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恥ずかしいって気持ちは人を成長させるなんて、一体誰が言ったのか

 とりあえずロランドのその頭のおかしい質問には答えず、そのまま無視する。


「この後の予定は?」


「おい、さっきの質問……」


「……予定は?」


 僕が見上げながら、ぎろりと睨みつけたらロランドはしばらくして目を逸らした。ヘタレなのにとんでもないド変態である。まあ貴族と言えば変態揃いというのが僕の中の偏見なので、あまり予想外な結果ではなかった。


 ……ちなみに質問の答えとしては。この世界に来てからトイレに行ったことない、行きたくならないし。精神衛生上よろしくないので、そういう機会がないのはほんと良かった。御使いはトイレ行かない。設計担当、有能。……食べたものはどうなるんだろう、とふと疑問が湧く。でもきっと、謎経路を通って世の中の幸せとかにひっそりと変わってるんじゃないかな。神の使いらしいし。


 ……ただ、この体、問題点もあるんだよね。見た感じ構造的には完全に人っぽくて、うん、全部揃ってる。ぼやかした言い方をすると下まで完全に再現しておられる。……御使いって女神の使いらしいけどさ。どういう設計して、何を想定してんだ。設計担当、無能。


 そこまで思い出して、僕はさらに考え事に沈みながら、座ったままの足をぷらぷらさせてそれを眺める。体、体、ねぇ。そんなに気になるかなぁ。……僕も男として今の自分の体に興味がない訳じゃないけどさ、うん。






 ――はい、正直に言います。夜に寝る前とかいろいろちょっと触ってみたりはしました。つい、好奇心を抑えきれず。ここに懺悔します。……くすぐったくてすぐやめたけど。……なんかこのままだと僕も変態であると勘違いされそうだけど、違うよ。全然違うよ。変態という名の紳士だよ。








 ……僕は誰にもバレないはずのことを思い出して、自分の顔が赤くなるのを感じて下を向いた。ほっぺた超熱い。もうしないので許してほしい。



 ……そんな僕を見て、何故かキョドっているロランド。違うよ、君の質問に恥ずかしくなったわけじゃないんだ。いや、君の質問は恥ずかしいという意味では何一つ間違っちゃいないんだけど。むしろお前の存在自体を恥じろ。





 僕のそんな八つ当たり気味の軽蔑のまなざしを受けて、静寂の広がる部屋の中、ロランドは焦ったように早口で話を続けた。


「……次の時間は、日課の、鍛錬の予定だ」


「……何するんですか?」


「剣の稽古と、魔法の訓練だ」


 返って来た返答は、意外にまともだった。


「……へえー! 私こう見えても剣と魔法にはうるさいですよ」


「なんだその得意げな顔は……」


 ふふふ、一応僕ってゲームの中では伝説の剣を振っていたこともあるからね。……魔法はまあ、うん。……地面から土壁がせり出してくる魔法以外は何一つ使えなかったけど、ギリギリ使えると言っていいと思う。0と1の間には越えられない壁があるのだ。……あの魔法は最低ランクだったような気もするが、気のせいである。




 ……でも疑問。この人、魔法なんて使えるんだろうか。才能とかいりそうなのに。と、だいぶ失礼な感想を抱きながら、僕は立ちあがったロランドの後についていった。まだ熱のあるほっぺたを時折触りながら。








「――火球(ファイアーボール)


 その詠唱とともに、拳くらいの大きさの火の玉がひょろひょろ左右に動きながら自転車くらいのスピードで飛んでいく。5秒くらいして着弾した火の玉は、一瞬火花をあたりにまき散らし、的をちょっと焦がした。……うーん……。すごい、のか? っていう微妙な反応しかできない。一発芸の範囲な気もするけど……


 僕が首を傾げながら後ろで見ていると、それが不満だったらしく、ロランドは文句をつけてきた。


「普通の人間は魔法を使えすらしないんだぞ。もっと敬え」


「……はあ……」


 僕も使えるんじゃなかろうか。普通の人間じゃないと思うよ、今は。……その感想が僕の顔に出ていたのか、ロランドはごそごそと端の方に行き、何かを手に持って戻って来た。……なんだろ?


「……お前も判別してみるか? これで、自分の魔法の枠を測れる」






 そうして出されてきたのは、食パンを2まわり大きくしたくらいの面積と厚さの、灰色の石板だった。……あ、これ知ってる。ゲーム内で、魔法の才能を確認するためにこういうアイテムがあったはず。……確か、使い方は……。


「こうして手を載せれば、自分がどの魔法をどこまで習得できるか、その限界が分かる。ちなみに俺は中級魔法まで使えるらしいぞ。おおよそ1万人に1人の才能と言ったところだな」


 説明台詞乙。やってやろうではないか。僕は台の上に置かれた石板にドキドキしながら手を載せる。石板の表面はつるつるしていて、ひんやりと冷たい。いい判定どうかよろしくお願いします、と僕は心の中で念じながら石板を撫でてみる。



 ……それで、どうやって判別するのかな? 僕がそう思いながらロランドの方をちらっと見ると、彼は不思議そうな顔をしながら何の変化もない石板を覗き込んでいた。


「……通常は、音が鳴ったり、光ったり、何らかの変化が起こるはずなんだが……」


 ――あれ、なんか嫌な予感がしてきた。


「……馬鹿な……まさか、御使いなのに全く魔法が使えな」


 言葉が終わる前に僕がそのまま石板に思いっきり力をかけると、バキバキッと音を立てて石板は綺麗に真っ二つに割れた。この体になってから力だけはやたらあるから駄目元でやってみたけど、意外になんとかなるもんである。でもここまでなるとは思わなかった。


 ……安物なんじゃないのこれ? 手ごたえが発泡スチロールくらいしかなかったけど。……なんだ、だから反応が薄かったのかな。ここまでしないと結果が出力されないとはね。


「……音、出ましたよ? これはどういう判定になるんですか? 私に才能が溢れすぎて測定不能とかですかね」


「……ああ……そうだな……、これは……、どう、なんだろうな……」


 ……あれ……。いかん、めっちゃ気を遣われている。あんな変な質問してくる人に。これではまるで僕の方がおかしい人みたいな……。


「もうちょっとちゃんと神殿で見てもらってきます!」


 居たたまれず、そう言い残して僕はその場を走り去った。あのまま留まっていたらきっと心に深刻なダメージを負った気がする。危ないところであった。






 翌日。魔法の才能がないという診断を神殿で受け、傷心のまま屋敷を訪れると。ロランドが家臣達からつるし上げられ、裁判のようなものにかけられていた。


「御使いを無理やり屋敷の隅の方に引きずっていってるのを見たんです。御使いは真っ赤な顔をしておられました」


「誰もいない訓練場から泣いて走り去る御使いを見ました」






 ほぼ事実ではあるけど、1ついい? ……泣いてない。

現状だと常識人枠がいないので早く街の外に出たい

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