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問題解決のためにはまず現状を把握しよう

 ロランドはこの一週間、屋敷内を徘徊し、使用人を見つけては接触を心掛けたとのこと。頑張ってる人に対してはご苦労、と言ってみたりしたらしい。他にも会話をいろいろ試みたとか。やるじゃん。


「いいですね、その言葉にしていく感じ。なんていっても、言わないと思っててもあんまり伝わりませんからね。私は分かっちゃいますけど。……でも、いいことはこれからもどんどん伝えていきましょう」


 ソファーに二人並んで座って、隣のロランドを見上げて笑顔で褒めるも、なかなかぶすっとしている。こんなに具体的に褒めたのに、何が不満なんだ。


「それで、使用人たちのあの反応はどういうことだ。あまり喜んではなかったぞ」


「うーん、やっぱり急すぎたんですかね……あとはどんな会話したんですか?」


「そうだな。……『こんな安い給料でここまで働くとは大したものだ』と言ったな」


 ……その台詞、前半部分いる?


「あー、そういうところですかねー……なんていうか、思ったこと全部言っていいわけじゃないと思うんです。……あなただって王様に『君、貧乏貴族だけど頑張ってるね』とか言われたら、腹立ちません? まず給料ってお前次第じゃないの、って思うでしょう。あと見下ろされてる感がヤバイです」


 貴族が王様からの給料制かは知らないけど。……とりあえず、僕が発見できた駄目ポイントを指を立てて解説してみる。



 ……ロランドは、ふむ、と大きく頷いて、呟いた。


「なるほど、奥が深いな。以後気をつけるとしよう」


 いや、すっごい浅いとこでつまずいてるぞ。……まあでも誰でも最初はしゃーないよね。僕も一通り失敗しないとうまくいかない方なので、あんまり大きなことは言えないし。僕は差し当たり、直したらいいのでは? と思った部分を提示した。


「……とりあえず口を開く前に大きく深呼吸して、言っていいか考えてみましょうか」


「深呼吸、深呼吸か。わかった、そうしよう」


 うん、素直。そこはえらい。僕も見習いたいくらいである。


 でも、この人、1回全寮制の学校とかに通った方がいいんじゃないかな……今までずっと家庭教師だったらしいし。外に出ていろんな人と交流した方がいいような……。






 僕はソファーに背中を預けて、天井を見上げた。……うむ、領主の屋敷にあるだけあって、ふわふわ柔らかい。体が沈み込んでいくようである。……ふと、自分の足が開いているのに気づき、閉じる。……なんかね、この国は女性はズボンを穿くのはあんまり許されないらしく、僕今もスカートなんだよね。スースーするのが全然慣れない。ゲームだとその辺の感覚はあんまりなかったし。広がった裾をちょいちょい、と引っ張って直しながら心の中で僕はため息をついた。ちょっぴり憂鬱。……ゲームの中で女性キャラを演じるのと、実際になるのとでは次元が違った。今は他の事を考えるという建前で後回しにしてるけど、この現実と向き合うの……正直すごい抵抗あるんだけど……。








 そして、沈黙を嫌ったのか、僕の機嫌があまりよろしくないのを察知したのか。不意にロランドが逆にこっちに話しかけてくる。


「……そういえば、お前って前世のことを覚えてるんだよな」


「はい」


 前世(仮)。最後に覚えてる記憶的には、死んだって可能性が高い、のかな……。うーん、正直、記憶とか人格とか、そういう中身的な部分が全然変わってない気がするから、あんまり前世って感じもしない。ちょっと(?)姿が変わったまま人生が続いてる、って感じ。なのであんまり悲しいとかはないんだよね。


 ……いつか実感するんだろうか。死んでなくてこれは夢、って選択肢もあるからできたらそっちを期待したいけど。





「それで、どんなところだったんだ? この国か、それとも違う国か? どこだったんだ?」


 ……どんなところで、どこにあるのか。僕はどう答えようか考え込んで、首を傾げた。最近の考え事のほとんどはまさにそれだった。

 






 ――ここで、2週間ほど暮らした結論として。……魔法がある、聞いたことない宗教、翻訳しないと聞き取れない謎言語、その他諸々。ここを異世界と仮定してもとりあえずは問題ない気がする。ここが地球上の僕の知らない秘境とかだったら、それはそれで問題なし。帰るのが簡単になるだけだし。



 ……そして、帰るという目標。異世界から帰るためにはどうすればいいのか。……うん、これがさっぱりわからない。そもそも異世界から日本って、繋がってるのだろうか。少なくとも地続きではない気がするよね。現在地と目的地が分からず、ルートも不明。一見絶望的である。



 ……ただ。……僕は異世界からやって来たと話していた、ゲームの開発者の顔を思い出す。ゲームの世界と地名が同じ、ということは、ひょっとしてこの世界からあの人は来たんだろうか? ……そう仮定すると。少なくとも何らかの移動手段があるのは間違いない、はず。ひょっとしたら僕が知らないだけで、日本とこの世界の定期便的なものが出ている可能性だってあるし。



 ……ということで、まずは確認すべく。とりあえずいろんな人に「日本って知ってます?いいところですよ」「こんにちは、突然ですがニンジャって聞いたことありませんか?」などとさりげなく聞いて回ったところ、町行く人々は戸惑いを見せた後、皆なぜか足早に僕の元を去っていった。どうやら少なくとも日本国はここでは浸透していないらしい。



 ……思い返してみれば、聞き方が悪かったような気もする。……いや、どう切り出していいか良くわからなかったからつい……。当たって砕けろの精神で、本当に砕けた感がある。……反省してます。







 そんな、関係ないことまで長々と思い出して黙ったままの僕に……きっと、言いにくいことを聞いてしまったと思ったのか。ロランドはそれ以上詳しいことは聞かず、ただ、しみじみと言った。


「まあどこにせよ。帰りたい、ということは……きっと、いいところだったんだろうな……」


「……ええ。それだけははっきりと、覚えてます」


 そして、僕たちの間になんだかしんみりとした空気が流れた。何も言葉がなくても、その空気を共有できるだけで十分だったと、そう思う。……うん、こういう雰囲気になれるって、この人も結構この一週間で成長したんじゃないだろうか。












「……そうだ、前世が男って言ってた気もするが。トイレとかどうしてるんだお前」


「……あのさ、1つだけいい? 深呼吸は?」


 なんかいろいろ、台無しだった。

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