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創造主 その4

『さてと、これでふたりへの話は終わった。ってことで、ちょっとミタマは席を外してくれるかな? 少しナイショの話があるから』

「え?俺に?女神様じゃなくて?」

 一体なんじゃらほい?

 女神様抜きってことは、大事なお話ですか?それとも、女神様に聞かせる必要の無い、しょーもないお話ですか?

 俺が不思議に思っている間にも、女神様は創造主様の指示に従い行動を起していた。

「はい、かしこまりました。お話が終わりましたらお教えください。それではごゆっくりどうぞ」

 女神様はそう言い、ニコリと微笑んでここから離れていった。随分と素直なムーブだけど、向こうへ行くその後ろ姿は、スキップをしながらも妙にソワソワとしていて、なんだか落ち着きが無い。

 女神様も創造主様が俺だけに話があるということが気になるのだろうか?

 キョロキョロと辺りを見回している後ろ姿を見つめて、そんなことを考えていると、通知音が思考を遮る。

『それで、ナイショの話なんだけどさ』

 女神様を退席させてするほどの話とは、いったい何事でしょう?

 ナイショ話がしたいということだから、念のため女神様には聞こえないように、心の中で会話をする。

『ミタマには聞こえないよう、ちょっとした魔法かけてあるから喋っても大丈夫よ。意外と心だけの会話ってさ、自我があるせいで難しいんだよね』

「ああ、それは助かります。会話中でも考えって巡っちゃいますから、伝えたいことだけ考えるのって、難しいんですよね」

『でしょでしょ? さて、それじゃあ前置きも面倒だし、さっそく本題に行こうか。かなりの衝撃だから心してね』

 心してね。との前置きがあるってことは、ホントに衝撃的過ぎるってことですよね。

 そこまでの衝撃があるってことは、よっぽどヤバいことなんだろう。たとえば……。

「えっと、俺はやっぱり死んでいるとか……ですか?」

『いやいや、それは大丈夫。ちゃんとミタマに助けられてるから、心配いらないよ』

「そ、そっかぁ!よかったぁ! まあ、それがホントでも嘘でも、俺にはどうしようもないですが。ただ心の準備をしておいた方がいいかなぁ?なんて思っていただけで」

『そりゃ杞憂ってもんだ。んじゃまあ、その話は置いておいてと。はい、衝撃に備えて深呼吸して~』

「ええぇ……そんなに衝撃的なんです?」

『うん。かなりの衝撃発言だね』

「そ、そっかぁ」

『ホントに衝撃的だからいっぱいリラックスしてから聞いたほうがいいよ』

 念を押されてしまった。ならば俺も入念に心しよう。深呼吸を何度か繰り返して、衝撃に備える。

「スゥーハァースゥーハァー、ヒッヒッフー」

 うん、落ち着いてきた。と思う。

 そう思った瞬間に、間髪入れずに通知音が鳴る。

『んじゃあ言います。えーっ、この世界にそろそろ破壊神が復活しちゃいます』

「は?」

 胸に痛みが走るほど、心臓が激しく跳ねる。

 頭が真っ白になって、何を言われたのか理解できない。

 少し間があって、新たにトークが届く。

『理解を拒んでるみたいだから、もっかい言うね。この世界にそろそろ破壊神が復活します』

「あっ」

 告げられたかなりの衝撃発言に、俺の心臓は活動を停止した。






「はっ!?」

 一瞬のホワイトアウトから意識が戻る。

『おいおい、マジで心臓止まってたけど大丈夫?』

「大丈夫なワケあるかい! 破壊神が復活ってどういうこと!?」

『やー!それがね、もとから復活の兆しはあったんだけれど、なんだか急にその活動が活発になっちゃってさ。いやーマイッタまいった』

「参ったのは俺のほうだよね!?だって破壊神って言ったら、ヤバイやつ中のヤバイやつで、ヤバイやつらの親玉ですよね!?」

 ヤバイ神話の中で、世界を死で覆った的なヤバイやつが破壊神だ。これはヤバイヤバイヤバイ。

『うん、そうだね』

「うん、そうだねじゃないよね!?」

 すさまじく重い事案に、あまりにも軽い受け答え。

 これはだめだ、突きつけられた現実からのストレスで頭がクラクラする。胃も痛い、泣きたい。

『おっと、そんな深刻に考えなくていい。まず復活したての破壊神には、この世界をどうこうするような力は無い。だって、この世界はマナが薄いって話をしただろ?ミタマですら100年分のマナを貯めて、やっと人ひとりを元の世界に戻すのが関の山なんだ。復活してゼロからスタートの破壊神じゃあ、大したこと出来ないの。だから安心して異世界旅行を楽しんでちょうだい』

 え?そうなの?

