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夢の終わり、あるいは始まりに至る門(上)

「撃てー! 今だ、ひたすら撃ち続けろ! あのあたり一帯を焼け野原に変えてしまって構わん!」


 ……誰だ、遠距離組の司令官は。今だ! って教皇今出てきたばっかりなのに。それとなんか「あのあたり」に僕も含まれてる気がする……。とりあえずダッシュでその場を離脱した。教皇のいたあたりに雨あられと攻撃魔法が降りそそぎ、もうもうと土煙が上がる。



「や、やったか!?」


 後ろで魔王軍の人が上げたらしいそんな歓声が聞こえるけど、お願いフラグ立てないで。「くだらん技だな…ただホコリをまきあげるだけか」とか言いながら絶対平気な顔で出てきちゃうから。そしてどうやら僕以外にもそう思った人はいたようで、さらに次から次へと攻撃魔法が飛んできた。氷の塊、燃え盛る炎、光り輝く球体、ドドメ色のぬめぬめした液体。一番最後のやつがウルタルの放ったものだということだけはなんとなくわかった。


「……あっつ!」


 ……おおう。離れてても、余波がめっちゃこっちくる。でも今気づいたけど、全員で囲んでボコるって、あんまり効率的でないのでは……。一斉攻撃したら近距離組を巻き込んじゃうでしょ。だいたい魔法って前もあんまり効かなかったんだから、これってチャンスな時に集中攻撃するくらいでいいと思うんだけど。今攻撃したところで……。






「この魔物は、いったいどこから連れてきたのですか?」


 不意に、煙の中からぬっと無傷の教皇が顔を出して僕に尋ねてきた。……ほら! 出よった! この、犬の散歩中に話しかけてくる近所の人みたいなリアクションしよって。……しかし教皇はどうやら僕が召喚した魔物に興味津々のようだ。よし、ここは話をして注意を逸らしてくれる。


「あの、これはですねー!」


 しかし、その間にもドカンドカンと次から次に教皇に魔法が着弾するので、声を張っても全然届いてる気がしなかった。教皇もそれは同じだったようで、少し顔をしかめると何やら杖のようなものを取り出した。……そしてそれを、軽く、振る。


 すると、教皇を中心に、ぶわっと台風のような風が巻き起こった。渦となった大気がまるで見えるような強風がその場に轟音とともに吹き荒れ、…………炎も、煙も、氷も、雷も。全てが散らされて、その場には一瞬で静寂が訪れる。そして風が止み、教皇がトン、と杖で地面を突く音だけが静かに響いた。





「お待たせしました。申し訳ありません。では、続きをどうぞ。この魔物は……?」


「えーっと。この魔物は魔法都市の西の平原に出現する、鎧の魔物で……」


「おや? ここで? 見たことがありませんが……」


「結構よく出ると思いますけどね。何ならしばらく観察しててもいいですよ。また新しいのも出しますし」


「ほう! そうですかそうですか! 助かりますよ」




 そうやって話してると、急にがっしりと襟首を掴まれ、僕はずるずると後ろに引っ張られた。そのままの状態で後ろを振り向くと、トアが「怒ってる」と「呆れてる」とその他を足して3で割ったみたいな表情で、僕をぐいぐい引きずっていた。


「なにを敵とにこやかに談笑してるんですか。丸腰で!」


「いや、時間稼ぎになるかなって……」


「もう……!」


 しかし、教皇は僕が召喚した鎧の魔物に顔を寄せて「ほう……」とか言い出した。ほらほら、いったん注意を逸らすことには成功したぞ。……だからトアさんちょっと手、緩めて……苦しい……。




「まさかこんなに早く教皇が現れるなんて……。いえ、言っても仕方ありません。近距離組で一斉にかかりましょう」


 ……しかしまずいことに気がついてしまった。召喚って、そろそろ半日丸々戦い続けたウサギたちが召喚される順番だと思うんだけど……これって普通に戦ってたら最後に間に合わない気がする。もう接近戦中にどんどん召喚していくしかないか。いちおう仲間に注意喚起だけしておこう。


「あの、私からウサギが次々に射出されても気にしないでください。たまにそういう日があるんです」


「……ど、どういう意味……? 何かの比喩?」


「いえ、そのままです。ちなみにシャテさんは会った時から私のことをそういう生き物だと思ってますよ」


 あれって誤解だったけどね。まさか現実のものとなってしまうとは。







「……作戦会議は終わりましたかね?」


「ええ。お待たせしました」


 それを聞いて、教皇は手に聖剣を呼び寄せた。いちおうちゃんと待ってくれてたらしい。……さて。


 すると、僕が大剣を構えた瞬間に、さっそくベッテさんの蹴りが教皇の顔面に文字通りめり込んだ。はやっ……ていうかうわぁ……。あんなめり込み方、ギャグマンガでしか見たことない。あれもう脳が揺れるっていうか頭蓋骨陥没してるやろ。


 ……ところが、そのまま派手に後ろにぶっ飛んだ教皇は、何事もなかったかのようにゆらりと立ち上がる。その顔には何の傷もなかった。「前が見えねェ」とか言ってもよさそうなのに。


「な……お姉ちゃんの蹴りはオリハルコンの盾にも穴を開けるのに……!」


 ゼカさんがそう驚いている声が聞こえる。でも、そんなので思いっきり顔蹴ったんだ? という感想が一瞬僕の胸をよぎった。……いやでも戦闘時だな。そりゃ蹴るよね。


 続いてトアが斬りつける。やはりなぜか傷はつかなかったものの、教皇はかすかに目を細めた。斬っても駄目、蹴っても駄目。……どういう原理なんだろう? 何も効かないの……? いや、まずはやってみよう。斬ればわかる。


 僕は手の中の大剣をぎゅっと握りなおした。その一瞬、瞬く間に僕の目の前に移動した教皇が聖剣を振りかぶるのが、視界いっぱいに広がる。……くっ……!






