上がらなければ……。
と、思っていると、彼女は俺の行動より先に動いた。
「……はぁ、いつまで死んでるつもりだ、殺してはいないだろう? この馬鹿者!」
頭に強い衝撃を感じたと思うと、俺の身体は宙を回転しつつ壁か何かに身体を打ち付けられる一度、意識を失うかと思う痛みを感じながらも気を張って何とか起き上がる。
「くっ……な、なんとか……生きてるぜ……」
俺は思わず悔し気に言ってしまう。正直、生きていたくて生きている訳では無い。
だからこその言葉だ。
しかし、現実はなかなかにそうはさせて貰えない。
「零次。私が時間に遅れたことは悪いと思うが、来るなり問題を起こすとはどういうつもりだ? 私が好きすぎて、迷惑を掛けたいなどと捻くれた狂った愛情を向けているのか?」
「だ、誰が……っつ……思いっきり蹴ることはないだろ……」
「軽い愛情表現だ。で、何故にこんなことになっている?」
「あ、あー。アレだ。守衛と口論となってしまい、ちょっとした出来心で……」
「ふむ、出来心でお前は女生徒を押し倒して胸を揉むのか?」
「いや、そ、それもだな……事故というか……」
「全く、貴様というヤツは」
彼女の名は間宮麗子。
俺の昔馴染みで唯一信頼できる人間だ。
「女生徒を襲うような風に育てた覚えはないのだがな?」
「育てられた覚えもないが、ちなみに不可抗力だ。言い訳でしかないと思うが、わざとでは無いからな」
俺がそういうと彼女は小さくため息を吐く。
「では、何故逃げる? 逃げれば言い訳は出来んぞ?」
「あの場は撤退しかなかったのだ。それに麗子さんがいなければ確実に撤退出来ただろう……」
「ほう、私が悪いのだと零次はいうのだな?」
「そういうワケではないのだが……」
「まぁ、いい……」
彼女は冷たい雰囲気を纏いながら窓の外を見る。
彼女は大した感情などは見せず、面白くなさそう――いや、つまらなさそうな瞳をしていた。
彼女こそが俺を招集した人物であり、この学園の理事長だ。
この学園は廿六木女学園という旧大戦以降に廿六木征治という人物によって建てられた学園である。
廿六木征治は政財界に大きな力を持っており、その力を使い、学園に多くの子女を招き入れ、創立30年の頃には名門女学園として政財界では人気の学園となっていた。
しかし、廿六木征治の死後10年くらい経った現在は廃校の危機を迎え、生徒の数も随分と減って来ていた。
その後に彼女が理事に就任した後にも色々あったのだが、何とか廃校の危機を回避した。
そして、彼女は新たな計画として第四次世界大戦時に使われていた兵器を使用した戦後から人気のスポーツである模擬戦闘競技部の復活を掲げ、俺を招集したのだった。
廿六木女学園の模擬戦闘競技部は名門女子学園として人気を博していた頃はインターハイなどの全国大会常連校であり、プロリーグの選手も排出していたのだが、近年は県大会の一回戦敗退があたりまえの弱小となっていた。
彼女から貰った情報によれば、現在の部員数が三名しかおらず、部としての存続さえ危ういというほどの落ちぶれっぷりだ。
「零次。どれくらいで全国まで行けるのかしら?」
彼女はそう言った。
その言葉は『出来て当然よね』と、いった雰囲気だ。
「麗子さん、部員が三名しかいない状況では模擬戦闘競技で一番の人気競技である小隊戦さえ出来ないですよ?」
「それくらいは知ってるわよ。でも、零次ならどうにか出来るでしょ? 出来ればあまり時間を使いたくないのよね……そうね、出来れば来年のインターハイには確実に全国優勝を目指すほどの部にしてもらいたいところね」
と、彼女はつまらなさそうに言った。
普通の人間にはつまらなさそうに見えるだろう――俺にも見えるが、つまらなさそうに見える時ほど彼女は楽しんでいるのだ。
とても捻くれていて、面倒くさくて扱いにくい人ではあるが、彼女ほど恐ろしい指揮官はいない。
彼女の元で否定は死を意味する。
それは幼い時より知る俺でもだ……俺は何としてもやらなければ彼女に袋叩きにされると確信を持ちつつやらざるを得ないと腹を括る。
「ま、なんとかするしかないか……」
と、俺の言葉を聞いて少し笑みを浮かべる。
「楽しみにしてるわ。それと、今回の騒動に関してはまた追って通達するわ。まずは学園寮の方に入居する手はずを整えなさい。あと、新しい資料の方をメールで送ってあるからそれも確認しておいて頂戴」
「了解」
俺はビシッと敬礼をして、彼女の部屋から出ようとする。
「零次、待ちなさい」
「なんですか、麗子さん……」
彼女は俺に向けて書類の入ったファイルを放り投げる。
俺はそれを無造作に受け取り、中身を確認する。
「身分証の発行をしておいた。如月零次名義でのここでの活動で必要なモノだ。学園寮の方にも部屋と荷物も移動させておいた」
「俺の知らぬところで中々にやってくれますね……」
この人からの指示はいつも突然でその他の用意も俺の知らない間に終わっている。
ここ数年、模擬戦闘競技のプロ選手として活動させられていたのも彼女の命令であった。
なお、今件でそれが伏線であったことも分かったわけだが……。
「こっちが本命ってことか」
「そうだ。しっかりと頼む。ちなみにだが、例のモノの捜索も頼む」
「それはこの学園にあるってことですか?」
「わからん、しかし、可能性はある」
「なるほど了解しましたよ、可能な限りはやらせてもらいます。麗子さん」
「ああ、わかったらさっさと次の行動へ移れ」
「ハッ!」
俺は再び彼女に向けて敬礼をして部屋を出る。
そして、すぐにファイルの中に入っていた身分証を身に付けた。
さすがに何度も不審者として追われるのは勘弁だったからだ。
あとがきって何書けばいいんでしょうね。
いつも、迷います(・ω・)