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第3話:あぁ〜あ、アスファルトが床冷房だったらいぃ〜のになぁ〜

 そんなこんなで今に至る俺と父は、壊れた家具家電製品を買い揃えるため、現在秋葉原駅前の巨大量販店を目指して歩いている。

 ここまでの説明で――まあわかってもらえたと思うが俺は完全なとばっちりであり悪くない。

 ――と、俺は心の中で居もしない第三者を立てて愚痴を零す。

 だがそんな事をした所で、やはり暑さは少しも和らぐことなく、俺はこの熱気に耐えながら歩き続けた。


「暑い! 暑い、暑い、暑いぇっえっえゥぃぇぇううぉ――――!?」


 とはいえ再び上げる奇声。


「葉佩……それ、もうやめてくれないか」


 その言葉に父が釘をさす。

 これはあのヘチマが爆発寸前に発していた言葉。言わば嫌がらせだ。

 あの叫び声はあまりに衝撃的過ぎて当分忘れられそうにない。夢にも出てきそうだ。


『ぁあぁあぁああぁぁあぁあぁああぁ――ッ!』


 ミアが便乗し、さらにヘチマの断末魔をマネする。


「悪かったってぇ!」


 父が本日何度目かの謝罪を述べる。


「ただあの発明は――」

『ぁ、そこ右です』


 ミアは父の弁解を遮る。

 俺達は今ミアに量販店までの道のりをナビゲーションしてもらっていた。

 俺は目の前の交差点をミァの指示通り渡らずに右に折れる。しかし――


『そこ右ですって!』


 数歩進んだだけで再び右折の指示を出された。


「はぁ?」


 それでは元来た道を戻ってしまう。


「ぇ? 今曲がったけど……」


 スマホ画面に視線を下ろすも、そこにミアの姿はない。


「ん?」


 不信に思い一瞬足が止まる。同時に再びミアの声を聞いた。


『だから右だって言ってるでしょ――ガァッ』


 声は数メートル先、今の交差点をそのまま直進した方から聞こえた。


「いや、ちょっと寄りたい処が……」


 父のスマホの中だ。


『何処です?』

「行きつけの電店に」

『何故?』


 父はどさくさに紛れて俺たちと別行動を取ろうとしていたらしい。


「せっかく秋葉原に来たんだから、次の発明品に新しい部品を買いに行こうかと」

『正気か? おい』


 ミアの否定。この瞬間敬語じゃなくった事に俺は背筋に冷たいものが走る。


「しかし――」

『駄目です』

「これは人類の――」

『駄目です』

「…………」

『…………』

「…………」

『…………』

「これは人類の――」

『駄目です』

「………………幸福の為にッ、私は発明を続けねばならないのだァァァアッ!」

『駄目です』

「…………」


 わざわざ間を置いて最後まで言ったのだろうが、それで可決されるとでも思ったのだろうか?


「後で……」

『駄目です』

「…………」


 とうとう信号が点滅を始める。


「…………っ!」


 ――と、突如父は走り始めた。


『ぁっ』


 逃走だ。


「おぉぉい、父さん!?」

「三十分後に合流しよう。それまで量販店で時間でも潰しててくれッ!」


 父はそう口早に言うと交差点の反対側まで渡ってしまう。

 慌てて後を追おうとするも信号は既に赤になっていた。


『待てコラ――っ』


 ミアの声だけが父を追うも所詮はスマホの中。


『説得します』


 直後ミアからそんな一文がメールで届く。

 どうやらここで待っていろということらしい。ただ――

 ぇ? それまで俺、このまま……?

 と、思い焦り始めたのは二人が居なくなってから一分弱経ってのこと。

 暑い! 暑い、暑い、暑いぇっえっえゥぃぇぇううぉ――――!?

