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第19話:迷コンビ!? 和ゴス少女と樋口一葉君

 草木謳歌(くさきおうか)は頬を朱色に染めて、今まさに愛する先輩へと己の気持ちをを伝えようとしていた。


「黒須先輩!」


 その相手とは黒須玲。

 そして彼女は熱い吐息と共にその言葉を口にする。


「好きです。付き合ってください!」


 それは告白。

 対する黒須玲の返答はーー


「じゃあ、ホテル行こうか」


 まったくもって最低な答え。

 だが、謳歌はーー


「はい、先輩」


 嫌な顔ひとつせず、彼の胸の中に飛び込むとその腕に自身の腕を絡める。

 そして二人は夜のネオン街へと消えて行く。


 ――と、いう妄想を黒須玲はしていた。


「ふふふ、謳歌ちゃん。実はいい星空が見れる宇宙ステーションの部屋があるんだぁ……」

「この下劣者め……ッ!」

「痛ァ!」


 玲は傍らの女性に下駄を履いた足で蹴られる。

 彼女の名は黒木翼(くろきつばさ)――暁が翼と呼んだ【平和の鷹(ジークアドラー)】の一人であり、昼間の奇形獣襲撃事件で獣を操っていた召喚士でもある。

 今は奇形獣ではなく、歪な姿をした巨大な人型の昆虫――さしずめ奇形蟲を数匹傍らに従えている。

 そんな彼女の容姿はおおよそ中、高校生くらい。あの純白の少女とは対照的に黒が印象的な少女だった。

 まず着ている服からして黒い。それも黒の和ゴス。

 服の裾はふわりとしたロングスカート状。裾や襟元には紫色のフリルがたっぷりと付いている。

 そして下駄を履き、右手には広げた黒い日傘、左手には閉じた鉄扇を持つ。

 それをあたかも指揮者の様に振るっては蟲たちを統率していた。

 女の髪はまるで黒く染めているのかと思えるほどに深い闇色の光沢を放ち、そのセミロングヘアーは風に揺れ、まるでライオンの鬣の様に舞っている。

 彼女は化粧でもしているのか、はたまた夜の所為か、その肌は純白の少女と同じく血が通っているのかと疑いたくなるはどの白さを宿し、触れれば壊れてしまいそうなほど可憐だ。

 そして幼げな顔立ちの目元は黒く縁取られ、唇は紫の口紅が飾っている。

 一際目を引くのは彼女の背中から生える漆黒の双翼――彼女は人間ではない。鳥人種の亜人。

 そんな翼と玲が今居るのは神崎晴彦が入院する病院の屋上。

 二人は間もなく決行する神崎晴彦殺害計画の開始に備えていた。


「くだらない妄想をしている暇があったらこの後の事のひとつでも考えたらどうじゃ」

「くっ、俺のステキ妄想劇を駄文扱いか」

「それ以外に何がある?」

「――っ。ぁ~はいはい。わかりましたよ」


 玲は仕方なく目先の事について考える。

 即ち目の前の翼がその和ゴスの下にパンツを履いてるか否かだ。


「うつけが!」


 今度は傘で突かれる。

 しかし玲はその反応を楽しむかの様に続けた。


「別にいいじゃん。俺の妄想設定ではノーパンという事にィ――ッ」

「やめぇ――いっ。そんな破廉恥な行いをするか!」

「へぇ~。そぉ? 信じれないなぁ」

「な、っ……にィ?」

「本当に履いてるのぉ?」

「履いておる!」

「へぇどんなぁ?」

「九尺……っっ!」

「ちょ、今九尺褌って言いかけた? 何それエっロぉ~!?」

「――――!? たわけぇがァ!」


 瞬間――彼女は両腕を胸の前で交差し――もう一度玲を蹴る。

 同時にスカート内から微かに見えた紫色の布地に胸も同色の布で覆われていると知って玲はニヤけた。


「~~~~~~っ」


 彼女は化粧をしていても朱色とわかる程その顔を羞恥に染める。


「ふひひサーセンw」


 玲が欲しかったのはこの反応。羞恥に染まる雌の貌だ。

 千冬と違い年相応の反応で面白い。からかい甲斐があった。

 ――と、翼は自分の顔を隠す様に懐から鴉の面を取り出すとそれを被る。


「んっ~~、んっ、んんっ。そんな事より! そろそろ始めるぞ」


 言って翼は院内へと繋がる扉を指差す。

 仮面はこれから行う作戦で正体を隠す為の物。


「ぇ~もう? もうちょっと翼ちゃんで遊びたいなぁ?」

「~~~~~~っ」


 とは言いつつも玲も気持ちを切り替えて歩き出す。ただ――


「おい玲、何をしておる? お前も面を被らんか。よもや、忘れたわけではあるまいな?」

「ぇ? まさかぁ。ったり――め――ょう」


 玲も懐から一枚の面を取り出す。だがそれは――


「な? それは……!?」


 それは五千円札で見かける……。


「何って? 樋口一葉だよ」

「いや、つまり何故その様な面を使うのかと訊いておる」

「何って? …………驚くなよ?」

「…………」

「面白いからさ!」

「………………ンッッ。もう、どうでもよい」


 二人は病院へと足を踏み入れた。後に続く奇形蟲達。内一匹が天を仰いで吠える。


「____ ――――  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ―――――――― !」


 それは人の耳には決して聞き取れない音の羅列。

 だがそれが意味するのは開戦の号砲。変化は――人知れず上空にて起きる。

 蟲だ。突如雲を割いて現れた数十からなる奇形蟲の軍勢。

 それが上空で何処に行くでも留まるでもなく、その場でぐるぐると円を描く様に旋回。

 まるでそこに黒い小型の台風を形成する。

 そしてその小台風は段々と密度を濃くしていき、隙間をなくす。

 月も星の光も遮り、一帯の夜空を漆黒の闇へと作り変えた。そして――

 闇は一斉に病院目掛けて降下した。

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