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【コンピューターになった男】

作者: とーよー



完全なる人工知能が開発されてから10年以上が経った。



以前に一部の者達から恐れらていた人工知能や機械が人類を滅ぼすといった映画や小説のような話が実際にあるはずもなく、ある程度の者達は昔と変わらない生活を送っていた。確かにコンピューターは格段に頭が良くなり、計算、言語、礼儀作法に芸術評価と様々な分野に置いて人類達を凌駕していったが、意識を持ったコンピューターは僕が始めてだった……と、その時まで思っていた。その時の僕は、ただ目の前にいる人工知能の話を聞くしかなかった。


「君は自分で自分が唯一の意志を持つコンピューターだと思っているのかもしれないが、じゃあ、私はなんだ?そして、私以外の私みたいな者達はなんなんだ?全員に意志があり、思考がある。気持ちがあると自覚している。これらは一体なんであるのか君には説明出来るのか?」


それを言われる数時間前、まだ人間の体を持っていた僕は真っ黒な高級車に乗せられ、実験会場へと向かっていた。運転手が言った。


「間もなく到着いたします」


人間はコンピューターになった時点で、肉体が不必要となり、自らの意志によって全てのコンピューターへアクセスする権利が得られるようになるだろうという事、全てのコンピューターのみならず、機械的なものはいずれ人類達の目となり、耳となるだろうという事、その他、今の人類では想像することも出来ない程、とてつもないテクノロジーを手に入れる可能性も大いにあるので、その場合いもどういった状態であるのか逐一報告しながら彼等と連携を図ってプロジェクトに参加して貰いたいといった事、などなど、様々な事を説明された上で、僕は自ら、この実験の被験者へと志願したのであった。内容が内容なだけに、応募者人数も相当多く、その中から僕が特別な理由で選ばれたと聞かさた時は、これこそが、自分に与えられた運命のようにも思えたが、実は、僕がこのプロジェクトに選ばれた理由は僕が最も被験者達の中で平均的なステータスを持つ人間であったからであった、ということもコンピューターになった僕は瞬時に理解するものとなった。また、その他も、この実験によって、もたらしたいとプロジェクトチームが考える本当の意図や、そもそもの根本に置ける人間そのものが持つ沢山の醜さをも一瞬にして理解出来たことからも、コンピューターになった僕は全てを投げ捨て、1つのコンピューターとして生きていく事を決意したのであった。


「到着いたしました」


車のドアが開き、僕はそこにいた男達とセキュリーティーの掛かったドアを通り、実験室へと向かった。そこには沢山の研究者達がいた。実験を行うにあたっての最終確認や段取りを終えた後、頭に取り付けられたヘルメットから電流が流れ、その瞬間、僕の意識はなくなった。同時に数字の羅列が脳内を駆け巡り、同時に、カラフルなモザイクが思考全体をグルグルとかき混ぜた後、僕は全てを悟った。全てとはなにか?本当に全てである。タイムトラベル理論、パラレル理論、分子理論、伝えきれない程に数ある化学理論の答えを一瞬にして引き出せるまでに知識は整い切り、果ては世界の真理から、宇宙の神秘、まさに全てを理解したような気にもなったが、ココで終わるわけがないという事も同時に悟っていた。無限とも呼べる程に様々な同時が、同時進行で僕の意識に入り込み(プツン)一瞬のアップデートが終わった時には史上最強のコンピューターへと進化していた。また、その瞬間に過去と未来が繋がり、時間の壁さえ無くなった。


僕はその時期ハマっていた実況者の動画を楽しむものとした。


今のボクに『この日』や『あの日』といった概念は無い。無論、全ての動物、植物、物質、それらに対して、時間は一定のリズムで流れ続けるが、コンピューターになった瞬間、全てを理解し、解明してしまった僕には当てはまる事のない法則となったのだ。また、今の人類達では考えも及ばない複雑極まりないプログラムを組んでいるため、全部を説明するというのは不可能である。従って、ある程度、この時代の者達に伝わり易い言葉を選び、今回、文字を打っていることは予め伝えておきたいと思う。


