第18話:特報、今語られるこの世界の真実、暇を持て余した女神様の喜劇
―― 【主人公】が【主人公】であり続ける為にはどうあればよいか? ――
―― あの夜、少女は彼らにこう語った ――
―― それはその戦いが永遠に終わらなければよいのだと ――
この世界に何故これ程までに悪が多いのか……。
それはこれまで何人もの人間が考えて答えの出す事の出来なかった問い。
しかしそれらには全て理由が存在した。
それはこの世界に次々と現れた災禍の数々は皆ある力によって、この世界に引き寄せられていたのだ。
そしてその力とはこの世界に生命が誕生する遥か以前、嘗て存在したある女神が撒いた異能。
あの日――その世界の業ともいえる真実を、彼女は――暁達に語った。
それはこの世界の創成期まで遡る。
この世はある創造主によって、火、水、風、土、四つの元素の力を愛――【ピリア】の力で結合させ、憎――【ネイコス】の力で分離させた事で創られた。
そしてそれらの力はこの世の誕生と同時に世界中に散らばった。
それから悠久の時が流れ、この世に現象が実体を、霊が肉体を持つ事を許された頃。
四大元素は四大精霊へ、彼女たち二人も……。
姉のピリア。妹のネイコス。――という存在になった。
彼女たちは最初仲の良い姉妹で、四大精霊も彼女達をまるで自分達の娘の様に可愛がった。
しかし時が経ち、この世に人が溢れ始めた頃。ピリアはその性質上、段々と四大精霊の愛を独り占めするようになり、逆にネイコスからは愛が離れ始める。
ネイコスは悲しみ、徐々に彼女本来の憎しみの力に心を支配され、ある時、とうとうネイコスはピリアへと襲いかかった。
そしてピリアはネイコスから逃れ、ネイコスはそれを追う。
この世の朝と夜の様に、それはこの世に決して途切れぬ事のないある二つの節理が生まれた。
それは【愛】と【憎しみ】。故にこの世界は【平和】と【争い】が混濁する。
だがその二つがあったからこそ、人類は文明を発達させてこられたともいえた。
しかし四大精霊にとってはそんな事などどうでもよく、彼らはただ彼女たちの争いを止めたかった。
けれどそれは出来ず、いくら自分たちが割って入ろうと、ネイコスがそれを邪魔する。
だから四大精霊は考えた。
ピリアがもうこの世界で逃げ回らなくていいように、もう一つの世界を創ろうと。
四大精霊は力を合わせ、新しく創った世界にピリアは逃がし、この世界にネイコスを閉じ込めた。
それから数百年――元々この世界に住んでいた人外の類――妖怪、邪神、天使に悪魔。妖精に神獣、亜人の類は皆ピリアの愛に引き寄せられる様にしてこの世を去り、少しずつ歴史の彼方へと忘却され、人々から物語の中の存在だと認識される様になった。
だが現代――この世界に残されたネイコス……孤独に病んだ彼女は考える。
嘗てこの世界に居た者がピリアの愛に惹かれて行ってしまったのなら、今度は自分の憎の力で呼び戻せはしないかと。
そして彼女はこの世に不可視の負の力をばら撒いた。
結果――この世界には沢山の悪が生まれ、異世界からは嘗てこの世に住んでいたモノが侵略者として回帰し、その影響は銀河の外にまで及び、宇宙からも侵略者を連れて来る程に。
全てはネイコスが望んだこと。ネイコスはこの世で起きる争いを見て悦に浸る。
それこそが彼女の属性であり、己を慰める極上の供物。
この世は正しく彼女に創られた闘争を鑑賞する為の箱庭だった。
故に――この世界に本当の意味で平和が訪れる事は決してない。
一つの悪を滅ぼそうと、また次の悪が必ず生まれる。
しかし――【聖なる鎖】の誕生によって、ネイコスの望む闘争は減少していった。
理由は【聖なる鎖】の存在目的が被害を出さずして効率的かつ迅速に悪を抹殺する事であるが故【主人公】と【悪役】の争い自体が起こりづらくなったからだ。
しかしそんな事を彼女は望まない。
だからネイコスは【聖なる鎖】の誕生によって、この世から存在価値を奪われた【主人公】達に目をつけた。
あの純白の少女に存在感がなかったのも無理はない。
あれはネイコスが作り出した己の分身――触覚。
ネイコスは彼らの心の闇に付け込み、甘い言葉で誘惑した。
ネイコスは闘争を望み、【平和の鷹】はそれを生み出す火種の徒。
その為に起こしたのが、昼間行われた【自演劇】。
目的はこの世界における善と悪のパワーバランスの調整。
彼らはまず今の【聖なる鎖】の戦力図の崩壊を図った。
今日一日で【聖なる鎖】の優秀な【主人公】は数え切れないほど死に、次に強大な悪が顕現した時、それは相当な死闘となる。
そしてそれは明日――東京の街で起こる。
今度は自演劇ではない。本当に異世界から魔物の軍勢が押し寄せて来る。
ネイコスはその特性上何時何処で争いが起こるのか予知する事が出来た。
そして今の【聖なる鎖】にそれを防ぎきる力はなく、戦力差を埋める為【平和の鷹】に属する【主人公】に頼らざるを得ない。
そうしてこの世界に必要とされ続ける事で彼らは【永遠の主人公】となるのだ。
それがネイコスと【平和の鷹】――双方の益、混沌と言う名の平和の正体であった。




