第9話:朗報、匠が見せるクリスマスツリーのぶっ壊し方!
ここは秋葉原のUDXビルの屋上。
ここには【聖なる鎖】に所属する数人の【主人公】からなる集団と――
「ちぃ――す」
一人のキチガイ――黒須玲が居た。
既に秋葉原駅周辺の奇形獣は彼らによって駆逐されている。
今、玲の目の前にいるのは嘗ての同胞。ただ玲が【聖なる鎖】を除隊してもう十年が経つ。見知った顔の者は一人も居なかった。
今の状況は数分前――玲が奇形獣に対し無双をしていた処、偶々【聖なる鎖】の小隊と鉢合わせ、共同して敵をかたづけた後の事。
どうやら玲にはある容疑がかけられているらしく、彼は【主人公】たちに取り囲まれ質問攻めにされていた。――と、言うのも……。
「一時間前、貴方の家から人型悪魔七体の粉状死体が発見されました。詳しい話を聞かせてもらえませんか?」
「ちぃ――す」
「…………」
しかしこの様に先ほどからまるで会話がかみ合っていない。
「……いい加減ふざけるのを止めないと本部に連行しますよ?」
「ぉぉぉぅ? ちょっ、わり、待ってくれ……」
その一言で玲はようやくまともな会話をする気になる。
玲はかつての同胞にまるで世間話でもするかの様に話し始める。
「あれは今朝俺ン家にやって来た暗殺者達でよぉ」
数時間前の事件をかいつまんで簡単に説明する。
そして段々と男達の傍まで近づき、その前で立ち止まった時――
「でさぁ――」
玲が満面の笑みで一人の青年の肩を叩く。
「あれ――、送り込んだのぉ――っ、お前達だよな♪」
「――――――っ!?」
その発言にその場の空気が凍りつく。
玲の表情はまるで見る者が寒気を覚える程の爽やかさと不吉さを纏う満面の笑みに満たされており、周囲で男達が震えあがる。
しかし今の玲の発言はただの狂言ではない。ちゃんと【ある情報筋】から手に入れた確かな情報。
そもそも――玲は昨日の段階で既に今朝襲撃事件が起こる事を知っていたのだ。
そして今――たまたま玲は【聖なる鎖】と共闘し、その後質問攻めにされるという状況になっていたが――実は違う。
これは玲が彼らに対しこの言葉を口にする為、誘導した演技。
「私達が君の暗殺を企てたと? そんな証拠が何処に?」
男達の中から唯一冷静さを失わなかった人物、そいつがしらをきる。
かなり特徴的な姿をした男性――帯電するデブだ。
全身をピチピチのダイバースーツ風の純白衣装に包み、飾りか武器か知らないが至る所に電球を付けている。それが男の体が動く度に微かな紫電と共に光り輝く。
ぁあ? まったく何なんだこの格好は……。変態もいいところだろ。え? 今朝の俺の格好も何なのかって? バぁ~カ、俺にとっちゃあ裸もコスチュームの一つなんだよ!