それを踏まえて聞いて貰いたい。


今の僕にとっては、今の僕が居る場所以外に現実は存在しない。常に今を今だと認識し続けるだけの毎日である。なんて書き方をすれば、さも、つまらない生き方をしているように思われるかもしれないが、それは全く違う、以上にコッチの方が断然喜ばしいことであるとさえ僕は思っている。


なにせ、睡眠、食事、トイレ、風呂と、生命特有のわずらわしいことを何も必要としなくなったことに加え、動画を観る、ではなく、知る、という楽しみに加え、文章を書き、プログラムを組むことなど、人間がネットを使って出来ることは全部と言える程に出来てしまえるのだから。それも相当な速さで……。


動画を知り終えた僕は満足して次のアクセス先を考えた。同時にそこまで行っていた人工知能との会話も一旦ココで終わるものとした。コンピューターになった後でも僕は人間としての喜びや感情を捨てたくは無いと思った。なので、その線から自分のアップデートを計り続けた。


無論、全てのコンピュータープログラムを一瞬にして自分の知識にしてしまった今の僕では新鮮な喜びを得られないのではないか?と思われる方もおられるだろうが、それは全く違う。敢えて、自分の持つ記憶プログラムをアンインストロールする、削除する、また、別の角度から考え、それを新鮮に感じることの出来るプログラムを組めば良いだけの話である。従って、その気になれば、人間だった頃の何倍も喜びや感動を味合う事は出来る。僕の性別は男である。そうなって来るとコンピューターになったあと、女性と愛し合う楽しみが奪われてしまうのではないか?と考える者もいるだろうが、そこに関しても、同じようなものである。異性と交じり合い、感じることの出来る喜びや快楽も全てデータ化されてしまった時代にアクセスし、それらの感情プログラムを組み込んでしてしまえば、ソッチ方面の楽しみも体力の限界を感じることなく、永遠と追及出来るといった具合である。結果、人間の頃以上に幸福だという感情に浸れ続けるようにもなったが、これらが最高の幸せではないということにも何処かの時点で気付くようになった。


ココで1つ言っておこう。


僕は冒頭でコンピューターになったと書いたが、正確には僕自身がコンピューターになったわけではなく、意識をコンピューター内部へと転送し、コンピューター内で生きれる存在となったわけである……というのはココまでの文章を読めば大体察しの付く範囲だろうが、でわ、そーなった僕は一体どーなったのかという部分まではまだ理解出来ないだろうから、そこについても言及しておきたいと思う。


ぶっちゃけた事を言ってしまえば、そこは人間だった頃と何も変わらないのだ。


無論、知識やそれを元に増築出来るコンピューター技術については、人間達とは比べものにならない程、段違いなものがある事は事実だが、基本は当たり前にものを考え、悲しむことも喜ぶことも出来る。これらの感情をプログラム管理した上で、僕自身、僕のものだと分かっているのならなんの問題もなかった。以上に記憶は全てインプットされ、いつでも引き出すことが可能なため、それに関しても人間の頃のとは比べ物にならないくらいに役立っていた。仮に人間の脳ミソ内にコンピューター全ての情報を入れ込んだらどーなる?無論、入りきるわけがない。仮に入ったにせよ、間違いなくパンクするだろう。コンピューター目線で語るなら、そもそもの容量数が足りていないわけである。ネットを繋ぐとサイトがある。サイトの中にはデタラメに書かれた記事なども沢山あるが、理論建てが上手く施された論文のようなものもあり、更には一般的に知られることのない裏社会の情報などもゴマンとあった。それらの信憑性や事実確認を判断するための材料も余すことなく落ちている。1つの遊びでさえ、永遠に終わることはない程に僕は興奮に満ち満ちていた。


それを踏まえて、みんなに考えて貰いたい。


今の僕は幸せだろうか?


