最高の出会いと最低な別れ
俺はある女性と出会った。
「どうしたんだい?少年 こんな時間にこんなところで」
そう言うと彼女の綺麗な黒髪が夜風に靡いた。
「なんでそんなことを今会ったばかりのあんたに言わなきゃいけないんだ?それに俺が何をしようと関係ないだろ?」
今思えばそこまで言うことは無かったと思う。
「あ〜 すまないな そんなに怒らないでくれよ。 ここは自殺の名所だろう? こんな夜更けに一人でこんなところに来てるからもしかしたら...と思ってね」
「...」
図星だった。俺は動揺した。
そういえばここに来るまでに小屋があった。
もしかしたらこの女性は自殺をしに来た人を監視しているのかもしれない。
「まぁ 君が何をしに来たかは聞かないが命は大切にするんだぞ?」
「は、はぁ...」
そう言って彼女は去っていった。俺は呆気にとられた。
理由を聞かずに行ってしまうとは...。彼女は監視員では無かったのだろうか?
でも、最後に言っていた言葉から察するに俺がしようとしていたことは気づかれていたと思う。
取り敢えず、その日は帰ることにした。
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翌日、俺はまたあの場所に行った。
もしかしたら昨日の女性が居るかもしれなかったがはやくこの世界からおさらばしたかった。
「やぁ? 昨日、今日でまた会うなんて奇遇だな」
やはり居たようだ。
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その次の日もそのまた次の日も彼女はそこに居た。
行く度に彼女に会うので彼女も俺と同じで自殺をしに生きたのかと思っていた。
一度聞いてみたら「そんなことあるわけないだろう」と言われてしまった。
「じゃあ、あんたはなんでこんな所に居るんだ?」
「なに、ただの仕事だ...」
そういう彼女は少し悲しそうな顔をして居た。
「そうか...あまり気を張らないようにな。俺はもう帰るわ」
それ以上聞いてはいけないような気がして俺はその場を離れようとした。
「気をつけて帰るようにな」
「ああ、わかったよ」
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そんな毎日を過ごして居るうちにいつのまにかそれは『当たり前』になっていた。
俺もそんな毎日が楽しくなって自殺のことなんて忘れていた。そんな時だった。
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「さてと、今日はもう帰るかな…あ、そう言えばまだ聞いてなかったな」
「ん?何をだ?」
「名前だよ 名前!」
今まですっかり忘れていたが、俺たちは自分の名前を教えずに話していた。
「あぁ、名前か...私には無いんだ。残念ながらな」
「ハハハッ なんだよそりゃあ!」
「わ、笑うな!! 結構気にしているのだぞ!!」
まさか彼女がこんな冗談をいう奴だとは思っていなかったせいか思ったよりツボに入ってしまった。
「ハハッ じゃあ俺が付けてやるよ!」
「本当か! ぜひ付けてくれ!!」
冗談半分で言ってみたが彼女の目はキラキラと輝いていた。
「あ〜...そうだな ヒナユリ... ヒナユリなんてどうだ?」
「ヒナユリ...ヒナユリ! いい名だ!今度から私はヒナユリだ!」
それは咄嗟に思いついたものだったが彼女はとても喜んでいた。
何故か俺も嬉しくなった。
久しぶりだった。こんな気持ちになるのは。
こんなクソみたいな世界で全てを失った俺が...。
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それから彼女とは一度も会っていない。