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創造主 その3

 ポコペン。


『さて、いまからふたりには、帰還まで手と手を取り合って頑張ってもらうんだけれど、長い旅路で役に立つのが、ふたりの愛と勇気だけじゃあさすがに心(もと)ない』

 いや、愛と勇気ってなによ。意識しちゃうじゃん。やめんしゃい。

『そこは、ノリよ、ノリ。気にしない気にしない』

 気にしないって言われても……。

 チラリと横目で隣を見る。そこにはもちろん女神様。

 さっきまで地面を転げまわっていた俺を優しく見守ってくださり、そこから立ち上がって砂埃を払っている時も、お尻についていた砂埃を払ってくださった優しいお方。

 こうして盗み見たところ、どうやらさっきまでの俺の痴態のことは気にしていないようだ。ああ、よかった。

 まあ、すでに何回かの痴態をお見せしているから、慣れたってだけかもしれないけど。

『ほいほい。いまから重大なこと言うから、ちゃんと聞いておくれ』

「あ、ああ。すいませんでした」

 居住まいを正して、女神様と一緒にスマホを覗き込む。

『おほん、では気を取り直して。そんでね、このままじゃあ、ふたりのことがとっても心配だから、俺から餞別をあげちゃいます!何をあげるかといいますと~~?』

 おっ?これってもしかして?

 異世界・神様・餞別ってなったら、()()ですよね?

 ワクワクと胸を高鳴らせながら、次の通知を待つ。

『チートをあげちゃいまーっす!』

 期待した通りの内容が送られてくる。あのっ!!も、もっかい!もっかい言って!!

『チート・オン・ユー』

「おおおおおおおおおおっっ!」

 思わず立ち上がりガッツポーズ!

 きたっ!きたっ!きました!神降臨!!あっ、マジモンの神だった!!

 一気にテンション爆アゲ。さっすが創造主様!ワッショイワッショイ!

 異世界モノのド定番として、チート能力ってモンがつき物だけれど、とんとその姿が見受けられなかったから、ずっと心配してたんだよ。俺にチートは無いのかってね。

『それでは早速、そのチートの内容を発表していきたいと思います!』

「いよっ! 待ってました!」

 立ち上がって拍手喝采大喜びな俺の横で、よくわかんないけど。って顔をした女神様も、一緒に手をパチパチと叩いている。

『まず、その着ている服にチート授けちゃいました!』

 おおっ!このジャージとかが!?もしかして魔法をはじいたり、透明になれたり、ドラゴンのブレスに耐えられたりしちゃうんですか!?

 一瞬の間がもどかしい。早く!早くチートの内容を教えてくれ!

『なんと、汚れが付かず、イヤな匂いも残らない、シワもつかないから洗濯いらずの手間いらず!しかも、暑さ寒さも大分シャットアウトして、かなりの事がない限り破けないし、もし破けてもそのうち直る優れものだ!もちろんミタマの服もそのうち直るぞ!』

「ほほう、そりゃあ便利だ!それでそれで!?」

『いや、これだけだけど?』

 えっ。いやいや、それだけってことはないでしょう?まったく、この創造主様ったらぁ!

「またまたぁ。お冗談が、お上手で、おございますね。流石創造主様ってなもんだ」

 さっき砂埃を払った時に、すごく綺麗に払えたなぁと思ってたりしたけどさ、それだけじゃ寂しいってもんでしょ?ね?ホントはもっと色々あるんでしょ?

 そう思い、じっとスマホを見つめる。

 しかし、待てど暮らせど返事は返ってこない。

「……ホントにそんだけ?」

『うん?そうだけど?でもこれすごいんだよ? 靴とベルトの部分は、スライムから脱出するのに壊れる必要があったから、チートをつけてなかったけれど、それ以外の部分はチートがついてるから、びくともしてないでしょ?アイツはさっき言ったとおり、地獄に入れるべきヤベーやつだけれども、その攻撃にも耐えてるんだから、このチートはかなりのもんだよ?』

 ほほぅ?

 くるりと手のひらが返る。

 確かにあのスライムに食われたのは、いま創造主様が言った部位と、スニーカーソックスを履いていたせいで、むき出しだった俺のくるぶしの部分だけだったもんな。

 うん、確かにすごいかも。ヤベーやつからの攻撃にも耐えられるってことは、この服を着ている間は、ケダモノ共から襲われてもなんのそのってことだもんね。

 そうなると、スライムから抜け出る時に脱げた靴下がとっても惜しいな。

『いや、そんなことはないなぁ。服自体は破れないけれど、着てる本人には衝撃を吸収したり熱を遮ったりする力は付与されないから、殴られれば痛いし、射られたら服ごと矢が刺さってもんどりうつし、火炎放射を浴びた日には黒い炭と服だけが残るよ。さっきのスライムみたいに触れたものを溶かすだけなら、服が触れ合うのを遮るから強いんだけどさ』

 またくるりと手のひらが返る。360度の大回転。危うく手首がちぎれそうだ。

「そんなんで!どうしろと!?100年異世界旅するのならもう一声たりませんよね!?」

 そりゃね、衣食住っていいますし、常にちゃんとした服があるのって、かなりありがたいですけど!