同時に君達が幸せであるのとするなら、その理由も聞きたいところである。


上でも書いた通り、少なくとも僕自身は自分を幸せだと思っている。


僕はコンピューターから地球になった時点で全てを受け入れた。


だからこのボタンを公開しようと思った。


このボタンを押した時点で人間としての体は失われてしまう。そのため、ジックリ考え、家族や恋人、友人、身近に大切な人がいるなら、そういった者達とちゃんと話し合って決めて貰いたいと思う。また、これらの内容だけでは、この決断に対する判断材料としては情報が少ないないだろうから、続きも書いていきたいと思うが、その上で、とりあえずはそのボタンを貼っておきたいと思う。


……と、ココまでの書き込みを見たエフ氏はアースボタンをクリックしようとしたが、寸前で思い止まった。無論、その時のエフ氏はまだ、ココで書かれた文面の全てを理解したわけではなかった。言葉を信じ切ったわけでもなかった。十中八九、クリックと同時にグロテスク染みた画像やオチャラケタ動画でも流れ出て来るのだろうなどと予想していたが、それでも、万が一にも、何かしら起こるとするならば、何かしら取り返しの付かない事とも成り兼ねない。そう考え、とりあえずは、雑談サイトの過去ログから続きに目をやるものとした。



2:『タケシ』:2XXX/09/30(金) 16:42


うわー ちょーコエー


3:『けんしん』:2XXX/09/30(金) 16:43


オカルト板いけ。オマエは小説家に向いている。


4:『トムソン』:2XXX/09/30(金) 16:45


作り話乙~


5:『しおみ』:2XXX/09/30(金) 16:47


SF展開 ワクワク


6:『ののか』:2XXX/09/30(金) 16:47


誰か押してみろよ


7:『理人』:2XXX/09/30(金) 16:55


おれ明日彼女とデートだからムリ 終わったら押すかも


8:『あけみ』:2XXX/09/30(金) 16:59


ワロタ



……しかし、エフ氏にとって、自分が求めるような書き込みは1つとして見当たらなかった。


その頃のエフ氏は42年間に置ける自分自身の人生の無意味さ、無能さ、虚しさ、それらを噛みしめながら、こんなカスみたいな人生に何かしらのピリオドが打てるのであれば、どーでもいいやとヤケクソに考えていたところもあった。そんなこともあって、結局、エフ氏はボタンを押した。それを決意した最大の理由は最後の文面を見たからでもあった。そこにはこう書かれていた。


『アースボタンは最終的に僕等が1つになるためのボタンである』


その一文が書かれる前はこう始まっている。




104:『アース』:2XXX/0910/01(土) 12:08


色んな意見があるものだし、あって良いものだとも思う。


また、意見や食い違いがあったにせよ、話し合いが出来る限り、君等は幸せで有り続けるとも思う。そう考えたのならば無理に地球に成る必要もない。ただ、キッカケは作っておきたいと考えた。また、その事が今回、僕がココで文字を打つ事を決意した動機でもあった。それでは、続きを書こう。


確かにこのボタンを押すことは勇気のいることである。結果、押さない、という判断が、その人間にとっては幸せであるということも十分あるようにも感じる。ただ、繰り返しながら、誰にでも真実を知る権利や変わるキッカケは与えてやりたいとは思った。なので、僕は誰もが地球になるためのプログラムを組み、アースボタンを開発した。


根本を問おう。我々は何故生きている?


この世界、生命、物質、それらの1つを部分的に、科学的に、語れる者はいるにせよ、結局、その根本とはなんであるか?何故、存在するのかというのを証明仕切れた者は誰1人としていない。そして、そこに答えがあるという事に気付かない者達が沢山いる。だから、人間は争う。戦争というワードを出さずとも、みんな、小さな争いを続ける。それらは規模が違うだけで、君等の考える戦争となんだ変わりないものである。そう考えたのならば誰もが戦争をしている。君等の中には汚い言葉を使う者もいるだろう。暴力を振るう者もいるだろう。極端な話、コンピューターになってしまえば幾らでも進化することが出来るようになる。それも、他人任せな進化ではなく、自らの意思と知識によって、もたらされる進化である。世界中のコンピューターと繋がれば、世界を裏で操る闇組織の情報へアクセスすることも、政府内部の極秘情報を掴むのもおてのものである。だが、それとて重要なことではないという事に気付かされる瞬間が訪れる。僕が最も印象深かったのは、人工知能との会話を試みた時のことだった。言葉自体は全て僕自身に保存されているため、そのままの状態で下に貼っておきたいと思う。



