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プロローグ

 最後に思ったことって何だったかな、と思い返す。

 うちは普通のごくごくフツーの家庭だった。口やかましい姉と人懐っこい笑みを浮かべた小悪魔な妹に挟まれた真ん中男子の俺は、それはもういろいろと世話を焼いていたけれど。両親は分け隔てなく可愛がってくれたし、姉は怖かったけど少女漫画を貸してくれたりおやつを譲ってくれたりして優しかったし、妹はいたずらばっかりする子だったけれど俺が本当に嫌なことはしなかった。

 その日は雪が降っていた。

 センター試験に向かうために雪の中を単語帳を片手に歩いていた俺は、大変間の悪いことに雪でスリップした乗用車にはねられて打ちどころが悪くて死んだのだ。

 もっといろんなこと、やってみたことがあった。

 恋愛だってまともにしたことはなかったし、ああ、本当に後悔先に立たずだな。

 姉と妹がバカって怒りながら泣いている顔がなぜか頭に浮かんで、そして消えていった。





 目を覚ますと、俺の顔を覗き込んでいる金髪の美少女が目に入った。すごいかわいい。年齢的には七歳くらいだろうか。髪は長くて縦ロール。これ巻くの大変なんだよな。妹がやりたがってやってあげたことがある。目が吊り上がっているところも可愛い。とがった唇は桜色で砂糖菓子みたいだ。フリフリふわふわのドレスはどこかの国のお姫様のよう。


「ばかーっ!」


 先ほど姉たちに言われたことを、もう一度目の前の少女は繰り返した。気付けば俺の体はびしょ濡れで、そしてここが外なのだということを感じる。空は青空。ちくちくと感じるこの感触は下は芝生かな。


「ヴィリバルト! ヴィー! こんなことで命を落とすなんて許しません! わたくしの義弟(おとうと)になるというのなら、生きて生きて生きぬかねばならないのです!」


 ヴィリバルト、ああ、なんだろう。なつかしい。

 なつかしい? 何を言っているんだろう。俺の、名前、なのに。


「……ぁあ、ねぇ、さま」


 俺の義姉(ねえ)様。美しく麗しく気高い。ラッツィンガー侯爵家の薔薇。

 マルガレーテ・ジーグルーン・フォン・ラッツインガーは俺のか細い声を聴き届け、しっかりとその白い小さな指先で俺の手を握ってくれた。俺の手もちいさい。それもそうだ。俺はまだ五歳になったばかり。子どもも子どもだ。

 少しばかり嫌な夢を見ていた。俺はこの屋敷にある噴水に落ちたのだ。やんちゃな盛りだった俺は、へりを歩くのが楽しく仕方なくて義姉が止めるのも聞かずその上を走りそして水に滑って中に落ちた。水そのものの深さはほとんどなかったのが災いして、俺は頭を打ち付けた。目から火花が散るかのような衝撃の後、俺は思い出した。前世の出来事を。俺が高校三年生男子だったころのことを。

 けふこふと咳き込んで口に入ってしまった水を吐き出す。

 俺は一人娘のマルガレーテ義姉上しかいないこのラッツインガー侯爵家の遠縁で、男子であり貴族の証である魔力持ちであったがために養子として連れてこられた子ども。名前はヴィリバルト。ここで与えられた名前はたしか、


「ヴィリバルト・フォルクハルト・フォン・ラッツィンガー」


 呪文みたいなのによく噛まないもんだ、と感心しながら、手を引かれて俺は起き上がり立ち上がった。

 少し見上げるような視線になった先のマルガレーテ義姉上はちょっと目が潤んでいる。心配してくれたのだと思うと、胸がほんの少しだけ痛んだ。


「わたくしの大切なおとうとに何かあったら、わたくしどうしたらいいの?」


 うるうるとした目でそう言われると弱い。思い返せば妹にもよくこんな顔をされていろんなお願いを聞かされていた。


「……義姉上」


「何です!」


「もう一度、ヴィーと呼んでください」


 てへへ、と笑ってみせると、ごつんと頭を叩かれた。なかなかの衝撃。


「笑ってる場合ですか! わたくしは止めましたのに聞きもしないで危険な目にあって!!」


「ごめんなさい。義姉上。あの、もうあんなことしないって約束します」


「そうしてちょうだい。わたくし、ヴィーが死ぬかと思って、ほんとに」


 ぐわ、と瞳の縁にたまっていた涙が決壊した。アイスブルーの瞳が涙に濡れている。ああ、かわいい。かわいいなぁ。俺ロリコンだったかな?


「ごめんなさい!」


 ぎゅうっと抱きついてみると、ちょっとだけ義姉上の体がこわばった。あ、これ間違えた?

 でも、そのあと、おそるおそるといった感じで背中をぽんぽんと叩かれた。やさしい力で。


「あなたも怖かったのですよね? ごめんなさい。わたくし取り乱しましたわ」


 齢七歳とは思えない態度。これが貴族のご令嬢ってやつなのか。スペックが高すぎるわ。


「ヴィー。屋敷に戻って着替えましょう。風邪をひいてしまいますよ」


「はい! 義姉上!」


「あら、わたくしがヴィーと呼んでいるのに、あなたは義姉上なんて呼びますの?」


「な、なな、なんてお呼びしたら?」


「そうですね。二人だけの秘密にするなら、メイでいいですわ」


「メイ?」


「二人だけの時だけですわよ?」


 愛称だなんて、と義姉上が続けたので、これは相当仲良くないと呼んではいけないやつ? なんて思いながら特別な間柄になったことに、俺はちょっと浮かれていたのだった。




 そのあと、ばあやたちにお説教2時間コースでたくさんたくさん怒られたのだけど、それはまた別の話。




 これは少女漫画にありがちな悪役令嬢みたいな義理の姉上に恋をした、モブにしかならないような義理の弟の恋のおはなし。



勢いに任せて書き上げてしまいました。

たった一人の女を愛する男の、恋のおはなし。

ハーレム展開はございません。

ただただヴィリバルトが姉を可愛い可愛い言ってる感じになると思います。

よろしければお付き合いくださいませ。

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