俺がヒトを辞めるまで2
主人公とのやりとりがアッサリし過ぎていたので、全体に加筆、修正を行いました。
・・・・
暗闇・・・・目を開いているのか、閉じているのかわからないほど何も無い暗闇・・・
俺は死んだのか?
手も足も、あらゆる神経が無くなったかのように感覚が何も無い。
これで死んでないと断言できる奴はいるだろうか?
あまりの恐怖から自分が死ぬ瞬間さえわからないなんて・・・情けない話だ・・・
暗闇の中、不思議ともう恐怖心は無かった。
かわりに胸一杯に広がるのは、酷く切ないやるせなさだけ。
何か出来るかもしれなかったのに、簡単に抗うことを諦めた。37年も生きて、出来た事は醜く怯えて縮こまるだけ。
死んだのに感情はあるんだな・・・
後悔と虚しさに苛まれながら、ふとそんな事を思った瞬間、目の前に強烈な光が飛び込んで来た。
光は大きく広がり、あたりを包み込む。
照らし出している中心から少しずつ眩しさが薄れ、何かが現れた。
『迷い彷徨う魂よ、世界との接点を断たれた貴方は、何者かにならなければなりません』
光の中心に居る何かが、頭の中に語りかけてくる。
『この世界に貴方は選ばれたのです、絶望する事はありません、終わりでは無く始まりなのです』
え、これってまさか・・・意味が分からずに呆然としていたが、話の流れから1つの期待が生まれてくる。
数え切れないほど見て、読んだテンプレ展開。
悲しみに支配された感情が徐々に高揚感に塗り替えられていく。
『貴方には為すことがあります、今語る事は出来ませんが生まれ変わり貴方の役割を全うするのです』
女性なのか男性なのか判別のつかない無機質な声が頭に響く。
俺は先ほどまで打ちのめされていた事を忘れ、これから起こるであろう事に夢を膨らませた。
『貴方はこの世界に転生するのです』
先程の絶望から一転、何度も空想し夢にまで見たこの展開に俺のハートは震えてビートした!
キーター!
これキタこれ!キタキタおじさんじゃね!
神的ななにかと遭遇、異世界転生してイケメンになって、無敵勇者か美味しいポジションになって、チート能力全開で襲いかかる化け物をバッタバッタとなぎ倒し、世界を守る的な感じになって、ヒロイン多数爆誕のハーレムルート決定の、テンプレ的なアレ!キタんじゃね!
頭の中がカーニバルになった俺は、本格的に調子に乗り出し、なんだ〜そうなら先に教えてよ、意地悪なんだから〜
と、一瞬で有頂天になった
『今から貴方に力を授けます』
そう語った光の中の何かは俺に青い光の玉をそっと放った。
さっきまで感覚の無かった身体は、薄っすらと形作られ、青い光の玉は俺の空いた胸の穴に収まり、中へと吸収された。
大きな力が自分の魂と融合していくのがわかる、力が溢れてくるのがわかる!
『今貴方に授けた力は器にすぎません、今から渡す力の器・・・』
今だけでも激流のような力の渦を感じるのに、さらにボーナスがあるのかい!
これでこそチートですよ!
俺は全てを受け入れるため手を広げ、いつかマジラブ○%するために練習していたビジュアル系のPVのようなポーズをとった。
『・・・・・・・・・・・あ』
準備は万端だ!さあ!
時を止める力でも、瞬間的に力を何倍にする技でも、100%を超えて白くなっても、全て受け入れてやるぜ!
『ん?・・・・・・・・・・・・・・・・』
『・・・・貴方・・・死んでませんね』
一瞬理解が追いつかず固まる。
へ????
両手を広げ、好きにして良いのよアナタ♡のポーズで俺は固まった。
『確かに今の瞬間まで、魂は肉体から出て、肉体は確実な死を迎えていました』
『ですが何者かが貴方を強制的に生き返らしたようです、魂と肉体の繋がりも元に修復され始めています』
は?
何を言ってるのか意味がよくわからない。
見た事もない場所に飛ばされて、見た事もない化け物に襲われて、恐らく胸を貫かれて殺されて!
イヤイヤ、あんな状態で誰が俺を助けるって言うのよ!
そんな無理矢理蘇生されるより、転生してウハウハの方が1万倍良いでしょ!
『貴方を救い、必要とする人がいたのですね・・・しかたありません、この力は生者にそのまま渡す事はできないのです』
え、ちょっとちょっと?
『貴方は現世に戻るのです、それを望んだ人の為にも』
こいつ何良い話みたいにまとめてんだ⁉︎
俺は望んでないから!生き返んなくて良いから!生き返った瞬間あの化け物がまた目の前にいたらどうすんだ、それでまた殺されたら転生させてくれるのか⁉︎
『私にも時間がありません、今伝えた事は忘れなさい』
おいおいおいおい、時間ないなら良いじゃないですか!
このまま進めましょうよ、このワンダープロジェクトを!
『・・・動揺しているんですね』
そうだよ!動揺しまくりだよ!届いて俺の熱い思い!
『心優しき者よ貴方が何を思うか分かります、生き返ったら、私の助けになれない事に心を痛めてるのですね』
ダメだコイツ・・・俺の熱い思いは空回りして周回軌道に乗ってしまったらしい。
『心配しないでも大丈夫ですよ、貴方の代わりに、この世界に迷い混む力ある魂を探します』
お願い諦めないで!諦めたらそこで試合終了ですよ!
『だから貴方は心配せずに、あるべきところに戻りなさい』
駄目だコイツ、相手に良かれと一方的善意を押し付けて自己満足するタイプの典型だ。
終わる!このままだと思い描いた幸せ各駅停車から地獄の直行便に乗せられる!
1度死んでるみたいだけど、人生でこんなに強く願った事がないくらい俺は神に祈りを捧げた、神さま!どうかこのアンポンタンに思いを伝えたまえ!と
『伝わっていますよ、貴方の思い・・・私の事は気にせず、さあ現世に帰るのです!』
無念!人生最初で最高に最後の願い届かず!
オワタ・・・これで殺されたらジ・エンドだ。
誰だ!勝手に俺を生き返らそうとする酔狂な奴は!ふざけるな!
夢の異世界ストーリーが!ハーレムが!
『2度目の生に祝福を、かけがえのない命、次は守りきるのですよ』
その台詞を最後に光の空間から、急速に遠ざかって行った。
肉体があれば身体中の穴という穴から、怒りで血が吹き出ていただろう。
俺は本日、タイプの違う2度目の絶望を経験し、遠ざかっていく光に向かってあらん限りの心の声で叫んだ。
ノーカン!ノーカン!ノーカン!ノーカ・・・
それは、まさしく魂の咆哮であった。