ミルフィーの冒険 1
僕の名前はミルフィー。かわいい黒猫だ。現在、大魔王を打ち倒すために、勇者たちと行動を共にしている。
この世界は大魔王の魔力によって、闇に覆われてしまった。大魔王の魔力はすさまじく、声を発せば嵐が吹き荒れ、手をかざせば雷鳴がとどろき、歩けば地震が発生し、その姿を見たものは魂を吸い取られ、地獄に落とされるらしい。ああ。恐ろしい。
そんな荒廃した世界に神の使い勇者が現れた。彼は豪傑の戦士、武術を極めし武道家、天才魔法使いを仲間にする。そして、大魔王討伐の旅に出る。過酷な旅路だった。陸路で獣王を倒し、航海では海王を打ち破り、天界では大魔王の手先、堕天使を激戦の末、打ち負かした。
そして、僕らのパーティーは大魔王が支配する魔界へと出向いた。大魔王の部下たちをなぎ払い、僕らはようやく大魔王の根城の前まで歩を進めた。今日はその近くの森で暖を取り、明日の最終決戦に備えることとなった。
深夜。僕は眼を醒ます。勇者が焚火の前で考え事をしていた。他のメンバーは寝ている。
「ミルフィー、起きたのかい」
勇者が僕に話しかける。僕の首輪にはミルフィーという名前が刻まれている。だから、誰もが僕をミルフィーと呼ぶ。そして、時々、勇者の話を聞いてあげる。僕は聞き役専門だ。だって、猫だもの。人の言葉は離せないよ。
僕は勇者の肩に乗った。
「聞いておくれよ」
いいとも。
「僕らはどこから生まれてきたんだろう。何のために生きているんだろう」
確かに難題だね。僕は勇者の顔に頬をこすりつける。今日はとことん聞いてあげるよ。
「そう考えたら、大魔王征伐の旅の意義がわからなくなったんだ」
それは大変だ。勇者は大魔王を倒す。それが存在意義なんじゃあないか。僕は尻尾で勇者を叩いた。おい、こら、しっかりしろ、大魔王の根城前だぞ。
「ミルフィー、なんだよ、じゃれてくるなよ」
じゃれているんじゃあない。叱咤しているんだ。尻尾でペシペシ。
「でも、勇者なんだから、大魔王を倒さないといけないよな」
当たり前だろ。
「ごめん、変なことを言って。明日の最終決戦、頑張ろうな」
僕はまた勇者の顔に頬をこすりつける。頑張ろうぜ。
勇者は安心したのか、ようやく寝床についた。やれやれ、まったく、世話が焼ける。
翌日、僕らは大魔王城へ乗り込んだ。数多の強敵を倒し、大魔王の座へたどり着く。最終決戦が開始される。
「来たな、勇者よ、我がパワーを見るがいい!」
大魔王の一声で、大きな衝撃波が発生した。城は一瞬にして破壊される。外に放り出される勇者たち。大魔王が巨人と化す。
勇者は大きく飛び上がり、大魔王の胸めがけて、勇者の剣で攻撃する。一閃。空間が切り裂かれる。大魔王の胸から緑の血が流れる。
戦士、大きなオノで魔王の右足を攻撃。オノが食い込む。
武道家、音速の正拳突きを連打する。
魔法使いは巨大な爆裂呪文を唱える。
僕は遠くの森から静観。
大魔王の攻撃。巨大な腕で勇者たちをなぎ払う。吹き飛ぶ勇者たち。大魔王め、やはり強いぞ。
「みんな僕に力を」
勇者の掛け声のもと、メンバーが集まる。そして、勇者にエネルギーを分け与える。
「ミンナデイン!!」
勇者は聖なる呪文を唱えた。黒い雲が空を覆い、大きな雷鳴がとどろく。そして、強大な雷の柱が魔王の脳天を襲った。大魔王は断末魔の叫びをあげ、絶命する。
こうして、勇者の活躍により、世界は救われた。
おめでとう、勇者よ、新しいプレイヤーのもと、再び大魔王を打ち倒すのだ。
僕はそれを見届けて、新たな世界に旅立った。