俺がヒトを辞めるまで3
暗闇・・・・
また暗闇か・・・・
あれは夢だったのか?だとしたらなんと後味の悪い。
宝くじが当たった夢を見て、現実に引き戻された時のがっかりする嫌な気分だ。
まあ当たった事無いんだけどね。
ところで俺はどうなったんだ?夢の中では生き返ったとかなんとか・・・・
自分がどんな状況にいるのかいまいち把握できない。
少しずつ五感が戻ってくる、コポコポと水中の中にいる時の音がする。
戻ってきた感覚から何らかの液体に浮いているようだと分かる。
薄っすらと目を開けてみる。
眩しくて目をほとんど開けられなかったが、徐々に慣れてきたので周りを見渡してみる。
何か大きな水槽のような物に入れられ、緑色の液体に沈められていると分かる。
身体の至るところにチューブが差し込まれ、カラフルな液体が自分に注入されている。
服は脱がされ、醜く太った身体があらわになっているが、自分の外見以外は不思議と不快な感じはしない、感情が麻痺しているようで不安や恐怖を感じない。
ぼんやりした頭で水槽の外を眺めてみると、巨大な機械が設置されたSF映画で見るような部屋だった。
モニターが至る所に設置されており、意味不明な幾何学模様が表示されている。
少し離れたところにせわしなく動いている人物が確認できる。
遠目ではっきりとは分からないが女性のように見える。
俺の視線に気が付いたのか、その人物がこちらに向かって歩いてくる。
液体越しのせいか、全ての色は緑に統一されて見えるが、自分の人生では限りなく縁のないとても美しい女性だった。
ストレートの腰ほどまである青い髪(染めているのかな?)、大きく少し吊り上った猫を彷彿させる瞳、平均より身長は小さく見えるが、引締まった均整のとれた体系。
出るとこでて、締まるとこしまるナイスなバディである。
外見だけなら少女にも見えるし、佇まいからは背の小さい不二○ちゃんにも見える。
悪戯っ子のような笑みを浮かべながら何か喋っている
「サッザザザッザ・・き・る・・・」
周波数の合わないラジオのようなノイズが聞こえたと思ったら、涼やかで美しい女性の声が聞こえてきた。
うんこれは小さい不二○ちゃんだな、声が沢○みゆ○そっくりや。
ちなみに俺は自分の声を山寺○一に似ていると自負している。
「・・・ザ・ザザ・・聞こえる?聞こえたら頷いてみて?」
俺は感覚があまりないが頷いてみた
「良かった、とりあえず峠は越えたみたいだね」
女性は心から安心したように言葉を続ける
「まだ状況が理解できないと思うけど、端的に言うと君は死にかけていたんだよ。それを私が助けたんだ」
ああ、彼女が俺を生き返らせてくれたのか・・・考えてみればあんな都合の良い展開があるわけないよな、やっぱ俺は夢を見てたんだ。
俺は素直に助けてくれた彼女に感謝した。
「まだ肉体の損傷が回復していないが、あと2~3日すれば普通に動けるようになるだろう」
やはり悪戯っ子のような笑みを浮かべながら彼女は言う
「少し無茶をしたから、まだ君の身体になじんでないのだろう」
「今はゆっくり身体を休めるといい、安心しなさい、危害を加つもりはないから」
そう言った後、彼女は何かのスイッチを押した。
体に点滴を受けた時のような冷たい液体が入ってくる感じがした、そして急に睡魔が襲ってきた。
こんな医療用器具がこの世にあったのか、漫画みたいだなと思いながら、また俺の意識は暗闇へと落ちて行った。
「おやすみ、ヒトの子、良い夢を・・・」
・・・・・
次目覚めたとき、俺はベッドの上に寝かされていた。
ぼんやりと記憶にあるSFの様な無機質な部屋でなく、ロッジのような暖かい感じのする木造建築のようだ。
俺は浴衣?のような服を着せられ、まだ点滴のようなものが腕に刺さっている。
