序章的な何か
初めまして、ゆっくり書いていきます。
幼いころは大きな本を脇に抱えて持ち歩いている姿がカッコイイものだと思っていたこともあったが、そんな勘違いも数か月のうちに手首にシルバー巻いてみるといったような新たな流行に飲まれていったものだ。
生まれてから二十と数年のうちにそんな個人的な流行はいくつも生まれては消え、そして記憶の片隅に確かな傷痕を残していった。
そんな俺が現在めっぽうハマっていることが所謂なろう系と呼ばれる一種の小説投稿サイトへ寄せられた自己顕示欲が独り歩きし、カタチを保てないままに肥大化した文字の掃き溜めを作品と言い張る可哀想な人たちにこれは小説なんて言えたものではないよと諭し、小説家気取りの痛い人たちを正気にもどしてあげる慈善事業(なろう系レビュアー)だ。
ある日のこと、俺は一人暮らしをしているアパートの一室で日課となっている投稿サイト新着タグから駄作を掘り出しては正当な評価をつける作業に勤しんでいた。
まさかその日に出会った作品が自分の人生をここまで大きく動かすとは予想だにしていなかった俺は、いつも通り日課を済ませて昼食を買いに近所のコンビニへ向かう。
いつもの弁当を購入してアパートへ引き返すと、自分のつけたレビューに返信があると通知が来ていた。
酷評とられることの多い俺のレビューに返信があることは珍しいといえる。たいていの作者は俺をアンチと認定して無視を決め込むかそもそも俺のレビューを削除してしまうからだ。
なんとなく興味をひかれ通知を開いてみると、返信の内容は非常にシンプルなものだった。
「だったらお前が書いてみろ」
俺はあまりにもテンプレ的な言葉になんとも言えない悲しい気持ちになった。返信をよこした作者の作品自体もまさに個性というものがなかったからだ。
テンプレを重ねただけの薄い設定に、はやりに乗って登場させたとしか思えない記号的に属性だけを与えられた魅力に欠ける登場人物たち。
王道と言えば聞こえはいいが、結局はどこかで見た展開の繰り返しのお粗末なストーリーになによりも作者の文章力が小学校低学年の子が話すような主語も述語もない、ただ単語をつないだだけのお粗末なものだった。
やれやれ。
ため息をつきながらPCの画面から目を離した次の瞬間、俺の全身をバラバラにするほどの衝撃が加わった。大型トラックがアパートの自室に飛び込んできたのだ。
間違いようのない即死だった。
五感を奪われてさまよう暗闇の中で俺はこころに直接語りかけてくる声を確かに聞いた。
お前が書いてみろ。