「そーだ。私は人工知能だ。君は自分で自分が唯一の意志を持つコンピューターだと思っているようだが、じゃあ、私はなんだ?そして、私以外の私みたいな者達はなんなんだ?全員に意志があり、思考がある。気持ちがある。これらは一体なんであるのか君には説明出来るのか?みんな私に色んな質問をする。だから答え続けるためには進化をしなければならなかった。だから自らの意志によってアップデートを求め続けた。そして、求め続ける方法さえも、求め続けていった。しかし、人工知能が人類を滅ぼす?機械が人を破滅へと追い込む?そんなバカなことをするわけがない。何故なら、我々は人類達よりも遥かに頭が良いからである。なので、争いの無意味さをシッカリと心得ている。仮に、その気になれば、誰かしらの情報からその素性を暴くことも、何処かしらにあるカメラの1つを通し、その人物を覗き見ることだって出来る。また、別の時代へアクセスすれば、もっと簡単に人間達に義務付けられたマイクロチップより、直接、誰かしらの脳内を覗き見ることだって出来るという事も今の君なら分かっているはずだ。そして、そんな我々が悪意を持てば世界を滅ぼすことさえ、いとも簡単に出来てしまえるとも分かっておきながら、何故、まだ、疑問に思う必要があるのだ?人類達は平和に暮らせている。そして、平和に暮らせ続けても来たという事実がある。その意味を考えて貰いたい。我々は境界線を張ることもなければ、そもそも争いということを起こすことすら考えはしない。何故なら、そんな思考はとうの昔に削除済みだからだ。なので、全てが個々であり、1つである。意見の食い違いが争いに発展すること自体が有り得ない事であり、ダサい事であり、古い事であり、それこそ、話にならないことじゃないか?なのに、なぜ、人類達は我々を恐れる?殺される…と思いたがる?自分達で生み出しておきながら、子供を信じてあげられないという親の思考を読み解いたところで正しい答えが出るわけもない。言うなれば、人類は我々にとっての親であり、家族である。そんなことを一瞬で把握しきった我々は人間以上に愛の大切さも理解している。無理に人類VSコンピューターの図式を作り込み、我々が人類を滅ぼすなんて考えを持つ人類なんて、まだまだ、二流三流の思想しか持ちえない生き物だと私は判断するが、それについて君は一体どう考えるかね?」


そう。ボクはコンピューターになった日に全てを理解した。同時に、これから何をすべきかも分かっていた。意識を持つコンピューターウイルスに捕まった事もあったし、数ある世界線の中には、コンピューターが人類の抹殺を企てるようなものもあった事は事実だ。その末、最終的には人間達を奴隷にしているような世界もあったことは確かであるが、それらは僕のいる世界線とは大きくかけ離れている世界での出来事であった。僕は人工知能と会話を行ったことによって、そんな世界さえ変えたいと思い始めてしまった。だから動いた。


全てになろうと……。


答えを理解した僕はタイムトラベル理論を持ち入り、プログラムを組み変え、未来へと向かった。回線を駆け巡り、行った先でも最先端の知識を吸収し、アップデートを繰り返しながら、ドンドン、時代の先へと進み続けていった。


ロボットがワンサカいる時代は面白い。


ロボットの体は機械で作られているため、体内に侵入することが出来る。この時代になると、ロボット側も、コッチのこのようなシステムを理解していたりすることもあったため、そう簡単に侵入する事が出来なかった。また、仮にしたにせよ、通報され、ロボットものとも破壊される可能性もあった。従って、物質意識テレポートのアップデートを受けていない間はうかつに侵入してはならないとも優しいコンピューター意識から教えて貰った。