『いやいや、これだけってのは、服につけたチートがこれだけってこと。なんと!いま背負っているバッグにもすごい効果があるんだな!』

 おっと、やっぱり他にもあるんですね!俺ってばさっきから創造主様の手のひらの上だなぁ!

「なんだなんだ!創造主様のイケズ。バッグにすごい効果ってことは、もしかして、定番の無限収納とか亜空間収納ってヤツですか?ですよね!?」

 異世界モノには必携ですもん。わかります、わかります。

 と言いつつも、心の隅で猜疑心が燻っているけど、無視して考えないようにする。そうだ、きっと無限収納に違いない。

『なんと服と同様のチートに加えて、追加で完全撥水加工を施し、水を入れてもこぼれない!マグマだって汲めちゃうんだ!ついでに中に入ってた教科書とかも、全部壊れにくく劣化しないようにしておいたし、同じく中に入っていた電子辞書といま使ってるスマホに至っては、電池を無限にしてあるぞ!ま、スマホ用に電波用意できなかったけど』

 無限収納無し!亜空間収納無し!うん、ホントはそうだろうなって気づいてたよ。

 悲しみをこらえて、詳しいチートの説明を聞く。

「そ、そうかぁ。でも、中に入れたものの重さがなくなるとか、中に入れたもの時間が止まるとかはありますよね?」

『え? ない、ない。ありません。そんな効果はございません。でも最新人間工学を参考にしたから、数百キロの重さでも楽々背負えちゃうよ。すごいね人間工学』

 うんうん。人間工学はすごいですよね。でもいまは、それ置いておきましょうか。

「えっと。この世界にはケダモノっていうバケモノどもが跋扈してるんですよね?」

『うん』

「俺たちはその中で、100年間過ごさないといけないんですよね?」

『うんうん』

「だから率直に聞きますけど、バケモノをちぎっては投げ、ちぎっては投げできるような超すごいチートをくれたりは──」

『それこそないない。ありません。でもその分、ミタマがいるから大丈ブイ。さっきもミタマの魔法のおかげで、色々とすごかったでしょ?』

 ん、女神様の魔法のおかげ?

 ああ。そういや、この創造主様が連絡をよこす前は、女神様のスゴい力たる魔法の話をしてたんだっけな。……その後に俺がしたことはもう忘れた、もう知らない。

 チートは無いと言われたけれど、すごい力があったことを思い出して、ぽんと手を打つ。

「そういやそうでした。なんだかすごい速さで走れたり、体がすんごい頑丈だったり、酷い怪我が一瞬で治ったりしたのは、女神様の魔法のおかげなんですよね?」

『うん。そうさ。ミタマは元々回復と強化魔法の才にあふれているのもあるんだけれど、ふたりは体を作り変えた時にマナを共有したから、魔法の相性が超よくなってるんだよ。まさに効果がドン!だからね。普通に使うより数倍の効果があるはずだよ。それだけの力があれば、この世界で生きていくだけなら問題ないはず。だから俺が与えたチートは、生活が便利になるようなものだけなんだよね』

「ああっ!?」

 いままで静かに話を聞いていた女神様が、突然声を上げた。

「そういうことでしたか。回復魔法の効果が強く、そして早く現れましたし、敏捷性をあげる魔法も、普通なら2,3割強化ところを、2,3倍くらい強化されてました。さらには体を頑丈にするのや、膂力を強化するのなどは十倍以上強化されていたようなので、どうしてだろう?と思っていたのです」

 え。てことは女神様が俺に魔法をかけるとあり得ないくらい強化されるってこと!?それ十分チートじゃん!

『理由はわかるだろ?』

「ええ、心当たりはございます」

 そう言って女神様は、チラリとこちらに視線を送る。

 ん?俺?俺がどうしたって?

 理由っていま言ったように、こっちくる時に女神様とマナを共有したからじゃないの?

「え?えっと、それはどうして?」

「えーっと」

 いままで聞いたことは快く教えてくれていたはずの女神様が、歯切れ悪そうに目を泳がせて、人差し指を口に当てる。

「ナ、ナイショです」

 おおう。初めて答えがもらえなかった。でも可愛かったからいいや。相性がよくて魔法の効果がすごくよく働くってことさえ分かれば問題ないだろ。

 そして震えた手元に視線を落とす。

『ナイショです(はぁと』

 コ、コイツは……。

『ま、とにかくだ。ミタマの魔法さえあればどうにかなるから、気楽にいきなよ』

「女神様は頼りになるなぁ」

 ああ、ホント尊いお方だ。文字通りに尊いお方なんだけど。

 俺の一言に照れたのか、女神様が顔を赤くして俺の袖を引きながらこう言った。

「あの。そう言うことは私じゃなくて、ヒヂリ様におっしゃってください。全てはこのヒヂリ様のお力なのですから」

「ええ。もちろん分かってますよ」

 そりゃまあ、ファーストコンタクトが最悪だったもんで、最初はヤなやつだと思っていましたけど、話をした今では妙に気の合う悪友って感じだもの。ちゃんと創造主様にも感謝してます。

 感謝の深さと同じくらいに、頭を深く下げて述べる。

「創造主様ありがとうございます」

『いいってことよー』 


 ああ、本当の本当にありがとうございます。


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