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創造主 その6

 胸のワクワクを押さえるために、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 ゴソゴソとバッグの中を漁り、一枚のルーズリーフを取り出し、そして創造主様に教わった通り、ぐっとその両端をつまみ力を入れる。

 すると紙の表面に、じんわりと文字が浮かび上がっていく。

 おお!これが俺のステータスか!すごい!ちょっと感動。頬をなにか暖かいものが流れていく。

『な、泣くほどうれしいのか……悪いことしたな』

「なにが悪いことなもんですか!俺はいま猛烈に感動している!」

『あ、うん。それでもごめんね』

「いいの!いいの!」


 おっと。気がついたらルーズリーフいっぱいに文字が浮かび終えていた。

 すぐにでもステータスを見てみたいけれども、ひとつずつじっくりと楽しんで確認することにしよう。好物はゆっくりと味わって。それがいま出来たばっかりの俺のポリシーだからな。


 一旦紙を裏返して、ゆっくりと少しずつめくっていき、一行ごとにひとつひとつ確認していく。

「ジャカジャカジャカジャカジャカ~~ジャカジャン♪」

 隣で女神様が口でファンファーレを鳴らしてくれる。かわいい。

 存外ノリのいい女神様のおかげで気分は最高潮に達し、その気持ちの高鳴りにあわせて結果を読み上げる。

「まず最初に筋力の発表です!」

 わーわーぱちぱちぱち。と拍手が起こる。


「えー。上からー握力70kg! 背筋力175kg! ベンチプレス85kg……って、あれ?」

 なんだかどっかで見た数字。


「えっと。どうなさいました?」

「申し訳ありません。少々お待ちを」

 突然読み上げを止めた俺の様子を不思議そうにうかがう女神様に断りを入れ、一気に下までステータスの書かれた紙を確認する。

 するとそこには……。


 ステータス


 名 前 チトセ=ハラダ

 レベル 17

 クラス 2-8

 体 重 63kg

 身 長 176cm

 筋力

 握力 70kg 背筋力 175kg ベンチプレス 85kg

 敏捷性

 100m 10秒73

 瞬発力

 反復横跳び 75回

 持久力

 10000m 32分22秒82 ハーフマラソン 1時間8分41秒

 泳力

 50mクロール 25秒16

 知力総合

 全国偏差 70 校内偏差 58

 運

 大吉 待ち人来たる

 ・

 ・

 ・

 以下略

 

 激しいめまいに襲われる。

 いかんいかん、まずは深呼吸だ。

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ、すぅぅぅぅぅぅ」

 よし、落ち着いた。だから叫ぶ。


「コレただの記録表じゃねーか!!!!」

「わぁっ! びっくりしたぁ」


 俺の叫びに驚いた女神様が耳を塞ぐ。でもこれは叫んでしまっても仕方ない。

 だって、書かれているステータスのどれもこれもが、学校や行事で測ったことのある俺の記録ばかりなんだもの。

 一番ステータスステータスしているレベルの表記は、間違いなく年齢のことだろうし、クラスなんかは職業クラスではなく、モロに学級クラスだ。

 しかも運に至っては、初詣の時にひいたおみくじの結果が出てやがる。

 もし俺が高級な車や腕時計とか持っていたら、それもステータスとして反映されそうなステータス表だ。 


「普通筋力SとかAとかで表しません!?」

 自称ステータス表を女神様に突きつけるように見せる。

 女神様は一生懸命に目を左右に走らせて表を読み、そして答えた。

「そ、そうですか? こうして明確な数値が出ているほうが、わかりやすくて良いと思いますが」

「そうじゃないんです! それが定番であり、ロマン! ロマンなんですよ!」

「そ、そういうものなんですか」

「そういうものなんです!」

 わかってんのか!創造主クソヤロー!いや!わかってやってんだよな!おい!俺の純情返せ!


 うぐぐ。

 腑に落ちなさすぎて、思わず女神様に突っかかってしまったが、こんなことをしても仕方がない。

 それでも未練たらたらに紙の下へと目を動かしていくと、とある項目に目がとまった。

 そう。それは所持スキルの一覧だ。

 はい来た。勝ち確。

 時空を操る忘れ去られし禁断の魔法や、次元をも切り裂く究極最奥の剣技がこの中に記されているんですね。わかります、わかります。

 あ、でも俺魔法使えないんだった。でも、まあ、きっと、なんか、その、すごいのがあんだろ。


 さあ!いまここに俺の隠されし力が、白日の下へとさらされる!!