「な、なんだ。それならよかった」

 スッと頭のモヤモヤが晴れて、ホッと胸を撫で下ろす。

「俺に破壊神と戦え!とか、そんなこと言われるのかと思いました」

『異世界モノの定番っちゃあ定番だから、そう思っちゃうのも無理はないけど、流石にそれはないなぁ。大したチートも渡せてないし』

 あ、自分で大したチートじゃないって言った。まあ、いまさらだからいいけど。だって、女神様の魔法があるしね。

 そうだ、あの力があるじゃん。

「でも女神様がいらっしゃるのだから、戦えたりしませんか?いやー。いま思い出してもすごいですもん、魔法ってヤツの力は!」

 スライムから逃げた時の場面が浮かび上がる。

 いきなり加速したせいで意識がついていけなかったが、いま思い出すと少なくとも時速100キロは出ていただろうあの速さ。そのままぶつかっても怪我ひとつない頑丈さ。

 そこから考えてみると、確かに数倍の力が発揮されているみたいだった。

 それなら戦うのだっていけるでしょ!

『えっと、楽しみにしてるところ悪い。一応断っておくけど、あのくらいの力じゃあ、地獄の中のケダモノはもちろんのこと、地獄の外にいるケダモノも半分以上は倒せないからね』

「えっ」

『だって、実際あのスライムには足食われてたでしょ?あれはミタマの魔法がかかった上での結果だからね?』

「えっ」

『地獄の中にいるようなのはもちろんだけど、この辺にいる赤兜やナイトストーカーなんかもマジでヤベーから、出会ったらすぐにケツまくって逃げた方がいい。ま、逃げれたらだけど』

「えっ。そ、それじゃあ、えっと、異世界定番のモンスターとのファイトは?」

『ないよ?したら死ぬよ?大体、人が3、4倍程度強くなっただけで、グリズリーとか狼の群れに素手で勝てるとお思い?』

「お思いでないです……」

『ま、そんな危険なことして日々の糧を稼がなくても、ミタマの魔法を使って畑でも耕して暮らしてれば、苦労はしないんじゃないかな?』

 あ、そっかぁ。

「な、なぁんだ!そうだったのか!これはスローライフ系ってやつだったのかぁ」

 うふふ、俺はそういうのも好きだよ。しかも、よく考えたらモンスターとの切った張ったは、現代っ子の俺には厳しいもんがあるもんね。だって、あのスライムに食われただけで、マジトラウマだし。血とか見るのも苦手だもの、まったり行こうか。うん、それがいい。そうしよう。

『あぁ、目を逸らしているようだから、やっぱり警告しておこう』

「警告?一体なんでござんしょ?」

 文字のやり取りだけなのに、雰囲気が変わったことが十分にわかるほど、緊張感に包まれる。なんだかスマホが重く感じるくらいに。

『この世界は現実だ。死んだらそれで終わり。元の世界に戻れるワケでもなく、それまでだ。もちろん、ミタマも死ぬ。楽しい旅になるとは言ったけれど、一応罰とも言ったはずだ、一応ね。ああ、旅じゃなく定住でも好きにすればいいが、そこはどうでもいい。とにかく肝に銘じておけ、この世界はお話の世界でも、ゲームの世界でもなんでもない、なんとか系でくくることができない、紛れも無いリアルだ。万事うまくいくわけでもない。常に気を張れとは言わないが、緊張感はある程度もっておけ』

「あはっ、で、ですよねぇ」


 分かってる。言われなくても分かってるよ。

 確かに俺は現実から目を背けてた。

 でも100年もの間、バケモノのいる世界にいなくちゃならないんだ。そりゃ受け止め切れなくても仕方ないだろ?

 ふと、スマホの重さが戻った気がする。ただ今度は、悲しく冷たくなった。

『ホントはさ、こういう手段以外にも、どうにかならないか考えたんだ。でも、やっぱりこうするしかなかった。俺の力不足だ。許してくれ』

 ()()だって?冗談だろ?まったく女神様といい、神様ってやつはこれだから。

「ああ、それだって言われなくても分かってる。だってさっきアンタ言ってたよな、最善手だったって。不思議なことにこんな機械(スマホ)を通した文字だけの会話でも、アンタの人となりが理解できちゃったんだよ。それはもう確信と言っていいほどにさ。だから分かるんだ。心の底から俺らのことを想って、助けてくれてるってことを。だから……あーっ……そうだな一言だけ言わせてくれ、さっきも簡単には言ったけれど、今度のは本気なんだ。勢いに任せてじゃないと言えそうにないし」

『うん』

 目を閉じ、ふう、と息を整える。

 そりゃあ、第一印象は最悪だったよ?でもいまは、()()もクソもない。この胸にあるのは、ひとつの想いだけ。

 だから、このおちゃらけた優しい神様に、一言だけこう伝えよう。


「ありがとう」と。


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