最初のイメージに比べていい人かも、っていうのが適用されるのにも限度がある
そうして僕らが森の中をさらにしばらく進むと、今度は大きな毒の沼地が右手に現れた。景色の中になんだか急に紫色が多くなる。自然界でもこんな色なんだ。どういう成分なのかはわからないけど、明らかに健康に悪そう。
「お、向こうに何かあるな」
そう言うロイの友人の言葉に従って目線を横にスライドしていくと、毒の沼地に囲まれた島みたいな場所に、剣っぽいのが落ちてるのが見える。……毒の沼地に落ちた剣士があそこで力尽きたとかそういうやつだろうか。30メートルくらい離れてるので、僕が飛んでもちょっと届かなさそう。
「おい、ちょっと取ってきてくれないか。ああいうのは業物なことが多い」
ロランドがそう言って、僕の袖を引っ張ってきた。……うーん、言わんとしてることは分からないでもないけど。首を傾げながら僕はひそひそとまた耳打ちした。
「ここに来た目的って覚えてます? 止めといた方がよくないですか? 親交深めるために来たんですよね?」
「何を言ってるんだ。いいんだ、早く行け。俺のいいところを見せるチャンスじゃないか」
友達作りの場で使用人を毒の沼地に飛び込ませるって、むしろ印象よろしくないんじゃない? と思ったけど、ご本人が行けというならもう仕方ないか。ロランドがもし僕を突き落としてきたらもうカバーは不可能だし。でもなぁ……。僕はまじまじと紫色の沼地を眺めた。
「まあいいんですけど、服が汚れないですかね……?」
「気にするところそこなの!? やめて!!」
そのクララさんの台詞が聞こえたのは、飛び込んだ僕が沼に着水する直前だった。あ、やっぱりやめといた方がよかったんじゃ……。
そして指示通り毒の沼地を泳いで取ってきた剣はそこそこ高く売れるものだったようで、ロランドはご満悦だった。……ただ、メンバーの親愛度は平均でだいたい-100。……おお、もう……。
それから魔物を倒しながら進み。再び広場のようなところに出たので、そこで休憩しながらみんな各自持ってきた軽食を食べることになった。と、ロランドがなぜか自分のお弁当をいつまでたっても出さず、僕をちょっと離れたところに引っ張ってくる。なんだろう、と彼の顔を見ると、ちょっと焦っているようだった。あ、もう用件わかった気がする。い、いやでも。そんなまさか……。
僕の内心の焦りをよそに、ロランドはなぜか胸を張って言った。
「……実はな、弁当を忘れた」
「あんなに分けてやらんぞとか言ってたのに……嘘でしょ……」
「で、だ。お前のをくれ。お前は食べなくても大丈夫なんだし」
……僕が言い出したならいい話になりそうだけど、貰う側が言い出しちゃったらそれただのたかりだから。……まあ、今日だけ優しくするって決めたからいいか……。それに僕が渡したとしても、使用人だと思ってる他のみんなは、ロランドのお弁当を僕が運んでたとしか思わないだろうし、大丈夫かな……?
ところが、僕が自分のお弁当をロランドに渡すと、なぜか他のみんなからロランドへの視線がきつくなる。その厳しめの雰囲気は、僕ら2人が戻った後も続いた。そこでみんなに対し、お腹いっぱいなので私自分のお弁当持ってこなかったんです、と僕はニコニコ笑って弁解を試みてみる。ところがそのたびになんだかロランドへの親愛度が信じられないほど大幅に下がっていったのですぐにやめた。まるで奇声を上げながら全員の弁当片っ端からはたき落としていったみたいな親愛度の落ち方だった。……今ここでいったい何が起こってるんだ。
そして、僕1人だけ何も食べてないのを気にしているのか、みんなやたら自分のお弁当を分けてくれようとしてくる。1口ずつ貰って、後は辞退したけど。……でも確かに1人だけ食べてない人がいると食べにくいかも。
僕は「日向ぼっこしてきます」と言い、ちょっと離れたところにある陽だまりに座って1人休憩することにした。これで空腹もばっちり満たされるし、気を遣われずに済むし。何より改善の道が見えないこの状態がつらい。誰か助けてほしい……。
ところがしばらくしてこちらにもクララさんがわざわざ寄ってきて、隣に座り、お弁当を差し出してきてくれた。なんか最初のイメージに比べてこの人めっちゃいい人だわ。
「……ねえ、あなたって普段どう? 辛くない? 助けてほしいと思うことってない?」
「え! ええ、まあ……? あ、いえ。幸せいっぱいです!」
さっきの僕の気持ちが聞こえてしまったのかと思って一瞬びっくりした。たぶん違うな。
……けど、幸せそうな人にそんなことを普通は聞かないだろう。なら、僕が不幸そうに見えてる? そこで僕はロランドの株を上げるためにも、一生懸命幸せアピールをしておいた。するとクララさんのロランドに対する親愛度はなぜか思いっきり下がる。……なぜ……。もう立って歩いてるだけで一歩ごとに親愛度減っていくやろこれ。幸せの帽子の逆バージョンみたい。生まれながらにして呪われた存在か何か?
「ほら、もっと食べなさいよ。お腹減ってるでしょ」
「あ、いえ。お気遣いなく。私、こうして日に当たってるとそれだけでなんだかお腹いっぱいになるんです」
そう僕が笑顔で答えると、クララさんは「わびしい子……」となんだか悲しそうな顔をした。いや、そこはエコな仕様だと喜んでほしいところなんだけど……。
そしてロランドへの平均親愛度は遂に未知の領域である-200を突破した。……僕の受け答えが原因ではないと信じたい。
「ねえ、あたしって秘密は守れるの」
……巨大な石像をみんなの魔法と僕の物理でバラバラにした帰り道。ロイと友人がロランドとなぜか急に仲良さそうに話すようになり僕は必然的にクララさんと並んで歩くことになった。すると、突然クララさんがそんなことを言い出す。
「それでね。いつもあなたはあんな扱いを受けてるんじゃないかって思うんだけどね……辛くなったら教えてよ。あたしが何とかしてあげるからさ」
なんだか心配してもらってるみたいだった。よしよしと頭を優しく撫でられる。僕は前を歩く男3人を見ながらなんとなく予感した。……もうロランドって立場回復無理なんじゃなかろうか。




