悔しがり方も人それぞれだったりする
「あたしも自分の得意分野でならすぐアイデアが出ると思うんだけどなぁ……こう、ぱぱっとね」
「ゼカさんの得意分野がそもそもぱぱっと出てこないんですけど……」
「……話を戻していいですか?」
「はーい」
「ごめんなさい」
ゼカさんと僕は下を向きながら、お前のせいで怒られたやろ、とお互い目線で文句を送り合った。それを見ながらトアは大きな溜息をつきつつ、話を続ける。
「それでですね。……まず1つ目。そちらのわたしが、同じ剣を作り出す可能性。これって普通にありますよね。だって同じ人なんですから」
「なるほど」
まあ確かにそうかも。それに僕の世界の魔王様って魔王なんだから、魔力も豊富だし。作れる下地はあると言ってもいいだろう。有力説その1。
「2つ目。……あなたは死んでこの世界に生まれ変わった、ということですが。生まれ変わるって、未来にだけ、なんでしょうか。過去に生まれ変わった、ということは?」
んん? よくわからないけど、過去に生まれ変わるとしたらどうなるんだろう。僕が死んだら江戸時代に生まれ変わってた、みたいなのってこと? えーっと……僕が過去にやってきたということは、まだあの製作者はこの世界にいるかまだ存在すらしてなくて。これから僕の世界に移る、ということか。その時にコピーを持っていったなら、この剣がゲームに存在しててもおかしくはない……? これだと問題は1つ。現代に戻りにくそう。なぜなら時代を合わせないといけないから。……重大にして切実な問題だ。
「3つ目。……まあ、これは2つ目と似ていますが。これから先に現れるその製作者とやらが、時間を遡ってあなたの世界に行った場合です」
うーん、なんで時間を遡る必要があるのかがわからないので、これは保留、かな。可能性で言うと、1>2>3 といったところか。
「わたしは3つ目が1番可能性があると思っていますが」
「えっ、なんでですか」
あれ、僕の予想の真逆なんだけど。……よかった、先走って言わなくて。
「世界を渡ったならきっと時間は、今とずれます。……というのは、めんどくさいので詳細は説明しませんが……違う世界はどうやらお互いくっついているわけではなくてですね。間に、何もない空間というのが存在します。この空間では、どうやら時間も私たちの思っている通りに流れるとは限らないようなんです。世界を移動するためにはそこを渡るわけですから、時間もずれるだろう、という予測です」
「サロナ、今のわかった?」
「ま、まあ。つまり、ずれるっていうことですよね。ばっちりです」
「あたしもそれはわかったよ。でも、何がかはよくわかんなかった」
ま、まあ……たぶん世界を移動する際にどうしても時間がずれるからひょっとして向こうに着いた頃には過去にも戻っちゃってるかも、ってことだよね。うん、まだ僕の方がゼカさんよりリードしているはず。ただ僕の時間移動の知識も9割方某ネコ型ロボットアニメからなのでちょっと自信はない。
……ただ、トアの言う通り、もし時間がずれるなら。世界を渡るという方法では、確実性に欠けるかもしれないな。僕が元の時間、場所に戻るため、には。……さてさてどうしたものか。
僕が黙って考えこんでいると、ゼカさんが興味津々といった感じでトアに話しかけているのが聞こえた。
「それで、何か変わったの? 契約……したんだっけ?」
「ええ、体力が増したことで、できる武装も増えました。ナイフ、ローブ、杖にこの剣と、あとはブーツですかね」
全部知ってる。……それにしても、一般市民なのに魔王と同レベルの武装を揃えてるってこの子やばくない? 絶対武器屋にそんな戦闘能力いらないような……いやでも待て、現代でも商人やポケモンがダンジョンに潜ったりするんだから、もはや職業で判断するような時代ではないのかもしれん。
「あ、そのブーツも武装なんだ?」
「ええ。……これは 自家飛といって、短距離の空間を飛び越えることができるんです。空も飛べますよ」
「……あれ? ブーツって、 天空深處じゃないんですか」
僕の知ってる魔王様と違うの装備してる。瞬間移動と空を飛ぶ、という能力は一緒だから同系統の防具ではあるけど。 天空深處には「短距離」という制限は特になかったから、 自家飛とやらより高性能なはずなのに。……まだ発見してないのかな?
