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今更ながら、自分探しをしてみよう

「では、まずは私の手がかりを探しますか」


「それだけ聞くと危ない発言にしか聞こえませんが……まあ、事情は分かりました。まだ理解できていない部分はありますけれど。どうして他の世界から来たあなたの中にこの世界の人間の人格がいるのか、とか」


 ……うーん、それって話すと長くなるよね。今はちょっと時間がないかなぁ。まあ簡単に言うと……?


「最終的に心中したから、でしょうか」


「……わたしの知ってる心中とあなたの言ってる心中って、さっきから意味一緒ですかね?」





 さてそれでは、聞き込みに出かけよう。屋敷の人々に聞いたらすぐにわかるんじゃないかな。だってアルテアさんとサロナって一緒に暮らしてたっぽいしさ。そういやウルタルもずっと前にそんなこと言ってた気がする。


 僕はさっそく部屋を出て、だれか人がいないかを探した。しかし部屋を出てあたりを見回してみたものの、綺麗に磨き上げられた廊下といくつか並んだドア以外、そこには何も見当たらず。屋敷内は見事にしーんと静まり返っていて、耳を澄ませてみても何の音も聞こえない。古びているけど手入れのされているらしき屋敷の中は、どこか木の匂いがした。


 んー……。ドアを片っ端から開けて回るのはさすがにちょっとアウトな気がする。僕がここでどんな扱いなのかまだわからないけど。でもきっと、ドラクエの勇者みたいに住居侵入を無制限に免罪されているわけではないだろう。無理やり開けても笑顔で対応されはしない気がした。


「とりあえず、玄関まで行ってみましょうか。途中で誰かに会うでしょう」






 そして、広い廊下を抜け、なんだか高そうな絨毯が敷かれた吹き抜けのホールを通り、誰にも会わないまま僕らは外に出てしまう。なんと、プランAはあっさり失敗してしまったか。なら次だ。


「……屋敷の庭とかその辺を回ってみたら、庭師的な人がいるんじゃないですかね?」





 ところが、そちらにも誰もいなかった。葉っぱ1つ落ちていない広い庭には、綺麗に刈り込まれた庭木が規則正しく並び、風にそよそよと揺れている。日の光に照らされて、緑がまぶしい。でも誰もいない。そして庭の端に、小さな池があるのが見えた。……あ、ひょっとしてあそこにえびいかミックス(仮)いないかな。ちょっと気になってそわそわしてしまう。


「あの池にも誰かいる可能性がありますね」


「明らかに誰もいませんが……」


「いやいや甘いですね、水中に潜んで筒で呼吸している人がいるかもですよ」


「百歩譲っていたとしても、わざわざそんな人間に話を聞こうとしなくてもいいんじゃありません?」


 なぜか乗り気でないトアをぐいぐい引っ張って、僕は池のそばまでやってきた。そっと中を覗き込んでみる。……おおー。なんか魚がいる。メダカっぽいやつ。……そういや異世界の生態系ってどうなってるんだろう。やっぱりここも地球的な惑星なんだろうか。でも月はやたらでかいし……うーん、謎だ。僕は理科は苦手だったからあんまりよくわからないけど。理科室のプレパラートはなぜあんなに割れやすいのか。


「池の中をそんなに一生懸命見つめても、人は出てきませんよ」


 ……いかん。つい最初の目的を忘れてしまってた。


「そうですね、斧を落としたわけじゃないですもんね」


「……なんで斧なんですか?」


 あ、さすがに通じなかったか。でもよく考えたらあれで出てくるのって人じゃなくて女神だっけ。戦争不可避。






 僕はトアに促されて、異世界の生態系と天文系に対する考察を残念ながら打ち切り、立ち上がる。


「これだけ探したのに、どこにも誰もいません……」


「あ、今の池も探したことになってるんですね。……もう、わたしがやります」


 彼女は呆れ顔で腰に手を当て、庭を見渡した。その視線がふと一点で止まる。僕も彼女の視線を追ってみると、庭の一画に階段があり、それはどこかへ続いていた。


「あ、あそこは確かに怪しいですね。……あ、わかっちゃったかもしれません。階段を上った先に、屋敷の使用人全てがひそかに集まって宗教的儀式でもしているのでは」


「その方が怪しいです。黒ミサじゃないんですから。……ただ、あの奥に何かはありそうですね」





 僕らは並んで階段を上る。すると、そこは小さな広場になっていた。花畑があり、真ん中に石碑のようなものがある。石碑の前には、今日置いたと思われる花が飾られていた。……遺跡かな? 祟りがあるから移転できなかったやつみたいな。きっと異世界の平将門みたいなのがあそこには祀られているのだろう。


