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第10話:悲報、オ〇ホパッケージ似の女騎士

 ――と、そういう経緯を玲は暁に話した。


「……うん、所々わけわからなかったぞ」


 暁は玲の話す破天荒な内容に苦笑を禁じ得ない。ただ大体の経緯は理解できた。


「――っということで、まぁ謳歌ちゃんに報告といきますかな?」


 玲はそう言って掌を振り、まるで手品の様にスマートフォンを出現させる。

 そして謳歌ちゃんなる人物へと電話をかけ始めた。

 それは彼の話に登場した【ある情報筋】。数回のコール音の後、相手は電話に出る。


『はい』


 それは女性。透き通る大人びた声は相手の知的さを感じさせ、目の前の男とは大違いだと思わせる。


「ヘィッ! I(アイ) am(アム) GOD(ゴッド)


 玲はバカ丸出しにそう名乗る。


I(アイ) am(アム) strong!(ストロング)


 もう何言ってるのかわけわからない。


『そうですか。無事標的の討伐に成功した様ですね。やはり先輩はナンバーワンです』


 わかるの!?


 それから二人は第三者には何を話しているのかさえさっぱりわからない狂言で暗号めいた会話を数秒間続ける。そして――


「アディオス、バイチャリンコ」


 最後は『アディオス、BYE(バイ)BYE(バイ)』とでも言いたかったのか、玲は通話を終えようとした。だがその時――


「あッびゃ!」


 玲が突然何かを思い出した様に、今まで聞いた事もないような奇声を発した。

 んんっ!!?


「そうだ、謳歌ちゃん。…………驚くなよ?」


 玲はいつになく神妙な面持ちになる。

 なんだ?


「さっき大人のデパートに行ってきたんだけどさ。その時なんと二階に謳歌ちゃんとクリソツパッケージのオ◯ホが――っ」


『ぷっ』


通話を切られた。


「って、ぉお――ぃ!?」


 玲が今何を言おうとしたのか暁にも理解出来た。


「………………この変態……」


 一体何を考えているんだが。


「何でさぁ!? 謳歌ちゃんはせっかくの初登場シーンが電話なんだぞッ!」

「は?」


 また訳のわからない事を……。


「何だってぇ?」

「俺は彼女の頼れる先輩として、かわぁいい後輩に是非読者の人気者になってもらいたいわけだ! もしかしたらこの瞬間の俺の素敵脳内妄想が何時かイカした挿絵をここで顕現するかもしれないだろ? だから俺は彼女のあられもない姿を妄想して――」


何処からツッコめばいい? 頼れる先輩? 読者? まぁいい、とりあえず最後に言ってた―― 


「挿絵?」

「俺たちの活躍がいずれ書籍化――」

「はい意味わかんねぇ」

「――っ、いいかぁ! 作中いちはやく裸体を晒せるなんてヒロインの強みだ。それに俺の脳みそは展開関係なしにこういう事を合法的にやれちまえる。率先して使った方が作品的にも花が……」

「四六時中全裸晒してる様なキチガイが花とか何言ってやがるッッッ」


 このアホが……。

 玲は昔から重度の魔薬中毒者で、己をラノベの主人公と勘違いし、さらにはこの世界そのものが物語だとでも思っているのかと疑いたくなる様な発言をする。

 偶に薬の後遺症で居もしない誰かの視線を感じ、読者が俺を見てくれているんだと狂言を発する事もあった。


「いい加減薬の量減らせ……」


 そしてそんな会話をする二人には戦場特有の張り詰めた空気はもうない。

 既に戦いは終わっているというのもある。

 だが彼らにとっては近くに奇形獣が居ないという事より、周囲に一般人がいないという事の方が、この状況における大きな要因と言えた。

 一人の例外を除いて――

 その人物は直ぐ近くの物陰に隠れていた。

 それは神崎晴彦(かんざきはるひこ)――彼は自身が昔開発した【心拍調整装置】を使い、奇形獣の襲撃開始直後から極限まで存在感を薄くして物影に隠れていた。

 その存在を玲と暁は気付いていない。

 周囲には沢山の人間や奇形獣の死体が転がっている。

 全ては目の前に居る【主人公(ヒーロー)】たちによって鎮圧されたもの。

しかし晴彦はここから動くことが出来なかった。何故なら――


「何やってんだよ、あいつら…………」


 晴彦は全てを見てしまったから。

 碑賀暁(ひがあかつき)が【聖なる鎖(ホーリーチェイン)】の【主人公(ヒーロー)】二人を殺害するところを。

 そして黒須玲が【主人公(ヒーロー)】を殺した時の話しをしているところを。また――


「連絡といえば暁ィ、さっきネイちゃんとも連絡を取ってな。次の事件は明日の朝――今度は渋谷で起こるらしいぜ? こりゃぁ――楽しくなりそうだ。は、は、はッ!」


 その会話を聞いて……。

 まさか……。

 晴彦の脳裏にある可能性が過ぎる。

 それは今回の事件が彼らにより仕組まれた物でないのかということを。しかしそれは――

 嘘だ。だってあの人は……。

 晴彦はある理由からその事実を受け入れる事が出来なかった。

 その動揺に晴彦はたたらを踏み、拍子に足元に転がっていた死体を踏んで転倒してしまう。

 その音で折角の【心拍調整装置】は効果を失ってしまった。


「誰だ!?」


その言葉に晴彦は答えない。彼は直ぐに立ち上がり走り出す。しかし――


「待てよ」


 瞬間移動した暁に晴彦の退路は断たれてしまう。

 暁の速さを前に常人の走力などまるで意味がない。


「お前、面白い物持ってるな?」


 暁が晴彦の手首から【心拍調整装置】を引き剥がす。暁はそれを物珍しげに顔の前に晒した。

 その間、晴彦は暁に尋ねずにはいられない。


「どうして、何であんたらがこんなことを……。これは一体何なんだ!?」


 それに暁は嘲る様に思考。


「一体何を……か。そうだなぁ、例えるならこれは――」


 暁はこの状況をこう称した――


自演劇(ヒーローショー)だよ」


 瞬間――暁の抜いた拳銃が火を噴き、晴彦の胸を貫く。

 晴彦は最初自分の身に起きた事が何だったのか理解できなかった。

 晴彦は暁に手を伸ばし、己に起きた事を尋ねるかの様に口を開き……。

 その言葉は永遠に失われた。

 晴彦の視界は暗闇に閉ざされ、体が地に落ちる。

 そして――彼は動かなくなった。


 神崎晴彦(かんざきはるひこ)――彼はその昔悪の組織に誘拐され、そこで兵器の研究をさせられていた。

 そして、数年後――ある【主人公(ヒーロー)】によって救出された過去を持ち、今の生活を送っている。

 だが今日――彼はかつて己を救ってくれた【主人公(ヒーロー)】の手によって、その生涯を、断たれた……。


 そんな【主人公(ヒーロー)】の狂行。

 いったい、彼らはどうしてしまったのか。

 この日――世界中で、【主人公(ヒーロー)】という存在に歪みが生まれ始める。

 そしてそれらには皆ある共通点が存在した。


 それは彼らの背負いし過去と――

 一人の少女との出会いが関係していた。

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