 所持スキル


 漢検 準2級

 英検 2級

 剣道 2段

 書道 硬筆5段 毛筆5段

 原付免許

 丙種危険物取扱者

 ・

 ・

 ・

 以下略


 あ、はい。資格・段位・技能(スキル)ね。


 笑いがこぼれる。

「はははは」

 スマホをぐっと強く握る

「なん!」

 握り締めた手を高く掲げる。

「でや!」

 握り締めたスマホを岩へと叩きつけるっ!!

「ねえええええええん!」

 

 スマホがポンと弾んでどこかへと飛んでいってしまったが、もう知らん。もうどうにでもなれだ。

 腕はプルプル、奥歯はギシギシ、こめかみはピクピク。俺をここまでキレさせたら大したもんっすよ。

 ポコペンと鳴り続けながら飛んで行ったスマホを、女神様がダッシュして拾いに行ったけれど、それを気にかける元気はいまの俺にはない。

 ……ないはずだったのだけれど。

「あ、あの。これ。うまく画面が動かなくって」

 あっという間にスマホを拾い、あっという間に戻ってきていた女神様がそう言った。

 女神様の手は変わらず白い手袋を着けたままだ。ちょっと前にも言ったけれど、それでスマホが反応するわけないのに、画面をスクロールさせようと必死になっている。

「さっきも言いましたが、手袋取ればできますよ」

 見て見ぬ振りをしようとしたが、女神様のしどろもどろな姿に思わず声が出てしまった。

 すこしつっけんどんな言い方になってしまったが、ストレスフルないまの俺にしては上出来だ。

 そうは言ってみたものの、やっぱり女神様は手袋を取るようなことをせず、真っ直ぐな瞳で俺を見つめてくる。

 ソレほどまでに手袋は取りたくないのだろうか。

 仕方ない。一度深呼吸して怒りを吐き出そう。

「はぁー。わかりました、わかりました。ソレかしてください」

 キラキラと輝く女神様の瞳に屈してスマホを受け取り、画面を操作して表示された文字を見る。

 にしても、アレだけ強く岩にスマホを打ちつけたというのに、ヒビひとつ入っていないのは、これもチートのおかげか。しかもよく見ると充電のところが∞%になってるじゃん。

 そんなどーでもいいことを考えながら、画面をスクロールしていき、創造主様からの()()()トークが目に入った。


「えっ?」


 スルリと手からスマホが抜け落ちる。

 いままでの怒りはスッと消え去り、肌が粟立った。

「どうなさったんですか? ヒヂリ様はなんとおっしゃっているのですか?」

 スマホを覗き込んでからの俺の様子がおかしいことに気づいた女神様は、落ちたスマホを拾い上げて画面を覗き込む。

「あれ?さっきの画面はどこにいったのでしょう?また表示していただけませんでしょうか?」

 俺の目の前にスマホが差し出される。しかし、今度は女神様のお願いを叶えて上げることはできない。

 だって、そこに映っている画面はただのホーム画面で、さっきまで使っていたアプリがなくなっていたのだから。


 俺が見た最後のトークを思い出す。

 そこには創造主様らしい短い謝罪の言葉と、理解しがたい内容の文章があった。

『いやあ、ほんとメンゴメンゴ。ま。今回だけこのステータスチェックをやらないワケにはいかなくってさ。それじゃあ、いまからふたりには旅立ってもらうワケですが、頑張って勇者たちを見つけて世界を救ってください。いきなり大変だろうけれど、きっとどうにかなるさ!そしてこれだけは言っておく。必ずミタマの事は守ってやってくれ。もう死ぬところは見たくないんだ。だから頼む』


 ()()だけ?

 世界を救ってくれ?

 女神様を守れ?

 死ぬところは()()見たくない?


「い、一体アンタは何を言っているんだ?」

 溢れる疑問を口から出しても、創造主へと繋がる術を無くしたスマホからは、答えが返ってくることはもう無かった。

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