◇序章◇第3話◇
「ちょいと、すみませんがお嬢様?その有り余っている魔力を前払いの報酬の一部として少々いただきますよ?」
「ぇ……あんッ!?」
抱き締めた状態のお嬢様が何やら艶かしい声をあげるが、断じて俺は何もしていない。
……《魔力吸収》。
俺の固有技能の1つ。本来は大気中に存在する魔素を魔力変換しつつ吸収するが一定範囲内に存在する他者からも吸収は可能だ。
接触した時に気付いたが、このお嬢さん…かなりの魔力保有量を秘めていた。
正直……俺の最大保有量を上回るかもしれんので、少々貰う事にした。
「おいおい…変な声出さないでほしいんだが……」
「っ…変って?しつ、れいな……んぅ!」
また身悶えるお嬢様を視界の片隅に置きつつ、俺は意識を男達に向けて魔術を行使する。
「【無形】」
グニャ
「ぬお!?」
「お、斧が!?」
「【拡散】」
「ッ!?土が溶けた!?」
「溶けただけじゃねぇ!薄く広がってる…なんだこれは!?」
驚く連中を眺めつつ俺は魔術を仕上げていく。
「【縛】」
最後の一言で粘着性の高い泥粘土モドキが四人の男達をそれぞれ包むように捕らえる。
「うぉああ!?」
「き、気持ち悪いぞコレ!?」
「ちぎれねぇ!くそっ!」
「…とまぁ、一丁上がりだな」
「…………凄いわね、貴方。変態の癖に」
「誰がだ!?」
折角、格好つけたのに空気読めないお嬢様の一言は俺の心を抉った。容赦なく。
「まぁ…助けてくれたのには代わりないのだから感謝“は”するわ」
「……言葉“だけ”の感謝なんぞ要らんよ」
「!…そう、貴方も身代金目当てなのね?」
お嬢さんはそう呟くとジリジリと後退り始めるが……
パタリ
「………………は?」
「……“言葉”だけの感謝なんぞ要らないから、何か……何か食べ物を…ください、がくり」
「はぁ!?ちょっと!しっかりしなさいよ!?」
あぁ……川の向こうに見覚えのある顔が…
「あぁ…おばぁちゃーん……」
「誰がよ!?」
スパァァァァン!!!
小気味良い打撃音が鳴り響く森の中……俺は一人の長い銀髪碧眼(今、気付いた)の美少女と四人の禿げた頭の男達に出会ったのだった。
………………あ。男達はどうでもよかったな、うん。