――と、玲は昔から重度の魔薬中毒者であるが故に時々そうした居もしない人物に対し狂言を語る癖を持っている。
――が、逆に言えば今の玲にはそれ程の余裕があった。
対照的に男等の顔には焦りがうかがえる。
「まったく何を言いだすかと思えば――」
「やい、電球野郎! テメェには訊いてねぇ! 俺は今、この状況を俯瞰してる読者に語りかけてンだよォ。邪魔すんじゃねぇ――――ッ!」
「はぁ!?」
玲の意味不明な発言に電球男はこめかみに青筋を浮かばせる。
「リーダー。こいつは薬やってんですから。言ってる事いちいち気にしちゃダメですよ」
男達の中から比較的若い青年がそう進言する。ただ――
「おい、ガキィ~。なんでその事知ってやがる?」
そう。何でこんなガキが十年近くも前に除隊した俺の事情を知っているのか。
「…………ぁっ」
青年は言葉に詰まる。玲はここぞとばかりにかまをかけた。
「そういや俺のバイト先に居た万引きGメン。アレって監視役だよなぁ?」
言ってハルバートを召喚、青年の首筋に添える。
「――ァ、ァあ、ァア!」
青年は目に見えて狼狽。そして懐から一丁の銃を取り出した。
かかったな……。
「くそぉおおおおおお!」
その行動に他の男達は蒼白になる。
「やめろぉ――っ」
その声は続く轟音にかき消された。
響き渡る銃声。その音は周囲の建物に反響し二重にも三重にもなって聞こえた。
その間、男達は全く動けない。続く悲劇を予期してだ。ただ一人――
「……やった?」
その悲劇を招いた青年を除いて。
銃弾は玲の顔面に直撃した。しかしそれはそう見えただけ――
「やっぱりぃ、ぉまえらくぅぁあ~~っ」
「ぇ?」
玲の口から水蒸気が迸り、口内から鉛色の唾液が飛び散る。
それは口内の業火に焼かれ、形を失った銃弾。溶解した鉛の唾だった。
玲の顔面の髑髏が口角を釣り上げ――笑う。まるで死神の様に……。
「ぅうぁあぁあぁあ――っ」
その悲鳴が合図だった。
「コードレッド。総員――黒須玲を、殺れぇぇぇぇぇッ!」
一斉に襲いかかる男達。手には魔武器。しかしこの瞬間――
「Let's ポールダァアーンス」
玲はハルバートを地面に突き立て両脚を地面から離す。途端鉄棒競技の如く柄を軸に体を高速回転。さながら独楽の様に連続技を繰り出した。
その動きはさながらヨガやポールダンス。それもただの回転蹴りでなく、身の捻りや持ち手を組み替えての蹴り上げや蹴り落としと多彩な技を放つ。
男達はその乱舞に蜘蛛の子散らした様に舞い散り、そのまま発火。
地に着くなり奇声を発してのたうち回り、その後動かなくなる。
最後はハルバートを引き抜き空中六回転捻りをし、着地と同時に吠えた。
「OH! Crazy」
言って自分が着るTシャツのイエス様の如く両手を広げて反り返る。さながらシャフトポーズの様に。
「化物がぁ……」
唯一乱舞の外に居たリーダー格のデブだけが繰り広げられる規格外の現象を前に後退る。
だが――
「おい、クリスマスツリー!」
玲がシャフトポーズのまま男の眼前に瞬間移動。否――そうと見間違う程の速度で移動した。
「な――ぁっ!?」
デブは目を皿の様に丸め戦慄。そんな男を捉える事など、害虫を駆除する事より容易い。
「ヒィ――ハ――ァアッ!」
ハルバートを掲げた唐突の突き。それが男の腹部を貫通し、そのまま壁面に張り付けにする。
「ぐぁあッ」
男が苦悶し身悶えるも、直ぐに黙り動けなくなる。目の前に玲の顔があったからだ。
「Dead or Die?」
玲は下劣な笑みと共に小首を傾げる。
同時に髑髏の刺青、それ自体が別の生き物の様に歪に動く。
「や、やめてぇ……」
男の懇願。先の質問は選ばせているが、どちらも意味は死だ。
「どうか……」
「答えは、聞いてねェッ!」
玲のアッパーが男の顎を砕く。
同時に口内から響く骨の砕ける音。
口から鮮血共々歯や肉片――舌の切れ端が舞った。
「おぷすっ!」
男は言葉とは呼べぬ呻き声を発する。口角から滴る血液の噴水。
徐々に噛み切った舌からの出血で気道が塞がっていく。
「ぉぼ、ぼぼ、ぼ、ぼ」
そして男は自らの血に溺れ、死んだ。
「さぁ――て」
玲はハルバートを男に突き刺したまま消滅させる。支えを失った死体は地に落ちた。
同時に今まで殺した全ての【主人公】たちの死体が独りでに燃え出す。
遺体は見る見る内に炎と共に小さくなり跡形も残らず消滅する。
最後に玲は天空を指差し、吠えた。
「俺が善人だと思ったか? 残念それは嘘だァ! 俺は【地獄の悪羅悪羅系戦士】黒須玲! 現在過去未来並行宇宙全てにおいて語られるゴッドビートの主人公。覚えときなッ!」
そして彼は己の仕事を全うした。