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皆の前で言っちゃえば、それはやらないといけないこととなる

 正直ちょっと悪い気もしたので、間に入り僕は説得を試みてみる。別に今回のはあんまりこの人のせいじゃないしなあ。背後にロランドをおいて、まあまあ、と手を広げて説明してみた。こっちが小さいので全然隠せてないけど。


「私、特にこの人に何かされた訳じゃないですよ。何かされてたら今日来ませんし」


「そうなんですか!? ……そういえば……そもそもどうして御使いはこの屋敷に出入りされているんですか?」


 家臣からこちらに的確に流れ弾のような質問が飛んできた。巻き込み事故に遭った気分。……どうしてか? 特にすぐやることがなかったから。それ以外にない。


 ……ただ、それを答えたらなんだか怒られそうな気がした。そもそもなんでやることないねん、ってなっちゃうよね、たぶん。


 使命とやらを小さな声でしか言わなかった女神っぽい存在が悪いと大声で主張したいけど、今の立場でそれをすると最悪殺されそうな気がした。やめておこう。例えるなら、雇い主のいたらなさを家臣が面と向かって責め立ててしまうようなもの。重罪である。……あれ? まあいいか。






「……まさかとは思いますが、ロランド様が使命に何か関係があるのですか?」


 ……それだ!ここの家臣たちはなかなかいいこと言うね。僕は神妙な顔をして告げた。


「多くは語れませんが、そうなのです」


 多くはまだ僕の中で設定が固まっていないとも言う。


「排除しておかないと後に災厄をもたらすということでしょうね……」


「いえ、そういうわけじゃないんですが……ただ、ちょっと傍で見とかないといけない事情があるだけで」


 味方であるはずの家臣からなぜプラスの方向への発想が出てこないのかはともかく、僕がここに来ている理由は勝手に納得してくれたっぽい。この人そんなに大物じゃないと思うけど。災厄て。

 

 僕はこれからどう話を進めようかと考え込む。


 ……確かにずっとここにいてもねえ。僕の個人的な目的が叶えられそうにないので、できれば街を出たい。……しかし、ある程度面倒見ると約束した手前、このまま放置して僕だけいなくなるのも……。でも、一応、周りの心境と個人的に変えたらいいんじゃない? って思う部分は伝えたから、もういいような気もする。連れて行ったらどうよって意見もあると思うけど、この人、外で生きていけなさそうだし。それに僕はこの人の保護者じゃないし。そこまでしてあげる義理も……。







 そんなことを考えていると、後ろから不思議な発言が聞こえてきた。


「俺は、この家を出る」


「おお……」


 ざわざわ、と家臣達がどよめいた。僕もそのフライング気味の発言に内心ちょっと動揺するが、気持ちを落ち着かせる。


 ……なるほど。きっと今から人望を取り戻すより、外で一からの方が簡単という判断かな。頑張っていただきたい。遠くから応援しています。僕は心の中で、思ったより早く来た貴族の息子との別れを悼み、敬礼をする。


「……では、御使いも一緒に着いていかれるのですね。見張る、ということでしたので」


「ファッ!?」


 いえ、そろそろ別れたいんです。そう言える雰囲気じゃなかった。







「どうするんだ、出ていくってつい言ってしまったぞ」


「私も見張るってつい言っちゃいましたが、どうしましょう」


「どこか行きたいところはないのか」


「というか当ては? いきなり家を出ても野垂れ死にがいいところですよ。まさかないとか言わないですよね。ねっ」


「一応ある。俺は魔法が使えるから、遠いが魔法都市に行こうと思う。あそこで修行するもよし、魔法関係の仕事も多くあるからな。一応家の名前も通じはするはずだ」










 ――ガラガラと揺られる馬車の中で、僕は窓の外を眺めながら、考え事をする。神殿で言われたこと。


「あなたには、魔法の才能がありません。少なくとも、私たちの知る種類の魔法は使えないようです」


 ……あれ? 御使いって魔法使い放題じゃなかったの?


「御使いは、生前得意としていた魔法を、その威力が増加した状態で使えると聞いていますが……召される前のあなたに魔法の才があったかどうか、覚えていますか?」


 ……日本で生活していた時に、魔法を使えた覚えは、ない。そりゃそうだ。感情が何となくわかるっていう時はあったけど。その結果が現状、かあ……うーん。何も持っていないよりはいいけどさ。とりあえずは。






 目の前をゆっくりと過ぎていく景色を見ながら、ふう、と僕はため息をつく。……まあでも、使えないならしゃーないよね。おそらく元の世界に戻るためには魔法でなんとかして戻るっていうのが手かな、と思ってたから、僕自身にそういう才能があった方が楽ではあったけど。……でも、自分で使えないなら。……使える人に手伝ってもらえばいいだけだ。おいしいご飯を食べるのに、田んぼを自分で持っている必要は必ずしもない。お米を売ってる店に買いに行けばいいだけ。うむ。



 ……そして、きっと魔法都市には、そういう人がいる可能性は他より高いはず。……いなかったら、別の手段を考えると。


 ……というか、ゲーム内で知り合ったNPCってこっちにもいたりする? 魔法都市に一人友達がいるから、尋ねてみるのもありだよね。これからどうすればいいか、占ってもらえたら。








「いやはや、魔法都市に行くのは15年ぶりですな」


「執事のお爺さんは行ったことあるんですね。どんなところでした?」


「ほっほ、ギャリソンとお呼びください」


 そして、これがほいほいと僕が脱出できない理由だった。お目付け役がいる。さすがに次期領主が家を出ると言い出してはいさよなら、とはいかなかった。「今のままだと至らないので修行の旅に出る」と、この執事さんが解釈して周りを説得してしまったから。


 ……なんていうか、ロランドが出ていくって言っちゃったのは僕が現状をストレートに伝えちゃったからで、路頭に迷われるのもさすがに寝覚めが悪いし。この執事さんが一緒に転落人生を歩むのはちょっと見てられなかった。普通にやればできる子だと信じておられる。まぶしい。


 次期領主の幼少の思い出をいろいろ話してくれる執事のギャリソンさんと、明らかにその話題をやめてほしそうなロランド、考え事をしながらの僕、というあんまり噛み合ってない組み合わせで、僕らは向かった。……魔法都市へ。

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