「わたしの持っているのはこの 自家飛ですけど、ひょっとしてそちらのわたしは違うものを装備していたということですか?」
「ええ、確か長距離移動も可能な同系統の武器でした。私もよくピクニックにそれで連れて行ってもらったものです」
「……ふーん……そうですか。……へーそうなんだー、なるほどねー……」
その後、トアはしばらく押し黙った。あんまり動かないので、僕はおそるおそる彼女に話しかけてみる。
「あの……」
「何か?」
ちょっと語尾が鋭く返事があったので、ますます注意深く僕がトアとのコンタクトを試みようとすると、その横からゼカさんが、天真爛漫な笑顔でトアを指さした。
「あ! わかったー! ひょっとしてちょっと悔しいんでしょ?」
「いえ別にそんなことありませんよ。そんなのわたしのと直接比べたわけでもないですから。わたしの短距離の方がそっちの長距離より長い可能性だってありますし」
なんかめっちゃ早口で言ってくる。そしてトアは言い終わった後に顔を上げ、ニコニコ微笑んだ。ただ、表情と裏腹に滅茶苦茶ピリピリした雰囲気を感じる。……なぜそんなことを言うんだゼカさん。合ってたとしてもそこで「はい悔しいです」って絶対この子言わへんやろ。
そんな中、そのゼカさんが自分の罪を棚に上げて。僕の脇を肘で突き、こそこそと僕に耳打ちしてきた。
「ち、ちょっとー! 副隊長怒っちゃってるよ」
「いや、これ怒ってるっていうより悔しがってるというか……えーっと、……強い武器、弱い武器、そんなの人の勝手ですよね。本当に強い武器使いなら自分の好きな武器で勝てるように頑張るべきです」
この場にポケモンを作ってる会社の人間がいたら怒りそうなことを僕は口走る。そしてそれがどうやらトアにはぶっ刺さったみたいで、ピリピリした雰囲気はちょっと和らいだ。いい台詞というのはどうやら世界を越えるらしい。サンキューカリン、サンキューゲームフリーク。
「よくわかんないけど、ピクニックならあたし歩いて行きたいなぁ」
続いてのそのゼカさんの言葉で、トアの雰囲気は完全に普段に戻った。サンキューゼカさん。罪とか言ってすまなかった。僕、これからは色んなものにもう少し感謝しながら生きていこうと思う。
「……あ、よくわかんないといえばさ。契約ってなに?」
「えーっと、私とトアがお互いの力を共有するパートナーになった、ってことらしいです」
「そうなんだ! すごーい! ……あれ、で、あたしは?」
ゼカさんはとってもわくわくしたような顔で僕の方を覗き込んできた。何か今日が誕生日の子どもみたいな表情をしている。いつパーティー会場に案内してもらえるの? っていう感じの。……ただ、ここでの問題は、こちらはパーティーの準備なんて何もしてないというところだ。
「……ゼカさんがどうかしたんですか?」
「あたしはそれにいつ入れてもらえるの?」
「えーっと……その……落ち着いて最後まで聞いてくださいね」
「……え、入れてもらえないんだ!? なんで!?」
まだ言ってないのになぜか察知されてしまった。そして落ち着いてと言ったにもかかわらず、ゼカさんは大いに取り乱す。
「なんか二重契約は無理らしくて……」
「そんなの軽く受け入れないでよ! あ、前トアが踊ってたのって、契約のためだったの!? あたしそんなの知らないで、めいいっぱい応援しちゃったよ!?」
「人のために力を尽くせるのってゼカさんのいいところだと思います。私好きですよ」
「……え、そ、そう……? ならいいか……いやいやよくない! 危ない危ない、誤魔化されるところだったわ」
そう言って彼女は額をふー、とぬぐった。いったい何と戦っているんだ。
「そもそも、そんなに契約にこだわらなくても。私たち3人ってそんなのなくても友達じゃないですか」
