第37話:斉木楠Oじゃないけどサイキッカー
ビルを貫いた光の槍。それは白銀の人狼と化した俺が纏う光の軌跡だった。
振り下ろした拳は音速であり、暁はビル共々貫かれ死ぬはず、だった。
しかし暁はそれを躱す。
そして数刻前まで屋上だった場所に浮遊する形で俺と対峙した。
「驚いたな。蟲共や翼はどうした?」
暁のその言葉に俺はさも当然といった風にこう返す。
「女の方は殺してない。そもそもあの女を倒すのは俺の役目じゃないしな。人の獲物はとらないんだろ?」
それは暁が父を見逃す際に言った言葉。
皮肉を込めたその返しに、暁は初めて俺から視線を逸らす事さえも躊躇わずに笑った。
「はははははははぁ。そうか、なるほど……」
「父もあの女を殺さなかった。これで貸し借りはなしだそうだ」
「ほう。……それで? お前は一体どうした? 何をしたらそんな姿になった?」
その言葉に消えていったミアの姿が蘇る。だがその事を暁に話す気など毛頭ない。
俺は無言で暁を睨み返す。
「…………そうか。だが少しくらいスピードやパワーがあがったくらいじゃ俺は倒せないぞ」
そう言って暁はサーベルを構える。
気配でわかる。暁は未だ謎に包まれるあの能力を使うつもりなのだと。だが――
―― 『無駄です……』 ――
その瞬間――
「もちろんそれだけじゃないさ」
俺は世界に溶けたミア。その声を、間近で聞いた様な気がした。
そして俺の肉眼はそれを捉える。接近する暁。それは速く。残像さえ生む高速の踏み込み。
だがそれはもうあの瞬間移動に等しき速度ではない。俺はこの瞬間、意識を失う事なく、頭上に迫るサーベル、それを鉤爪付きの手甲で受け止める。
「――――――っ!?」
この時、暁は初めて驚愕の声を洩らす。
俺は今、暁の能力の影響を受ける事なく同じ時間を共有している。
ミアが包むこの世界が俺を暁の理から守ってくれていた。
「っァアッ!」
そして俺が振るう拳に、暁は堪らず腕を盾にして後退。
両者の距離は開き、数秒の静寂がこの場を満たす。
「まさか、動けるとはな……。変わったのは見た目だけじゃないというわけか」
すると、何故か暁はサーベルと拳銃を懐にしまう。
「ん?」
どういうつもりか。まさか今更素手で戦うとでいうつもりなのか……?
そんな思いが脳裏を霞め、俺は訝しむも、それは違った。
「遊びは終わりだ。今からお前を俺の新しい物語における最初の敵として認めてやる」
その言葉を引き金に地上で変化が起こり始める。
たちこめる砂塵、それらが蠢めき始めたのだ。
塵はまるでそれそのものが意思を持つ生物であるかの様に活動し、寄り集まっては無数の触手を形作り、 次々と起立していく。
その光景を前に俺はようやく暁の能力を理解する。
「お前、テレキネシス能力者か」
その言葉に暁の口角が吊り上がる。
テレキネシス――超能力の一種で思念で物体の動きを操作する事の出来る異能。
それもこいつの場合は――
「操るモノが生物なら、その意識さえ奪える程の」
「そうだ」
「半分正解ってのはそういう事か」
つまり暁が瞬間移動した様に見えたり、時間を止めた様に見えていたのも、実際は暁がサイキック能力で俺を操り、意識を奪っていたということ。
だが今の俺はもう暁の能力の影響を受ける事はない。
故に今度は周囲の物体を操り武器として展開したのだ。
遊びは終わりだと言った。
確かにこれが本当なら、暁は今まで遊んでいた事になる。
だがそんな事はどうでもよかった。
対峙する俺もそれをただ黙って見ているだけではない。
その行動に最早意識の集中は必要なかった。
それはあたかも自然現象の様に俺の周囲の空間を歪めて現れる。
俺の魂と共にある白銀の液鋼――進化した俺の能力だ。
それが何本も鎌首をもたげ、暁と対峙すべく起動していく。
そして両者が召喚した共に無形であった粉と液は次の瞬間、主の命に従い型を成す。
それは剣であり、弓であり、槍。
双方が具現化した千差万別の武具は敵に向かい合う形で整列した。
そして一瞬の沈黙……。
「――――――――――!」
次の瞬間――それは同時に撃ち放たれた。




