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再開ハ突然ニ

無事護衛任務を全うしたムー少尉は

無慈悲な現実を突きつけられる。

計器盤に取り付けられた飛行時計を見る。

この方角に行くとそろそろ飛行場に到達するはずだ。


間接護衛は完了し、編隊を維持したまま帰途に着く。


今日の個人戦果はグラマン3機撃墜確実、1機撃墜不確実。

列機も3機ほど仕留め、我々の損害は無し。

安堵したのだろうか、急激にのどが渇く。


すると視界の向こうに飛行場、笠ノ原基地が見えた。

無事帰ってきたのだ。


俺は迎撃に出撃したことはあるが、まだ長距離の護衛は数える程しかない。

正直不安だった。

さらに無線機も故障、戦局自体がどうなっているのかが全くわからない。

早く基地に帰還しなくては。

あせる心を落ち着かせ着陸態勢に入る。


すると指揮官機― 岡崎少佐が風防を開き俺に叫ぶ。俺も風防を後ろにずらし、少佐の声を聞き取る。


「少尉、貴様カラ降リロ」


俺は縦に首を振ると主脚操作取手に手をかける。

ガシャ と言う音と同時に脚が下りる。脚が下りたのを主翼上面に立つ赤色の棒で確認し、フラップを全開にしスロットルを下げ速度を落とす。

眼下に広がる飛行場がぐんぐんと近づく。

ドンと小さな音を聞き取り、俺はフラップ開閉取っ手を閉にする。じわじわとブレーキをかけゆっくりと

滑走路から離脱する。


駐機場まで飛行機を移動させ、スロットルを切りエンジンを切る。


「ふぅ。」


俺は大きなため息をつき、座席のシートベルトをはずす。

今日の戦いは終わった。

手のひらは汗で塗れ、額からも大粒の汗が落ちる。


降りようと席を立った時に駆け足の音が聞こえる。

向こうから走ってくる黒く汚れた白の服― この機の担当整備兵 本田二等整備兵曹だ。

「少尉!」


彼はにっこりと笑い機体の場に寄ってきたかと思うと敬礼をする。

「良かった。本当に。ありがとうございました。少尉お怪我はありませんか?」

彼は俺を見上げながら心配そうな顔をする。


自分が整備した機だ。きっとこの機に愛着があるはすだ。たとえるなら子供のように。

そしてありがとうとはその子供を無事つれて帰ってきたことに対する言葉だろう。


俺は頷き機体から降りる。

「本田、数回危なかったが、無被弾だ。しかし―

そう言うと本田の顔が曇る。


「無線機の方が途中で故障した。そちらの方整備の方を頼む。」

俺は問う言うと本田はハイッと言い敬礼をする。


「俺は戦果報告に行くから頼むぞ。本田。」

そう言い残しつつ、俺は指揮所に走る。


次々と集まる搭乗員たちは皆笑顔がない。如何したのだろうかと思いつつ、指揮所にいる参謀に戦果を報告する。


「私は3機撃墜確実、1機撃墜不確実です。」

俺はそう言うと難しい顔をした参謀は頷きながら黒板に正の字をつけていく。


「中村です、1機撃墜、以上です。」


次々と戦果を黒板に記入していくと15機撃墜していたらしい。

隊全員が整列し、岡崎少佐が申告する。


「隊員11名出撃、撃墜15機、未帰還0機。以上報告終わり!」

報告を終えると、椅子に座っていた指令が立ち上がる。


「ご苦労だった。知っているだろうとは思うが、貴官らの護衛した神雷特別攻撃隊は護衛機数機を残し全機未帰還だ。今後は貴官らも更に気を引き締めて護衛に専念せよ。」


皆が浮かない顔を浮かべるのはこの戦果だったのかと思うと納得をする。

いくら敵機を落とせても、本来の目的を果たせなかったら、意味がない。

俺も自然にしかめ面になる。何分ほど立ち尽くしていたのだろうか。俺を呼ぶ声が聞こえる。


「おい、ムー少尉」

ふと顔を上げると岡崎少佐が目の前に立っていた。岡崎少佐はベテランの搭乗員だ。昨年のフィリピンでの特攻作戦では、戦闘機乗りとして反対を最後までしていたらしい。


「はい。」

俺も顔を上げ、少佐に向きなおす。


「先ほどの戦闘見事だった。あの乱戦の中よく4機も落とせたな。」

少佐は口元を緩ませながら、問う。


「はい。巴戦を極力行わず、敵は後ろが見えないはずですので、後方下方からの攻撃を行えば良い筈かと。」


俺は顔色一つ変えずにそう言うと、苦笑いしながら少佐は語る。


「それが若いやつらに出来たらいいんだがな。訓練が短すぎる。お前は確か予備学からだったよな。」

そう言いながら少佐は手帳を開く。


「はい。」

俺は返事をすると、少佐は話を続ける。


「やはりお前は空戦の才があるのかもな。若干数ヶ月程度の訓練で、誰も駆ることが出来ぬ03-39号機で一騎当千の如し活躍とはな・・・ 

あぁそうだムー少尉」


少佐は手帳を仕舞いながら話をつなぐ。

「お前随分働きすぎのようだな。たまには休め。休むことも搭乗員にとって大切だぞ。若者が空戦ばっかりでどうする。」


それに対して俺は反論をする。

「しかし、少佐・・・」


言葉を遮るようにして言葉を紡ぐ。


「お前は明日13:00時まで休め。明日からまた頼むぞ。それと、お前の知り合いが門の前で待っていたと聞いているぞ。早く向かってやれ。」


有無を言わせぬようにそれだけを言い残すと、足早に去っていく少佐。俺はただ、その後ろ姿を見ているだけだった。





大変遅くなり申し訳ございません。

毎週金曜日夜更新予定です。

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