 聖剣が風を切る、フォン、という音の後に、ギィン! という金属音があたりに響いた。教皇の聖剣と僕の大剣がぶつかり、そのままギリギリと押し合う。……お、重い……。


 一方、教皇はその状態でも余裕があるのか、静かに微笑んだ。


「おや、この剣は……! 先日は持っておられなかったですが……とてもいい剣へぶっ!」


 その顔面に、僕が射出したウサギが激突した。教皇の額に頭突きを決めたウサギはそのままぴょんぴょんと跳ねて草むらに消えていく。……あ、教皇のおでこ赤くなってる。やったぜ初ダメージだ。ふはは、痛かろう。僕もその痛みはよく知ってるぞ。


 ただ、どうやらそれは教皇にとってもショックだったようで、信じられないことが起こったような表情で自分の手を見つめ、独り言のように呟いた。


「痛い……? 馬鹿な……私にダメージがあるはずが……?」


 あれ? もしかしてこの教皇って、ウサギが弱点だったりする……?


「……炎の魔法を集中して撃ってください! 途切れさせないで!」


 トアがそう叫んだ後に、再び僕の襟首をがっしりと掴んで後ろに勢いよく飛び退った。もうこうやって運ばれるもんだと観念した僕は、猫みたいにぷらんと吊るされたままそれに従う。









「集合、集合です。わかりました」


 トア副隊長の命によって、僕ら近距離組はささっと集合した。何かわかったらしい。さらに、ベッテさんも無表情なままでぼそりと言う。


「あたしも蹴ってわかった。あれは障壁だね」


「障壁?」


 疑問符を頭の上にたくさん浮かべて皆の顔を順番に見るゼカさんを見て、僕は安心する。あ、よかった。僕以外にもわかってない人いるわ。


「ええ、炎の魔法に対する障壁、氷の魔法に対する障壁……あらゆる種類の攻撃に対する障壁をそれぞれ何十枚も重ねているんです。だから攻撃が通らないのかと。複数契約による大量の魔力がなせる業ですね」


「へえー……。じゃあまず、その障壁をどうにかしないといけないわけですか?」


「……対策としては3つです」


 3つもあるの? 相変わらず思いつくの早い。





「1つ目、私の剣、 支配者の器(ルーラーシップ)で障壁そのものを切り裂く」


「そんなことできるんだ!?」


「ただ、何重にも障壁が重なっているので、なかなか突破できないと思います。さっきまずは炎魔法に対する障壁を4つ斬りましたが、何十枚もあるうちの4つを斬れただけですから、どこまで効果があるか……」


「なるほどね。2つ目は?」


「障壁を上回る攻撃を当てればいいんです」


 お、おう。せやな。わかりやすい。ただ……。トアもその選択肢の弱点は理解しているのか、目を閉じて首を振った。


「ただ、難しいでしょうね。いくつにも重ねられた障壁は突破できない強固さですから」


「じゃあ、3つ目は……?」


 僕が首を傾げて尋ねると、トアはニッコリ笑って、僕に手を差し伸べてきた。よくわからないまま僕はその手を握る。ふわりと柔らかい感触が、ぎゅっと僕の手を握り返した。


「さっきのを見て気づきました。あなた、ですよ。つまりは……彼の知らない、この世のどこにもいない魔物による攻撃、です」





「じゃあ、トアとサロナが攻撃するのをあたしたちがサポートするって形になるのかな」


 えーっと、ということは僕は後ろで筆を振る? ……ウサギじゃ遠いと当たらないか。となるとさっきみたいに、前列で聖剣を受け止めつつ、至近距離から召喚してぶち当てる、そんな戦法になるな……。まあそっちの方がいいや。分かりやすくて。


「すみません……あなたも最前線にいさせることになりますが……」


「いえ、いいんです。だってトアもいるんですよね。なら私もむしろ最前線の方がいいです」


 1人にだけに最前線任せるのもちょっとアレだし。しかも女子に。ならば僕もお供しようじゃないか。自分1人に任せておけ、と言える強さじゃないのが辛いところだけど。


 僕の言葉を聞いて、トアは目を丸くした後になぜかいそいそとフードを深く被った。……あ、その装備久しぶりに見た。背筋がちょっと伸びてしまう。僕が直立不動で立っていると、ぽつりとフードの中から小さな言葉が聞こえた。


「……馬鹿」




「おーい、お2人さん。あたしもいるんだよ。忘れないでよね」


「……来たよ!」




 ベッテさんの掛け声とともに、ばっと僕らは散開する。……ベッテさんとゼカさんは後ろへ、トアと僕は前へ。……ここが終われば、きっと、夢は終わる。そして夢が終われば、ここから僕の知っている話に繋がっていくんだろう。そのためには、越えなければならない壁がある。それを、越えるために。

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― 新着の感想 ―
[一言] 二人とも早く結婚しよ?
[一言] まさかウサギが活躍するとは
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