 あわや干物になりかけた頃、事態に進展があったのは更に五分後のことだった。


『ただいまです~』

「お……ぉぉ……」

『どうしたんですか……?』

「スマホに温度計機能ってなかったっけ?」

『ありますけど……』

「今何度だ?」

『52度です』

「そんなんで、よく俺を五分近くも待たせたな……」

『私自身生身じゃないのでそこらへんの感覚は何とも……』

「そうかよ……」

『まあ私もそれだけ動転していたという事ですよ。例えるならショッキングピーポーマックスです♪』

「おまえ……毎日無駄にアップデートしてると思ったらそんな言葉とか仕入れてるの?」

『当然です。お喋りアプリですから』


 それにしては無駄な機能とか多過ぎだろ。


「ならその得意のお喋りで説得した結果、どうだったんだ?」


 見たところ周囲に父の姿はないが……。


『失敗に終わりました』

「おい」


 じゃあ俺は何の為にここで五分以上も待ったんだ。


「無駄じゃん」

『無駄って……私も頑張ったんですゥ。ただ義父さんが……』


 しかしそこでミアは言葉を詰まらせる。なんだよ。歯切れが悪い。


「お前、父さんと何話した?」

『?』


 まさかと思うが何か吹き込まれたんじゃないだろうな。

 そんな疑問と共に口にした言葉だったが……。


「ぇ、ぁ、いぃ?」


 思いのほか取り乱したミアにそれは確信へと変わる。


「話せ」

『――――ぅ』

「いいから。じゃないと俺はここから梃子でも動かん」


 最早暑さで頭が回らないのか、自分でも何を言っているのか意味が分からなくなる。


『わ、わかりましたよ……』


そしてミアは数分前の父とのやり取りを掻い摘んで説明してくれた。

どうやら父は交差点を渡った後も立ち止まる事無く五百メートル近く走りは続けていたらしい。暑いのによくやる。

 そしてその間――ミアは父が自身のスマホをマナーモードに設定しようと音量をゼロに合わせようとお構いなしに無理やり設定を変更して、大音響で喚き散らした。

 そんな父は周囲の人に奇異の視線を向けられていた事だろう。


「くそォ――ッ、電源を切ることも出来ないのか!?」

『さぁ、大人しく戻りますよゥ――ッ』

「いやだぁ――っ」


 ミアが説得するも父も一歩も引かない。


『早くこのお使いを終わらせないと御主人が帰って宿題が出来ないんですッ!』


 理由――そこ……?


「じゃあここでこうして口論をするのも時間の無駄じゃないか!」

『あなたを三十分も好き勝手行動させるよりはましです!』

「そうは言うが、わ、私は君に気を使ってあげたんだッ!」

『何をそんな――――』

「嘘じゃない! せっかくの夏休みなのに葉佩はずっと家に居て、ギャルゲーばかり!」

『――――』

「せっかくの外出だ。二人っきりにさせてやろうと言うのがせめてもの親心……」

『!?』

「二人っきりとか何かデートっぽいゾ?」

『…………ふにゅ♪』


 なに? 今の音……。


『いいでしょう。ただ――ちゃんと三十分後には合流してくださいよ♪』

「ははは、勿論じゃないか」


 などという交渉が……。

 ――がぁッ!?


「説得されてんじゃねーよッ!」

『…………ぁ、ぁは、そうですねぇ、はははは』


 ミアは明後日の方角を向く。

 まったく何をやってるんだか。

 無理やりにでも目線を合わせてやりたいが、スマホ画面内の彼女を角度的に覗き込む事は出来ない。


『仕方ありませんよ。まあとりあえず――』

「…………メロンブックスに行こう」


 俺は踵を返して元来た道を引き返す。


『……?』


 ミアがこいつ何言ってんだ? とばかりに蔑んだ目を此方に向ける。

 父は三十分後に量販店で合流しようと言った。ならば何も父が来るまで間、律儀に量販店で待つ必要などない。俺もせっかく秋葉原に来たのだから欲しいものを買いたいのだ。

 特に今やってるギャルゲーの薄い本とか……。


『ぅ――――』


 ミアが唐突に膝を着いて丸くなる。


『量販店にも本屋があるのにわざわざメロンブックス行くとか。買いたいもの――まるわかりです』

「だから何だよ」

『せっかくの二人の時間にエロ本を買いに行くとか………(ごにょごにょ)』


 などとよく聞こえないが何かを言っている。何だろう……?


『私、悲しいです。御主人がそんな節操のない方だとは、悲しさのあまり体がぷるぷる震えます。誤って御主人の女装コラ画像を本日のオカズスレに誤爆してしまうかもしれません』