胸に開いていた穴を確認する為、身体を起こしてみるが全身が筋肉痛のように重く痛い。
・・・傷が無い、穴どころか傷痕ひとつない綺麗にたるんだいつものバディがそこにあった。
ほっと一息し俺は横になる
(やっぱり夢じゃないんだよな)
身体の痛みが現実である事を再確認させる。
ガチャ
扉が開かれ、眠りにつく前見た美しい女性が入って来た。
「おはよう、と言ってももう夕方だけどね」
微笑みながら、良く通る心地良い声が彼女から発せられた。
緑の液体越しでなく、明るいところで見ると彼女の美しさ、可愛らしさが実感できる。
絹のような白い肌に均整のとれた身体、心なしか高貴な雰囲気を感じる。
見惚れて視線が外せない俺をよそ目に彼女が語りかける。
「安心していいいよ、君の肉体的損傷は完治している、脳にも影響は・・・あまり無いはずだ」
微笑みを絶やさずにそう言った彼女は、コップに水を汲み差し出してくれた。
俺はコップを受取一口飲むと、落ち着きながら疑問を口にした
「あなたが俺を助けてくれたんですか?」
少し困ったような顔をして彼女は答える
「まあ・・・助けたのは確かだよ、うん、助けたよ・・・間違いなく・・・」
なんか歯切れがわるいな、でも助けてくれた事は確からしい
「ありがとうございます、何が起こったのかさっぱりわからなくて・・・気が付いたら見たこともない場所にいて、化物に襲われた所まで覚えてるんですが・・・」
「うん、私も色々聞きたかったんだよ、君はいったい何者なんだい?」
何者と言われてもな、うだつの上がらないフリーター生活19年の独身37才「剣持昴」成人病予備軍としか答えられないが・・・取り敢えず俺は仕事に行く途中突然謎の島に来たこと、探索中に化物に襲われ胸に風穴が空いたところで意識を失った事、気が付いたらここにいた事を伝えた。
「・・・君はどこから来たって?・・・」
うん?なんか話が分かりずらかったかな?
「日本ですよ、だって言葉が通じてるし、ここも日本の何処かじゃないんですか?」
「うん、分かりずらかったかな、君はもしかして違う世界から来たんじゃないか?」
はい?一瞬中二病かこいつと思ったが、確かに夢で変なのがそんな事言ってたような気がする。
「もしかしてここは日本・・・いや、地球って呼ばれてる所ではないんですか?」
真剣な顔で彼女は答えた
「ここはテレキスと呼ばれる世界だよ、そしてここはポウリス、君の知る世界では・・・ないね」
恐らく嘘はついてないのだろうな、というのが雰囲気で感じ取れる。
まあ、おおよそ予想していたからそこまで驚きはしないが、ショックである事には違いない。
「ああじゃあ俺はやっぱり異世界に飛ばされた感じなんですね・・・」
少し驚いた顔をした彼女が答える
「君は理解が早いな、普通受け入れるに時間が掛かると思うんだがね」
「まあ、こういう事態にいつかなるんじゃないかと妄想していたので・・・」
アニメ化ラノベの知識しかないけどな!
「そうか、話が早くて助かるよ、言葉が通じるのは調べてみないとなんとも言えないが、意思の疎通が出来るのは不幸中の幸いだな」
そう告げた彼女は付け足すようにこう言った
「そうそう、君なら驚きもしないかもしれないが、ここポウリスはこの世界の人間は絶対に近づこうとしない魔王の住まう島なんだ、いわゆる人間の世界では地獄と言うのかな?」
・・・・・・・・
「ちなみに私が魔王だ、君の名はなんと言うんだい?」
・・・・・・・・
「うん?どうしたんだい?大丈夫だよ、取って食ったりしないから」
俺はあんな化け物がいた疑問が聴くまでもなく解決した事に感謝しながら、この貧弱デブがどうしたらこの劣悪環境で生き残る事が出来るのか、頭をフル回転させる為に固まってしまったのであった。