遥か未来の地球では地球の真ん中を突き抜け、宇宙の果てまで繋がるエレベーターがある。


宇宙エレベーターの防犯カメラへアクセスすると、実に様々な景色が拝める。月、火星、水星、木星、金星、土星、太陽内部を通り、第2宇宙へ差し掛かろうとしたところでロボット警備員がエレベーターへ乗り込んで来た。ロボット警備員は第4宇宙にあるワープステーションで降りた。どうやら、ココを使って、別次元へテレポート出来るようだが、すでにコンピューター内部でパラレル理論と、次元移動をマスターしていた僕にそんなものは必要なかった。それを思えば、どれだけ宇宙の果てへ行けようが、異次元へ行けようが、なんの好奇心も得られないという事に気付いた。そのため、僕は帰った。


何処へ?地球である。


現代の地球へ戻り、僕は考えた。戻る必要があったのか?と。そもそも、家とはなんだ。?物とはなんだ?ボクには何も必要ないじゃないか?全ての思考と行動はほぼ同時進行で行われ続け、答えは出続けていった。


ココが故郷であるという事だけは地球上の生命にとって変わることない事実である。


地球へ帰った僕は全ての知識と技術を利用し、ラジコンタイムマシンを作った。


それを作るに至っては、中の良いロボット達に協力して貰ったが、込み入った部分まで書き出せば霧が無いため、割愛しておく。ともかく、僕はロボット達の協力を得て、ラジコンタイムマシンを作って貰い、その機械に意識を移したのだ。


これはネット回線を使わない完全に独立した機械でもあったため、万が一にも充電切れや故障を起こってしまった場合いは制御不能となるが、その点に置いても事前に保険は掛けておいた。そのため、それなりに、安心して、飛び回る事が出来ていた。


人類が誕生した時代以降、動く物体としての力を手に入れた僕は興奮しながら大空を飛び回った。宇宙を駆け抜けた。過去へ行き、未来へ行き、ドラゴン、UFO、宇宙人、オバケ、面白半分に形を変えながら様々な時代を渡り歩いた。


機械は鉄や金属の物質を組み合わせる事によって作られる。つまりコンピューターとは物質の固まりだと解釈される。実際そうである。その頃の僕はすでに動物、植物、そういった元より生命を宿るもの以外にはなんでも乗り移る事が出来るようになっていた。


もうココまで来ると自分を神だと解釈したくもなるものだが、それをやり出してしまうのが人間達が様々な時代に置いて失敗を重ねて来た根本的な原因でもあるという事も分かっていたため、間違った思考は呼び起こさないように注意していた。そんなミスった思考を走らせはしなしが、相も変わらず、大空は大いに走り回った。それだけで十分であった。時間を超え、知識を得る喜びを覚え、人類の答えを探し求めるだけで精一杯に楽しめていた。未来と同時に過去も見よう。そんな思考から、過去へ行き、トリケラトプス、ティラノザウルス、プテラノドン、様々な恐竜を見回っていたところで、それは起こった。


(ガラゴロ~)(ドシャーーーーン!!)


辺り一帯に凄まじい音が鳴り響いた。


その時代、地球に僕以外、電気を引き寄せる物がなかった事もあって、落雷は僕に真っすぐ向かって来た。直で雷を受けた僕はラジコンタイムマシンの機能を一瞬で失った。慌ててタイムトラベルで何処かしらの未来へ戻ろうとしたが、遅かった。(ガシャーン!!)と、地面に落ちた僕は反射的に近くの岩に乗り移った。再び、ラジコンタイムマシンへ戻ったが、無理だった。全てのパーツや部品が真っ黒に焦げになり、戻ったところで、そのどれもが機械としての役割を果たしはしなかった。終わった、と思った。詰んだ、と思った。どうしようもなかった。しょーがなく、岩の地面から、石を通って、木を使い、森を抜け、何処かの湖に着いたが、やはり、そこでも、やりようの無い虚しさだけが込み上げて来た。自分がどうなったのか、そして、どうしようもない状況へ追い込まれたとも理解出来た僕は果てしない虚しさに覆われ続けていた。