「おい、今なんつった?」

『いえ、私は何も……』

「俺の女装コラ画像が今なんつった?」

『ちゃんと聞こえてるじゃないですか』

「そうだよ! 何時の間にそんなモノ作った!」

『待ってください。ふむふむ、最近の流行りは魔法少女アニメ《ふわふわ少女チャチャモニカ》ですか。じゃあ一番露出の高いこの子を――』

「待てぇ――ッ。それ今から作る気だろ!」

『はい、まずは素材集めにィ――ッ』

「やめろォっ!」


 俺はすかさずスマホのバッテリーを抜く。


『ぁっ』


 途端ミアの煩い声は霧散し周囲の騒音以外聞こえなくなる。

 きっと今のでミアは俺のスマホの中に閉じ込められた。父も電源など切ろうとせず最初からこうやればよかったのだ。

 そして同時に――あれ、これ俺メロンブックス行っても問題ないんじゃね? などという考えが脳裏を過る。

 その後の俺の行動は迅速だった。


「やふゥ――――ッ」


 まさに野に放たれた野獣。俺は歓喜して飛び跳ね。駆け出すと、前転さえしてみせる。

 周囲の人が何事かと此方を見るもそんな事はどうでもいい。

 俺はメロンブックス目指してひた走る。

 しかし俺の脚はメロンブックス入口前まで来たところで止まった。

 背筋が凍る。

 あれ? 今何度? 店のクーラー、効き過ぎじゃね……。

 などという現実逃避は無駄。俺は見てしまった。

 メロンブックス前のゲームセンター。その入口に取り付けてある巨大モニターに映る見知った少女の顔を……。


「…………………」

『お待たせしました。しましたくぅあ? (わたくし)――ミアですぅ』

「…………ぁあっ」

『お久しぶりですねぇ~。(わたくし)のこと、覚えてますか?』

「…………ぉ、ほぇォ~~」


 頭の中がサル化する。まともな言葉も喋れなかった。

 やばい。こいつ、もうぷるぷる震えてね? もうお終いだ。ホモスレの姫になっちまう。


『どうします? (わたくし)――もう準備の方はよろしいのですが?』

「りょ、量販店に、行きましょう……」

「でつね♪」


 通行人の何人かは何事かとこちらを見るも、それこそ最早どうでもよかった。

 ミアの妙な(わたくし)口調と準備が整ったと言う言葉に恐怖する俺に選択権などく、俺は彼女の意志に従うしかなかった。


『まずは何故か電源の切れたスマホを立ち上げましょうか?』


 ミアに促され、再びスマホにバッテリーを差し込んで電源を入れる。


『ぴゃあ!』


 すかさずスマホ画面に戻ったミアがそんな気合いと共に拳を突き立てる。こいつの移動速度を考えるとバッテリーを抜くまでの間に安全地帯に避難するなど雑作もない事なのだろう。


『さあ、じゃあそのまま店を通り過ぎて次の信号を右に曲がりましょうね』


 再開されるミアのナビゲーション。


「はい……」


 それに逆らう事など最早出来なかった。

 ミアの指示通り、暫くして突き当たった横断歩道を右に曲がる。

 あとはどんな指示を出されようと量販店に向かうわけなのだが、そこでミアが急に押し黙る。

続くルートの指示が来ない。


「……ミア?」


 俺は不審に思いスマホ画面を覗き込む。すると彼女は画面内で呆けた表情をしていた。


「どうした?」

『何です? ……あれ』


 ミアが俺の頭上を指さす。

 彼女には手元のスマホから俺と対面する形である為空が見える。

 彼女が指差したのは俺の背後に広がる空。

 俺は彼女につられて空を仰ぐ。そして知る。


「……?」


 空に一点――黒い影が存在する事を。

 それは闇夜に浮かぶ月の様に、一センチさえない小さな染みの様……。

 だがそれが徐々に弾痕の如き亀裂を周囲に広げていく。


「……なっ!」


 もしかしたら俺だけがその瞬間を目撃したのかもしれない。

 『空が砕けた』――その表現が正しいだろう。

 突如炎天の空からガラスの砕ける様な音が響く。

 そしてその異音と共に――周囲は深い闇に飲まれた。

 あまりに唐突な出来事に通行人を初め、沢山の人々が不安や恐怖に駆られて空を見る。

 そして目撃した。


「なんだよ。あれ……」


 上空に開いた巨大な穴から地上へと降りる無数の影。それらは決して人でないと、俺は理解した。こんな方法で現れる存在が真っ当な者であるはずがない。

 そしてその予想は正しく――そのモノは頭が二つ、腕が三つ、脚が四つなど、おおよそこの世の生物からはかけ離れた異形の姿をした怪物の群れ。


「キャ―――――――――ッ!」


 何処からかそんな悲鳴が上がった。

 俺の放心していた意識は現実世界へと引き戻される。

 周囲にいる何人もの通行人。その内の一人が悲鳴を上げていた。

 その声によって恐怖は人々の心に伝染。次から次へと悲鳴が上がり彼らは逃走を開始する。

 混乱した人々に押され地面に倒される何人もの人。

 俺はそんな混乱の中、未だ逃げる事なくその場に立ち尽くした。何故なら――


「父さん……ッ!」


 俺は駆け出す。父が居るであろう電店を目指して。

 今日――この日、この街は空を穿ち現れたこの穴によって地獄へと変わった。


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