第39話:葉佩……お前昔読んだ東京喰種と寄生獣をパクったんじゃないだろうなぁ?
俺と暁の激突は通算三ケタを超え、尚も止まることなく互いに絶命の一撃を叩き込み続ける。
だがその合間、暁は能力で停止したこの世界の中で語りかける。
「戦闘力はほぼ互角か……。なら勝敗をわける要因は他に何があると思う?」
口元には冷笑。互角? 奴にはまだそれだけの言葉を吐ける余裕があるという事だ。
「――っ」
俺は舌打ちし返答の代わりに打撃を返す。拳は暁の翼に防がれるも彼の体を大きく打ち上げた。
そして俺の答えを叫ぶ。
「それは己にとって有利な状況に戦況を運べるか否か」
俺の使役する液鋼は空間を歪めれば幾らでも召喚出来るが、暁の場合テレキネシス能力で操れる物体を地上から調達しなければならない。
ならば戦場が上空というのは俺にとって利がある。ここで戦っていれば奴はいずれジリ貧だ。
しかし――
「そうだな。だがもう一つある……」
暁はそれを知った上で尚余裕の体を崩さない。
そして俺達を中心に展開していた破壊の豪雨。完全に意識の外に追いやっていたそれが次の瞬間、俺の意識に反して予期せぬ動きをみせ始める。
俺が具現化した武器。それが唐突に軌道を地上へと変え撃ち出されたのだ。
「――!?」
その直撃を受け、ビルが悲鳴を上げて傾く……。
俺の意思ではない。
武器には暁の操る砂が纏わり付いていた。暁が強引に俺の武器を操りビルを狙ったのだ。
そしてひしゃげたビルは自重に耐えきれず倒れ始める。
その先には立ち竦む一人の少年の姿が……。
「なんだと!?」
少年は暁の能力で動きを止められている。
無論意識はなく逃げる事など出来るはずがない。
「くそぉッ!」
俺は反射的に少年を目指し降下。だが――
「それは、相手の弱点を知ること」
俺の周囲に突如形成される無数の槍。
「!!?」
「そしてこれが、お前の弱点だ」
俺はその直撃を受け錐揉み状に落下する。
落ちた先で視線を上げれば、視界を覆う黒い影に鳥肌が立った。
徐々に加速して倒れるビル。
「まずい……」
このままでは子供諸共下敷きだ。
既に回避は不可能。
俺を背中の翼を一気に倍の大きさまで広げ、倒れ込むビル目掛け飛び立つ。
さらに背中から一対の巨腕を生やし、迫るビルを全力で受け止めた。
軌道を逸らす。そう考えていた。しかし……。
「重い……ッ!?」
受け止めたビルの重さは予想以上のものだった。
俺は直ぐに理解する。これは暁のテレキネシス能力で重圧を増したビルが迫っているのだと。
これでは軌道を逸らす事が出来ない。
「てめェ……」
こいつ。下に子供が居るのにどういうつもりだ! このままじゃこの子も……。
しかし――
「そして、お前にはそれを救ってくれる仲間も居ない」
暁の言葉と共に、突如青髪青衣の魔法少女が地面すれすれを滑空しながら現れる。
そしてそのまま少女は少年を抱きかかえ、ビルの下から脱出した。
「なっ!!?」
暁の口振りから少女が奴の仲間である事は間違いない。この空間で自由に動ける事からもそれは明白。
だが今ので少年は救われた。同時にビルの下に居るのは俺だけとなる。
こうなる展開を暁は最初から読んでいたのか……。
俺はわざわざ自分から死地に足を踏み入れた事になる。
「くっ」
ビルから伝わる重圧が勢いを増す。
ビルの外観から察するに本来の重さの三倍はあるだろう。
徐々に俺の体が地上へ向けて沈み始める。
そして更に追い討ちとばかりに地上に散乱する数十の瓦礫が凶器となって俺に襲い掛かった。
俺にそれを躱す術はない。
「くっ、そぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
鉄骨が、鉄筋が、ガラスが、アスファルトが次々と俺の鎧に傷を付ける。
傷は直ぐに塞がるも体力は徐々に削られた。
この間、俺は考える。現状の打開策。に誰も居ないのなら……。
――目の前の障害を、破壊する道を。
俺は背中より更に四本の触手を生やし、眼前の壁に対し数十もの打撃を叩き込んだ。
その一撃一撃に壁面は徐々に砕け、自身を襲う瓦礫も粉砕する。
瞬間――爆音を轟かせ壁は大破。俺は直ぐに触手と巨腕を消滅させ、その穴へと潜り込む。
そして天へと伸びる斜面を一直線に飛び進んだ。
その先で待つ暁を目指して。だが――
「何処に行く?」
「!!?」
廊下の中腹で俺は不意に右足首を掴まれる。その相手は――
「暁……ッ!」
奴は俺がこうする事を読んでビルの中に潜んでいたのだ。
「くそ!」
俺は咄嗟に反応するも対応が間に合わない。下方に投げられ、来た道を落下する。
迫る暁。直後互いに繰り出した拳が激突し、室内に暴風が吹き抜けた。
続く連撃に壁や天井、窓や床が砕け、それらが暁の操る凶器となって返ってくる。
ここは暁に有利な戦場。この建物内にある全ての物質が俺の敵となっていた。
そして達俺は廊下を飛行しつつ肉弾戦を続け、ある扉を突き破ると広いワンフロアへと侵入する。
フロア内は机や椅子が皆部屋の隅に堆積しており、その開けた空間内で俺達は互いに距離を取る形で着地した。
何時の間にかビルの落下は止まっている。
「…………」/「…………」
一瞬の静寂……。
しかしそれも直ぐに何処か――おそらく数キロ先から聞こえてきたのだろうビルの倒壊音によってかき消された。