 石碑には、謎の文字が刻まれていた。……いや、だから異世界語はわからないんだって……。この翻訳魔法、読み書きには未対応だからなぁ……。


「…………いったい、何が起きてるの……?」


 その僕の横で、石碑をトアは真剣な目で見つめた。なんか不可解なことを見る目だ。……なに、そんな一瞬「ん?」って思うようなこと書いてあるの? 『ごはんですよはごはんじゃないですよ』とか? 僕はくいくいトアの服を引っ張って、通訳を希望した。こらこら、君が僕を置いて行かないで。




 トアは僕の方を見て、あれこれ考えた後、ズバッと端的にわかったことを教えてくれた。


「これは、あなた、つまりサロナの墓です」


「ファッ!?」


 ……墓。お墓。死んだときに入るあれ。僕は死んではいるけども、異世界に作られる覚えはない。……ということは、まさか。この世界のサロナは、既に死んでいる……? いやそうするとアルテアさんの反応がおかしいか。死者が帰ってきたことを無条件で喜べるような価値観の持ち主ではなかったような気が。やはり、ここは誰かに話を聞く必要がありそうだ。







 僕らが階段を降り、庭に戻ってくると、ちょうどメイドっぽい女の子が花壇に水をやっているのが目に入った。……おお! 第一村人発見では!? さっそく聞き取り調査を開始すべく、僕はその子に駆け寄った。ところが途中で段差に足を引っかけて転んでしまう。ずざざ、と地面に顔の前面を擦りながら、その子の足元で僕は止まった。


「だだだだだ、大丈夫ですか!? ……あ、でもひょっとしてその転び方……あなた、サロナ?」


 その問いかけに僕はがばっと顔を上げる。と、ちょっとスカートの中が見えそうだったのでちょっと後ずさって立ち上がった。……ふう、危ないところだった。どこぞの野球チームではないけど、常に紳士たることが大切である。だって今の友達、なんか女子ばっかりだしね。より気を付けねば。……たまに男同士でわーっとやりたい気持ちもないわけではないけど、あんまりそんな相手もいないしねえ……。


「……ねえ! ねえ、聞いてる?」


「あ、はい、そうです。すみません、つい、自身の交友関係について思いを馳せてしまいました」


「やっぱり! その顔面から躊躇なく行く転び方見て、ひょっとしたらと思ったんだけど」


 その判別方法はどうなんだろう。僕はそう思ったけど、自分が今盛大にすっころんだ以上、ちょっと何も言えなかった。






「で、どうしたの、ふらふらしちゃってさ。せっかく帰ってきたのに」


「その、帰ってきた、っていうのがよく……あ、さっき私のお墓参りをしてきました。あれ、なんですか?」


「ああ。……あれはね、あなたが前に死んだときに作ったものよ。もう片付けなきゃね」


「その、前死んだとき、っていうのがよくわからないんですけど……」


「うーん、順番に話すとね。あ、座って?」


 そして僕らは縁側的なところに座り、メイドさんの話を聞くことになった。




「あなたとアルテア様って、いっつも仲良かったのよ。アルテア様の後をあなたが一生懸命追いかけて行って、いっつも転ぶんだけど、それをあの方はいつも仕方なく待ってくれる、みたいな。一言で言うと、そんな関係。お互いがお互いを好きなんだな、ってことが周りから見てもよく分かったよ。あなたはわかりやすいし、あの方もね、感情が外に出やすい方だから」


 ……せやな。僕がちょっと報告に失敗したら椅子の肘掛けぶん殴って壊したりしてたしね。


「それで、ある日、あなたが行方不明になってね。私達は、ああいつものことだ、みたいな感じで流してたんだけど、あまりに遅いから。探しに行ったら、崖の下で頭から血を流して倒れてるのが見つかって、そのまま亡くなったんだって。たぶん、ちょうちょを追いかけてて崖に気づかなかったんじゃないかな、って私達召使いの間では話してた」


 僕もさすがにその状況だと崖には気づくと思う。さすがにオリジナルは違うといったところか。……しかし、知り合いが亡くなった話なのに、なんか軽くない? 今日の夕飯で嫌いなものが出てきた、ってレベルの口調である。それがなんでかは怖くて僕もさすがに聞けない。




