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物事には何でも段階というものがある

「……そういえば、今日の領主の息子の用って何だったのさ」


 テーブルで一緒に夕食を囲みながら、エリック君が僕に尋ねてくる。……うーん、何の用だったか。僕は首を傾げて、一言で表現する。


「なんか、契約と称して無理やりに関係を迫られ寝室に連れ込まれそうになりました」


「うわ……世間知らずとは聞いてたけど。頭おかしいよなー」


 ……逆にエリック君が大人び過ぎているような気もするけど。そして、領主の息子呼びな時点で敬われてないのを察するべきだったか。これではいかん。僕が彼を一人前の領主候補に育ててあげなければ。……洗い物をしながら、僕はひっそりと心に誓った。







「ということで! 早速、何が悪かったのか確認して、そこを直していきましょう」


「なんだ、いきなり」


 昨日のへこみ具合が嘘だったかのように今日も椅子で踏ん反り返って偉そうなロランド。そんなだから人望がないんだぞ(直球)。


「とりあえずですね、どうしてみんな弟さんの方がいいのか、それを検証しようではないですか」


「俺には爺やさえいれば十分だ」


 次期領主にしては求めるハードルが低すぎる。住民2人だけの街になっちゃうから、それ。


「まず、あなた個人がどう思われているかです。……好き、嫌いとかは傷つくと思うので、どんなイメージを持たれているか。今から私、新入りとして挨拶回りしてきますから、その時に探りを入れてきます。いいですか? 結果を聞いて、泣いちゃったりしませんか?」


 現状をありのままに把握するって本人には結構きついと思うけど、手っ取り早いし。ちょっと煽ったら絶対乗ってくると思う、この人。そして、あんまりな結果だったらその時は僕の胸に秘めておこう。


「馬鹿にするな! 好きにすればいいだろう!」


 ……ほら。







 ……とりあえず、2時間ほど屋敷を徘徊して、使用人全てに挨拶はできた。変な人はあんまりいない感じ。さすが領主の使用人たちである。……しかし……。


「帰ってきました」


「なんだ、微妙な顔だな」


「……とりあえず発表しましょう。1人1票ではないので、被っているのもありますが。……使用人、全51人から取った『次期領主ってどんな人?』アンケートです!」



《第一回脳内アンケート結果》


・特に興味がない……33人

・目つきが悪い……25人

・無駄に偉そう……17人

・常識がない……15人

・初対面なのに手を握って寝室に連れ込もうとするのが人として駄目……1人




「おい、この一番下って……」


 何が気にくわないのか、咎めるような顔をしてこちらを睨んでくるロランド。ほら、すぐ睨む。そういうところだよ、気をつけたまえ。僕は何食わぬ顔で解説を続ける。


「……全体的に雰囲気が良くない、という印象のようです。あとは周りは黒の割に『特に興味がない』というのが一番多いのが、はっきり言って意外でした。黒なのは弟さんがいい印象だからそっちの味方、ってことでしょうか? ……中身が嫌われてるとかじゃなく、まずあなたがどういう人だか知られていない、という感じです」


「なるほど、確かにあまり使用人としっかり話したことはなかったかもな」


「たぶん怖いんですよ。睨みつけてるから。……もう少し、笑ってみたらどうですかね? 昨日の執事のお爺さんが白だった時なんて、いい笑顔でしたけど。あの時のことを思い出して」


「なるほどな……確かにこのままではまずいというのは分かる。まずは屋敷内を回って、皆の働きぶりを見てみることとしよう」


 ロランドは決意したように、立ち上がり、部屋の出口へ向かった。……この時に、リハーサルでもして笑顔を確認しておけば、後に悲劇は起こらなかったのではないかと、僕は後悔することになる。








「どうだ、この3日、笑顔を絶やさず皆の仕事場を視察してきたぞ」


「おお、そういう素直なのはいいですよ! ではでは、行ってきます!」


 フットワークが軽いのはいいね! 僕も早速回って意見集約してこねば。







《第二回脳内アンケート結果》


・笑顔が怖い……41人

・目が笑ってない……27人

・悪いことを企んでそう……22人

・何かにとりつかれてそうな笑み……19人

・契約とか言って関係を迫るのが悪かったと微塵も思っていないのが駄目……1人




「おい、一番下」


「うーむ、バラつきは収まったものの、好転しているとは言い難い……」


 僕は口に手を当てて考え込む。まあ確かに……今までずっと仏頂面だった人が急に笑顔で近づいてきたら、僕なら心の病気を疑っちゃうかも。ちょっと急に変えすぎなのか。今更だけど。


「ちょっと笑ってみてください」


「……こうか」


 ニィ、と笑ったロランドの顔は確かにそう思われるのも仕方ない感じだった。目が笑ってないし、口元は引きつってるし。『どひゃー』という声が胸の内で聞こえた気がする。


 ……なんか推理物のドラマでトリックがバレた後の真犯人がよくこんな不自然な笑顔をしているような。何かにとりつかれてそう、という表現はよく言ったものである。……今気づいてもどうにもならないけど。


「……まあ、向こうの印象は置いておいて。どうでした? 見回ってみての感想は」


「たくさん人がいたな」


 お、おう。そりゃそうだ。……でも、きっとそれすら知らなかったのか。自分の屋敷にどれだけの人が働いてるか。気にもしてなかった。そりゃあ向こうもこっちに興味なんて持たないだろう。


「……あとは何かありません?」


「皆忙しそうに働いてたぞ。感心した」


「そういう人たちがいるから、お屋敷の生活が成り立ってるんですよ。それを見られたのは、良かったです。……あ、そうそう。私明日からちょっと神殿の方で用事があって、次来れるのは1週間くらい後になりそうです」


「その間、どうすればいい?」


 いや、普通に生活しとけばいいと思うけど。うーん、でもせっかく周りに興味を持ちだしたんだし、それは続けてもらった方がいいのかな?


「……次にどんな発見があったか私に話すのが宿題、ということにしましょうか。使用人の方々の邪魔をしない範囲でもう少しいろいろ見回るのはいいかもしれませんね。……無理に笑うのは、やめておくとして」


「……わかった」


 帰り道、後ろを振り返ると、扉を開けていそいそと廊下の逆側に歩いていくロランドの姿が見えた。……素直ではあるんだけど。行動力もあるし。



 


 ……そして、それから1週間ほどして、僕は執事のお爺さんに連れられ、使用人の人たちに正式に挨拶しに回った。一応付き人扱いになるから、ということで。その際に伝わって来た、使用人の方々の心の内が、ロランドの1週間の状況を何となく僕に教えてくれた。







《第三回脳内アンケート結果》


・最近のロランド様はどこかおかしい……50名





 ……何となく、責任を感じた。

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