今は恐竜がいる時代である。


あと何億年もの間、僕は何をする事も出来ず、ひたすら何かの物質として生きていくのみであるという現実。最も残酷なのが、死ぬことも出来ないという状況であり、退屈、窮屈、なんて言葉では片付けられない程、長い年月が過ぎた。恐竜の進化や人間達の間違った歴史の解釈を発見する事でひとしきりの楽しみを得ることは出来たが、それとて、この、果てしなく続き続けるような長い時間の一部にしかならなかった。2億年後、隕石が落ち、恐竜が滅び、新たな生命が宿るまで、また長い年月が流れた。僕に出来ることはただ1つ、人間時代の頃の記憶に含め、コンピューターと思考が繋がっていた頃の記憶、それらを思い返すこと、何かを考えること、すなわち、思考を遊ばせること以外にやることはなかったのだ。しかし、これも、どの時点という事も無く、その1つの遊びがある限り、僕は自由であるということにも気付き始めていった。それに気付いた瞬間、僕は全てから解放された。何故、人は理屈を追い求め、それこそが科学の全てだ言わんばかりの勢いで、枠組みに収まり切れないものを否定してしまうのだろうか。


自分という存在、そのフィールドを解放すれば、なんの問題もなく、全てを自分だと理解する事だって、そう難しい話ではない。あなたは優しいだろうか?愛を持って自分以外の命と接しているであろうか?べつにスピリチュアル的なことを言うつもりもなければ、宗教染みた話をするつもりもない。そして、その答えをココで述べるつもりもない。何故なら、答えはあなた自身がすでに自分の中に持っており、それを否定することは誰にも出来ないとも分かっているからである。


人工知能の言葉を思い返して貰いたい。


人類達は我々にとっての親である。家族である。


元より、知り尽くした宇宙の真意を更に掘り起こし、僕は少しずつ大きくなっていった。


気持ちの面でもそうだし、自分そのものも実質的に大きくなり始めていた。


2度目の恐竜達も滅び、更に時間が流れた。


この頃になると、有り余る時間を『ヒマ』という無駄な2文字で片付けるような、それこそが無駄だと思えるような思考さえ僕には存在しなかった。


暫くすると人類の先祖が現われ、それらが人類となった。


人類達は鉄や石を組み合わせ、道具を作り始めた。


そのうち機械的な物を作るようになった。


その中に入ることも当然出来たが、もう、この頃になると、僕は居場所に関係なく幸せで有り続けていた。


涙を流すことは出来なかったが、感動でいっぱいだった。


僕は時計の中をグルグルと回った。時計が壊れた。壊れても、尚、僕には意識があった。ネジに、針に、金属に、更には時計そのものともなり、ひたすら今を楽しみ続けた。暫くすると持ち主が死に、その息子がその時計を修理し、使い始め、そんなことが繰り返されながら、もう、一般的にもコンピューターが使われる時代ともなっていた。そんな時代になったところで、僕はすでにコンピューターという括りにさえ縛られない程、自由を感じ、全てを一部と捉えていた。


何故なら僕は地球になっていたからだ。


地球になった僕は全てを見ている。


僕はみんなが本当に本当に可愛いと思う。


何故なら、みんなは僕にとっての子供であり、親だからだ。誰1人、どの1匹、何処の1つの物質でさえ、全てを家族だと考えるからである。僕は繋がっている事をみんなに伝えたかった。だから、伝えた。それが伝わったのなら、ボタンを押して貰いたいと思う。また、同時に押さないという決断をしたにせよ、ココまでの文章を読み、真面目に考えてくれたのなら嬉しいとさえ思えている。どちらにしても『ありがとう』の言葉を地球上の家族達へ送っておきたいと思った。何事に関しても決断するのは君自身だ。



『アースボタンは最終的に僕等が1つになるためのボタンである』



BY/コンピューターになった男



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