「だって3人組なのにそのうちの2人がくっついちゃったらあたし1人余っちゃうじゃない! これからは2人が手を繋いで歩いてる後ろをあたし1人がついていく、みたいになるなんて……寂しい……」
「いや、別にくっついたわけでは」
その表現だとなんか別な意味に聞こえる。別に付き合い始めたわけじゃないんだし。そしてそのシチュエーションで一緒について来ようとするゼカさんの根性はなかなか大したもんだと思う。僕なら絶対2人きりにして消えちゃう。
僕がまあまあ、と彼女を宥めていると、トアが不意にすっと僕の前に出てゼカさんに頭を下げた。……あ、ひょっとしてうまくなだめてくれるんだろうか。サンキュートア。
「ごめんなさい、横取りしたみたいになってしまって。でもこういうのって早い者勝ちですから。悪く思わないでください。これからもわたしとゼカユスタさん、いい友達でいましょうね」
トアは神妙な表情でそう言いながら、なぜか僕とぎゅっと腕を絡ませる。そしてゼカさんの方を見てニヤリと笑った。……あ、これ絶対面白がってる。というか思ってたより僕らの魔王様ってノリがいい。そして間違いなく徹夜明けやこれ。君は一刻も早く寝なさい。
一方、ゼカさんはこっちを見て悔しそうにぐぬぬと何度も地団太を踏んだ。そして、不意にはっと何かを思いついた顔になる。
「待ちなさい! あたしの方が先に会ってたから、早い者勝ちならあたしが優先されるべきだと思うな!」
「あれ、先にってどれくらいでしたっけ……?」
「え、1時間くらい……?」
「もうそれ誤差やろ」
あれやこれや言い合った結果。「3人組のうちの2人が契約していても3人は変わらず親友である」という決議が全会一致で採択され、ゼカさんはしぶしぶ納得した。さっきまで僕が言ってたのとそんなに変わらない気もしたけど、「親友」というワードが彼女の琴線に触れたらしい。まあ親友の響きの特別感はちょっとわかる。
続いて僕が提議した、「副隊長は睡眠をとるべきである」議案も賛成2:反対1で成立した。それでも渋るトアを送っていくべく、僕は彼女の横について歩く。……あ、そうだ。
「しかしトアもけっこうノリがいいのがわかって良かったです。あっちではもう少し魔王魔王してたというか」
「魔王魔王してたとは……それにしてもノリがいいって、どこでそう思ったんですか?」
「いえ、私の腕を取ったところとか。さりげなさ過ぎて、演技力あるなぁって思ってました」
「わたしはたとえ演技でも、好きでもない人の腕を取ったりはしないですよ」
「……え」
僕がびっくりして横のトアの顔を見ると、彼女は前を向いて足を止めないまま、ふふっと口元だけを上げて笑った。
「……冗談です」
「もう、ほら! そういうところも!」
「ひょっとして、ドキドキしました?」
「……今、しました」
それを聞いて、あははは! と今度は声を上げて笑う彼女の頬がちょっと赤くなっているのに僕は気づく。……ほんのりとだから、気のせいかもしれないけど。
そしてそれから黙ってしまった彼女の横を、僕も黙って歩いた。2人の間に何も会話がなくても、なぜか気まずくなくて。僕はちょっとだけ、彼女の部屋が近づいてきてほしくないな、と思った。そんなとき、後ろからギリギリと何か固いものを擦るような音が聞こえてくる。……なんだろ?
僕が振り向いてみると、ゼカさんが歯ぎしりをしながら呪われた亡霊の声みたいなトーンで独り言を言っているようだった。……ごめん、ちょっと置いてきぼりにしちゃった……いやそれにしてもどうしたの!? 僕はそっとその声に耳を傾けてみる。
「……だから、こういうことになるってあたし言ったよね……?」
……あ。
その後、トアを送っていったあとゼカさんの機嫌が元に戻るまで、実にデザート5品を要した。




