殺人列車
「殺人列車へようこそ。普通、準急、急行、特急。どれになさいますか? ちなみに、次発の急行はやめておいた方がいいですよ。ここだけの話、死刑執行人のあの運転士、腕が悪いのです。一週間前、あの運転士が運転する電車に飛び込んだのですが、いち早く気付きブレーキをかけてしまったのです。そして自殺志願者は残念なことに願いは叶わず、ただ線路に落ちただけになってしまったのです。あっ、これは失礼。私、案内人を務めております馬場と申します。それで、どれになさいますか? 数は少ないですが、快速急行というのもございますよ。……どれでもいいと言われましても、こちらとしては決めていただかないと。規則ですので。ええ、確実なのは特急でございます。それはもう一瞬で、痛みもなく逝けます。ただ、遺体の損傷が激しいので私はあまり好きではありません。おすすめですか? 私の? そうですね……準急辺りがいいと思います。死ぬことができて、傷も少なく済みますから。普通だと生き残ってしまう可能性が高いのです。そう、ちょうど昨日のお客様がそうなってしまって……。私はやめた方がいいと止めたのです。十分後に準急が来るのでそれまで待ちましょうと。けれど、余程死にたかったのか普通に飛び込んでしまわれたのです。えっ? その人はどうなったかって? 病院です。意識はまだ戻っていませんが明後日には戻ります。彼女にとっては最悪の目覚めとなってしまうことでしょう。あなたもそうならないようにお気を付けください。えっ? どうして意識が戻るとわかるのか? それは私が神様だからですよ。ほら、神様は全知全能だと教わりませんでしたか? 神様っぽくない? 失礼な! これはあなたが来ているような安物のリクルートスーツではなく、トムフォードの高級スーツですよ。えっ? そこじゃない。髭をはやしていたり、杖とか持っていたりしないんですかって……。古い。髪も髭もあんなぼさぼさではなくジェルで固め、綺麗に剃るのがトレンドなのです。ああ、死に行くあなたにそんなことはどうでもよかったですね。それで、どうなさいますか? あと二分で、あなたがいつも通勤に使っている快速急行が来ますよ。快速急行で死んだお客様は、記憶しているだけでも六人しかいません。とても名誉なことですよ。いかがです?
ご決断いただき誠にありがとうございます。いやー、よかった。実はごく稀にいるのですよ、ここまで来て死ぬのをやめる人が。そういった意気地なしは私が突き落とす……。失礼。そうだ、言うまでもないとは思いますが一応。飛び込む場所は、電車が入ってくるホームの一番端ですよ。反対側や真ん中だとスピードが落ちてしまっていて、死ぬことができませんから。そうこうしている間に電車が来ましたよ。それでは……。あっ、ネクタイが曲がっています。死ぬのなら美しく死にましょう」
ホームにアナウンスが流れ、次に聞こえてきたのは衝突音と悲鳴。
「綺麗な飛び込みでした。では次の方どうそ。おすすめは準急ですよ。なぜなら――」