「それで、どうしてそんなに周りは悲しまなかったんですか? 実は嫌われていた、とか?」


 ……トアさん直球勝負やめて! 本当にそうだったらどうすんねん。責任取ってよ。僕の心の中の相方が泣いちゃうから。それはもう、人目をはばからずに泣くぞ。


 僕がハラハラしながらメイドの子を見つめると、彼女は笑って首を振った。


「ううん、だって、生まれ変わってもきっと記憶を持ったまま戻ってくるだろうって。私達もあの方も普通に思ってたから。だからむしろ、遅かったなぁ、くらい。もう3年くらいだっけ? あの事故から」


「……記憶を持ったまま……?」


 そういや女神が言ってた気がする。生まれ変わる際記憶を消すのに失敗するのは、変な奴か、強い未練が残った人間だって。それを超えられるくらいに、サロナには未練があるだろうという共通認識があったわけか。……いや、どんだけアルテアさんのこと好きやねん。何度死んでも再び蘇って戻って来るだろうとか。ゲームの勇者かな? 君、いちおう魔王軍の幹部やろ。




 ……と、そこで僕はあることに気づいて、固まってしまった。もう3年も経つ、とこの子は言っている。それなのに、サロナは戻っては来ていない。……それってつまり、そのみんなの認識とは違って、戻ってこれなかったってことじゃ……? いや待て、まだ生まれ変わってない可能性もあるよね。


「ちなみに死んでから生まれ変わるって、どれくらい時間が空くものなんですか?」


「1週間くらいが相場らしいよ」


 ……それもう3年って絶望的やん。というかそもそも、生まれ変わったなら0歳から始まることになるんだけど、今この人には僕が生まれたてに見えてるんだろうか。いや、実際そうなんだけど。


「あの、唐突に聞いちゃうんですけど。私、今いくつに見えますか」


 ほんとに唐突に何言ってんだこいつ、という目で隣のトアが僕を見てきたけど、一瞬あとに「ああなるほど」みたいな感じで頷いた。なんで15歳くらいの僕の外見で、生まれ変わってきた、みたいな話になるのかという疑問に彼女も気づいたらしい。


 ところが、メイドの子は自信満々に僕の顔を覗き込んで、朗らかに答えた。


「0歳でしょ!」


「おお、正解です。よくわかりましたね!」


「ちょっとコツがあるんだけど、魔力の流れを見ればわかるよ。これはね、アルテア様に教えてもらったの」


 ……そのとき。ガタガタッ、と何か物音が僕の隣から聞こえた。……どうした副会長。さては居眠りしてたな? いかんぞ、もうちょっと班員のルーツに興味を持ちなさい。


 僕がそう言って指導しようと彼女の方を振り向いたところ、トアはなぜか愕然とした表情で僕の方を見つめていた。……なに? 


「ちょっと待って……0歳なの……? わたしと20歳違い……!? 嘘……!?」


「ええまあ。あ、でも前世の年齢を入れたら違いますけど。精神年齢はそっちですね」


「……あ、そうか。そうだね。そうですよね。ああびっくりした……。もう、驚かせないでくださいよ」


「むしろ今何にびっくりしたんですか……?」


 そう言って大きく溜息をついたトアは、なぜか胸をなでおろしているようだった。……謎だ。まあいいけど。たぶん女子だから年齢にも敏感なんだろう。……しかしまずいぞ。このメイドの子の話で、すごくまずいことが発覚してしまった。アルテアさんは、きっとオリジナルのサロナが戻ってきたと思ってる。なんで姿が違うのに瞬時にサロナだと判別できたのかはわからないけど。……あ、でも姿が違っても判別されたことって、今までもあったっけ。他の相手にだけど。意外にできるもんなのかもしれん。


 ……でも、瞬間的に判別できるくらい大事に思ってる、ようやく帰ってきた相手が実は本物じゃなかった、とか……。こんなん発狂ものやろ。……でも1つわかった。これは、絶対にバレてはいけない。自分の中の相方にはさすがに負けるけど、僕もあの上司は敬愛していたし、幸せになってほしかった。なら、せめて、いい形で別れるべきだ。……戻ってこなかったという真実を、悟らせないままで。




 ……それは、きっと僕にしかできないことだ。ひょっとしたら、初めてこの世界に来た意味を、僕は見つけたかもしれない。そう、思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何話か前位までは覚えてた( ˘ω˘ )
[一言] この世界ゲームと繋がってたりするんだろうか?
[一言] たぶんサロナは本物のサロナな気がする
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